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アノコノエガオノタメダケニ

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アノコノエガオノタメダケニ

それは煌々と輝く太陽が目に見えて西に片寄り始めた頃、3人の少女が草原に伸び整えられた一本道を、規則正しくただ黙々と真っ直ぐ歩み続けていた。

淡い青髪のポーカーフェイス、真壁瑞希。
双子のお転婆娘、双海真美。
そんな2人の後方からとてとてと俯き表情が読み取れない少女、周防桃子。
そして瑞稀に抱き抱えられているのがその桃子と仲の良かった少女、中谷育――

―――の遺体。

育の遺体を見つけたのは定期放送が放送されたその少し後、キャンプ場のすぐ近くで発見した。
火傷によって爛れた皮膚と爆発物の破片と思わしき無数の破片、その他の外傷、見つけた遺体からはこの殺し合いの過酷さと非情さが醸し出されていた。
放送によって殺害されていた事は知っていながらもその無惨な亡骸を見た時は酷く心を締め付けられる感覚に襲われた。
そんな彼女の遺体に鞭を打つような事をして本当に申し訳ない気持ちになる。

果たして懺悔した位で許されるかどうか……………………
ひょっとしたら、かのキリストの様に十字架に架けられても許してはもらえないかもしれない。

それほどまでにこの無垢だった少女を安眠させないのは罪深い事だと認識している。
ついてきている桃子の反応を見ても明らかだ。
天空橋朋花と別れた後、ずっと俯いて目を伏せてしまっている。道中、心配で何度か話を振ってみたが、返ってくるのは事務的な生返事だけだった。
煩わしい想いをさせてしまったかもしれないと途中で会話を打ち切ったが、その後も何度か気に掛かり後ろを振り向いた。
だから知っている。彼女は時折自分の手の中で眠る育の遺体を一瞥し、何とも形容しがたい表情を浮かべていた事を。
形容しがたいからこそ、この非道とも取れる行いが許されないものだと分かる。

しかし例え許されない行いだとしても、彼女、瑞希はやらなければならない。
この殺し合いに終止符を打つ為に。
現在、瑞希の率いる御一行はこのデスゲームの根本を担っている首輪の爆破解体をするべく、G-8地点にある研究施設へと向かっていた。
そこで、抱き抱えている育のもう恐らく機能していないであろう首輪を解体し、その仕組みと構造を解明し首輪を外す。成功すればもう不毛な殺し合いに身を投じる必要はなくなる。
このデスゲームにピリオドが打てる。
成功しなくてもきっとなんらかの成果は得られる筈。

瑞希はそう信じ、そして育の犠牲を絶対に無駄にしない為に、前を見据えて力強く、足を進めていく。
己が足を動かしているのが例え無謀な渇望だと理解していても。

瑞希が決意を胸に一歩一歩歩を進めている横で、真美は複雑な表情で瑞稀と桃子の様子を伺っていた。

一向にこちらと会話らしい会話をしない桃子。顔を伏せている所為でその表情からは感情を伺う事は難しい。
初めの内は桃子を気にかけて話を振っていたが、途中から無駄だと思ってしまったのか話かけるのをやめてしまった瑞希。元々ポーカーフェイス気質の彼女からでは横顔が見えていてもその感情は読みとれない。

何が言いたいのか。
有り体に言って真美は大変気まずい状況下にいるのだった。

桃子と瑞希の意見が対立しているのは誰が見ても明らか。桃子が自分の意見を譲歩してくれたから首輪の解体を進められるにしてもこの張りつめた空気は正直勘弁してほしい。
こんなに気まずい板挟みにあうのは生まれて初めてだ。
ライブの意見が対立したってここまでピリピリしないだろう

ここまで張りつめるのもこの場合は当然と言えば当然だ。
人の命が関わってくるのだから。

だがそもそもの前提として、真美は育の遺体を運ぶことに賛同した訳ではない。
それがこのゲームを終わらせる為の行為なんだと分かっていても遺体を粗末に扱うような真似は、医者の娘である彼女からしたら納得いく理由があってもやってはいけない事だと認識している。

いや、これはただの詭弁だ。本当はこの張りつめた空気を作り出す粗品をこれ以上持っていてほしくないだけだ。
瑞希にとっとと意見を変えてもらってさっさとそれを捨ててほしいのだ。

首輪を外せばゲームが終わるという『先』の事よりも、息苦しい『今』への対応を真美は考えてしまっていた。
それも無理からぬ、真美はまだ中学1年生の子供だ。精神年齢だけで言えばここにいる誰よりも幼い。
ここが殺し合いの場だという事も、育が死んだという事にも、そもそも実感が湧いていない節がある。
故に彼女は目先の事しか見えていない。この空気をなんとかしたい。それだけ。

いつものようなふざけた悪戯やスキンシップをしても、瑞希はともかくとしても桃子には完全に逆効果になるだろう。
もう何がトリガーになってこの均衡が崩れるか分からないんだ。
均衡が崩れるにしても良い方向に転んでくれなければ気まずさはより一層大きくなってしまう。
気まずくなるにしても、自分を巻き込まないでほしい。2人で勝手に解決してほしい。
故に真美は2人の様子を伺っている。決して自分がトリガーにならないように。

もうこうして俯いたまま歩くのはどれ位になるんだろう?
そう疑問を覚えたところで、桃子は漸く顔を上げた。

前に見えるのは2人の女性、瑞希と真美。

それと瑞希に抱き抱えられた育。かつて仲の良かった少女。今は物言わぬ遺体へと変わってしまった親友。
その顔は爛れてしまいしっかりと把握出来ないものになっている。
きょとんと間抜けに口が開かれているようにも見えるが、驚愕と恐怖に顔を歪めているようにも見える。
分かる事は、彼女は既に死んでしまったという逃れようのない事実のみ。

瑞希がそんな育を連れて行くなどと言った時、反射的に反撥してしまい、結果この時間まで腫物を触るように彼女に接してしまっていた。
その結果、彼女はこちらに気を遣って話をかけてこなくなった時からずっと考えていた。
話をかけてくる人間もいなかったのだから、葛藤する時間は掃いて捨てる程存在した。
思考して葛藤した……

自分は大人だ。だから分かっている。
瑞希の行いが、世間的に許されないものでも、少なくともこのゲームにおいては一概に間違いではない事なんて分かっている。
寧ろ彼女がやっている事はこのゲームを終了させるという論点において、酷く合理的かつ賢明な判断だ。
道理に適っている。

しかし、人間とは道理や合理より先にまず感情が優先される。
育を、かつての親友をそんな風に、まるでこのゲームを終わらせる為の道具のように扱われる事が、どうしても我慢出来なかった。
だってそれではまるで、育が死んだ事が良しとされているみたいに思ってならなかった。

瑞希には感謝している。
怯えて蹲っている事しか出来なかった自分をあの旅館から連れ出してくれた。
それからずっと自分を守ってくれて、
要望を聞き入れてくれて、
側にいてくれていた。

そんな彼女に劣悪な感情を抱いてしまっている。
そもそもに対して瑞希が育に粗相を働いていたとしても、
彼女を責めるのはお門違いなんだ。

薄情かもしれないが、見つかった遺体が育でなければ、
例えば放送で呼ばれた別の誰かだったら、自分はここまで反撥しなかったのではないだろうか。
抵抗はあるかもしれないが、仕方がないとその抵抗を一蹴したのではないだろうか。
我ながら最低だ。
好きな人が使われるのは嫌だけど、自分とそこまで仲の良くなかった仲間は使っても構わない。
自己中心的な我儘。
これでは子供だ。笑えてくる。
いつも大人だ大人だと豪語している自分が、今この瞬間、この島において誰よりも子供なんだから。
肉体的にも。精神的にも。そして何より年齢的にも。

失笑が口から洩れそうになるのをすんでの所で抑える。
ここで失笑でもしようものなら、前方にいる2人も流石に黙ってはいないだろう。どう考えたって自暴自棄になったようにしか見えない。

これ以上の心配を、瑞希に掛けたくはない。ただでさえ現在進行形で気を遣わせてしまっているのだから、せめてこれ以上迷惑を掛けないようにしよう。
瑞希の決定を受け入れよう。

漸く、桃子の中で折り合いがついた。
そうと決まればまずはこっちから話を掛けなければ、
取り敢えず育の事についてはもう怒ってない事を言わないと。
そう思い盗聴防止として使っている端末を手に取り謝罪を打ち込もうと画面にタップしたその時、
この殺し合いの場にそぐわない矢鱈耳障りに聞こえる鼻唄が―――



――前方から聞こえてきた。

後ろの桃子がポケットから端末を手に取る動作をしたその時、瑞稀が目撃したのは前方からこちらに鼻唄まじりにニコニコと笑って歩いてくる北上麗花の姿だった。
楽しそうに、今にもスキップでもしてしまいそうな程の笑顔。

彼女は元々明るい性格で、悪い言い方になってしまうがどこか抜けているところがある女性だ。
ああして愉快でいる事はそんなに珍しい事じゃない。
至極当たり前の等身大の麗花その人だ。

だがしかし、瑞稀はそんな麗花から何か妙な雰囲気を感じ取った。
いつもと同じなのに、
何故かおかしく見えてしまう。
いや、おかしいのだ。
こんな状況下の中で、『いつもと同じ』でいられるなんて少なくとも正気の沙汰ではないように思える。

「ふふふ~ん♪あ、瑞希ちゃんだぁ~♪」

こちらに気が付きトコトコと浮き足立っていた足取りがより一層軽くなったようにこちらに早足で駆けてくる。

「あぁ!麗花お姉ちゃん!!ヤッホーゥ!」

内心訝しげに麗花を観察している瑞希とは対照的に、
隣で歩いていた真美は嬉しそうに麗花に向かって手を振る。

今の真美にとって麗花はこの張りつめた現状を有耶無耶にしてくれる救世主に見えた事だろう。
少なくとも麗花から醸し出されている違和感には全く気付いていない。
麗花ならばこんな殺し合いの場でも明るく接してくれるとでも思っているのだろうか?

残念ながら瑞希はそんな楽観的にもの見る事は出来ない。
いや、出来なかった。
ちらりと後ろを振り返ると桃子も瑞希同様、麗花を怪訝そうな瞳で見つめていた。
こちらからの視線に気が付いた桃子は一瞬だけ気まずそうに目を逸らしたが、
すぐにまた目を合わせてアイコンタクトをしてくれた。

(何か様子がおかしくない?)
(それは私も感じています。まだなんとも言えませんが……取り敢えず、警戒は怠らないでください)
(……わかった)

完璧に分かった訳ではないし、自分の意図が伝わったかも分からないが、大凡こんなやり取りをし、また前方を見やる。

麗花は変わらずニコニコと笑いながら自分達の元に向かって来る。
真美も早く合流しようと足を速める。

「って、ありゃ?ミズキンどったの?」

「…………」

が、進めるどころか隣で足を止めた瑞希を見て少し前に出た真美も反射的に足を止めた。
そこで遅蒔きながら気が付いた。ポーカーフェイスの瑞稀の表情が少し強張っている事に、後ろの桃子も右ポケットに手を突っ込んで立ち尽くしている事に。
どうしたのだろう?真美は状況を察せないままに小首を傾げる。

「あらぁ?」

前方からの声で真美は再び視線を前に向ける。
先程までこちらに向かっていた麗花の足はもう5メートルもない所で止まった。
さっきまでの笑顔が少しだけ崩れ、瑞稀の手に抱かれている遺体を凝視し、

「あ~育ちゃんもいるねぇ~♪育ちゃんはお昼寝中かなぁ?」

そう変わらぬ笑顔で答えた。

「……………………え?」

ここで、真美も漸く、麗花の違和感に気が付いた。
何を言ってるんだろう?寝てるって言ったのかな?そんな訳ないよね?
麗花の言葉が信じられずに頭の中で先程の言葉をなんとか別解釈しようと脳を働かせる。
だが、結果は変わらない。

「何言ってんの……麗花お姉ちゃん」

誰が見たって分かるじゃん。そんなの一目瞭然じゃん。
育が死んでるなんて事、誰が見たって明らかじゃん。

真美の思考がそこで止まる。いや、思考する事を脳が拒否する。
ボロボロの育の遺体を見ても尚ニコニコと笑う麗花の顔が、えらく不気味に見えてきた。

「……寝ているんじゃ、ありません」

「ん~?」

「……死んでいるんです。彼女は」

本当に何も分かってないのであろう麗花に、瑞希は端的に事実のみを伝える。

「え~そうなの?へ~残念だねぇ」

「っ……」

事実を知っても変わらずニコニコと笑ったまま、まるでよくある事のような気軽さでそう答えた麗花を後方の桃子が、なんだその物言いは、育が死んだ事に対してなんとも思わないのか、そういう思いを視線に込めながら睨み付ける。

「あなたは「それで?育ちゃんを■したのは瑞希ちゃん?」!!?」

苛立ちから視線だけでなく言葉も投げかけようとした桃子の言葉を遮断し、
麗花は育殺害の犯人の確認にかかる。
言葉の一部分が何やら聞き取り難かったが、
瑞希が思っている通りだとしたら、それが全くの濡れ衣だ。
このまま黙っていては誤解されてしまう。

「え、い、いいえ、私では「そういえばこれから皆はどこに行くつもりだったのかなぁ♪」

問いかけにしどろもどろになりかけながら、なんとか口を開いたその言葉も、しかし麗花は遮断する。
もう聞く必要はないと言うように。

「…………これからですか……これからこの先にある研究所に行こうと思っています。そこで「研究所に行くの?」

さっきの問いかけとは関連性のない質問にまた戸惑いながら答え、さっき弁解出来なかった育の事もここで話そうとした時、
不意に麗花の声のトーンがさっきまでの明るい物言いとは違い急激に下がっていく。
顔は俯き瞳は見えず、辛うじて見える口元は、なにやらブツブツと独り言を呟いているように伺える。

「研究所に行くって事はぁ、伊織ちゃんの笑顔を奪うって事だよね?」

「はい?水瀬さん…………ですか…………」

「伊織ちゃんを傷つけるって事だよね?」

どうして、そこで水瀬伊織の名前が出てくるのだろう。それに笑顔を奪う?傷つける?
浮かび上がった新たな疑問も――――

「じゃあ、■すね♪」

パァン
その渇いた音に掻き消された。

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

「レイカァー!!いるなら返事してヨー!!!」

研究所から飛び出して来た島原エレナ。
彼女は行動を共にしていた麗花の探索を行っていた。
殺し合いの場でこんな大声は命取りになるのだが、
しかし、エレナは現在麗花を探し出す以外の事に頭が回っていなかった。
麗花を見つけて伊織と仲直りをさせてあげたい。
その清らかともいえる想いだけが彼女を突き動かしている。
要するにエレナもまた、先の事を考えられるタイプではなかったのだ。
目先の事しか考えていない。視野の狭い短絡的行動だった。

「どこにいったのカナァ・・・」

そもそもこっちの道に向かったかどうかも怪しい。
もしかしたら反対方向に向かってしまっている事だって十二分に考えられる。
でも、そんな彼女の考えも、一瞬で消え去る。

パァン

「!!?」

空に鳴り響く銃声。
それも、自分はこの銃声に聞き覚えがある。
そして、その所有者が誰なのかも。

「!レイカー!!」

エレナは走り出す。

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

桃子は何が起きたのか分からなかった。
突如、空まで響く轟音。
麗花がいつ取り出したのか手に持っていた銃。
そして、その場に崩れ落ちる――――

「あっ…………かぁ……??」

―――真美の姿。

真美の脇腹の辺りからじわじわと尋常じゃない血が滲み地面を赤黒く染め上げていく。
何が起きたのか、真美自身も分からないでいる。
自分の腹から何が出てきているんだ?血?なんで?どうして?
疑問が頭の中を駆け巡る。
……撃たれた?と、やっと脳が自体に追いつき疑問が解けた。
そして最初に溢れてきたのは――

「がぁ……かは………あぁ、ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

味わった事のない激痛。
吐血しながら悲鳴を上げ、苦痛から少しでも逃れようと
うつ伏せの状態から仰向けに反転し身体を仰け反らせる。

彼女の斜め後ろに立っていた瑞希もその光景にただ目を見開いて茫然と立ち尽くしている。

「あれぇ?瑞希ちゃんを狙った筈なんだけどなぁ?」

当たらなかった理由など明らかだ。
麗花は拳銃を横薙ぎに抜刀するようにして発砲したのだ。
漫画じゃあるまいしそんな半端な撃ち方で狙い通りの標的に当たる筈がなかった。
そんな事など気が付かず、狙いが外れた事に小首を傾げる。
その間抜けとも取れる顔に疑問こそ浮かんでいるにしても、
仲間を撃った後悔や罪悪感は見て取れない。

「まぁいっか♪一緒にいるって事は真美ちゃんも伊織ちゃんの笑顔を奪う悪い子って事なんだから、結果オーライ♪」

「!!周防さん!走って!!」

「!!」

麗花のこちらを完全に悪と決めつける狂気的発言を聞き、
交渉や説得が不可能と断定した瑞希はほぼ反射的に後ろでへたり込んだ桃子に逃走を促す。
しかし、促された桃子は走るどころか立ち上がれずにいた。

(こ、腰が…………)

腰が抜けて動けない。
思えば、ここにいる彼女らは誰もまだ人の殺人殺害を受けた事がなかった。
結果、初めて目の当たりにする殺人という恐怖に桃子は心身ともに震えてしまったのだ。
頭では分かっている。早く逃げないと次に撃たれるのは自分かもしれない。

(お願い、動いて、ねぇ…動いてよ!身体!)

そう願っても身体は動かない。
今迄苦楽をともにしてきた身体がまるで自分のものじゃないような感覚に襲われる。
そしてなにより、身体が動かない以前に目の前の恐怖対象から目を離すのが怖い。
目を離した瞬間、撃たれてしまうのではないかと。

「きゃ!?」

突如桃子の身体が浮き上がる。
いや、抱き抱えられる。
桃子が麗花に目を奪われている間に育を原っぱに寝かせた瑞希が桃子を抱き抱え、
整った一本道を無視して草原へと走り出した。

「あ!もう逃げないでよぉ」

パァン パァン

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「っ!」

二発の弾丸が瑞希達に向かって放たれる。
内一発は見当はずれな方向へいき、もう一発は瑞希の左足を掠める。
痛みに顔を歪める瑞希だったが立ち止まらずに対象から少しでも離れようと原っぱを駆ける。
ただでさえ遮蔽物の少ないこんな所でさらなる追撃を受ければ一溜りもない。
そう冷静に判断した瑞希は、後ろを振り返らずただ一心不乱に走り抜ける。

それとは対照的に冷静さが欠けた桃子は悲鳴を上げる。
発砲された瞬間こそ目を瞑ってしまったが、それでも麗花を目視し続けていた。
桃子達に向けていた銃口は、麗花の近くで死んだように横たわっている真美へと向かう。

「……エ?」

それと同時に、第三者が介入した。島原エレナ。
銃声を聞きつけ駆けつけた彼女は躊躇なく銃口を真美に向ける麗花を見て固まってしまう。

激痛により意識が曖昧になって来ていた真美だったが、
眉間に銃口を突き付けられた事に気がつき、
シャットアウトしかかっていた意識が恐怖によって強引に戻される。

殺されてしまう。助けて。
そう思い側にいる瑞希に手を伸ばす。
しかし、そこに瑞希はいない。
近くに目視出来るのは育の遺体のみ。
どこに行ったのかと視線を遺体から更に奥の方へと向けると、こちらに背を向け走り去っていく瑞希の姿を目撃した。

走る瑞希は全く真美を見ていない。
声が上手く出せない真美は抱き抱えられている桃子に助けを求めるよう手を伸ばす。

助けを求めた桃子を恐怖に顔を歪めながら何か大声を出そうと口を開いている。
良かった。気づいてくれた。
真美の中で安堵が生まれる。これで助けてくれる筈だと。

「エレナさーん!!」

えれなっち?
真美が桃子から視線を外す。
今の今迄気づかなかったが、麗花の少し後ろに真美を見下ろすエレナがいる事を確認した。
あ、なるほど。えれなっちに助けてもらえばいいのか。
得心のいった真美はエレナに救いの目を向ける。

「走ってぇー!!!」

しかし、真美の考えは間違っていた。
絶叫とも聞き間違えそうな程声を荒げた桃子の叫びを聞き
我に返ったエレナは桃子の言葉通り真美を置いて瑞希の方に全力疾走する。

(え…………嘘…)

見捨てられた。走り出したエレナに、そして走るように催促した桃子に。

「あぁ………」

感覚が狂ってしまったのか、激痛による痛みは薄れ、等価交換で訪れたのは澱んだ絶望感。

「あぁぁぁ…………」

痛みでは流さなかった涙が、頬を伝って地面に滴る。

「エレナちゃん。あんな悪い子達の言う事聞くんだ…………エレナちゃんも悪い子だったんだね」

麗花は冷たい声と視線をエレナに投げつける。
最も、真美から銃口は決して離さない。

「ふふっ♪エレナちゃん達は後ででもいっか、取り敢えず悪い子の1人をやっつけられる♪伊織ちゃん喜んでくれるかなぁ」

真美の傍にいるのは、もう自分を撃った麗花1人。
その1人も真美の事などまるでお構いなしに自分本位にニコニコと、引き金に指を掛ける。

「あぁ………やだぁ」

溢れる涙、言いようのない絶望。
真美の、13歳の心を折るには充分過ぎる状況下となった。

「ぐすっ……やだ、やだやだやだぁー!いやだよぉ!たすけてぇー!ごろさないでよれいがおねぇぢゃーん!!」

心が折れた真美がやった行為は命乞い。
さっきは激痛で出なかった声も絶望というスパイスによって出るようになっていた。
当然、目の前の麗花に命乞いなど無駄だろう。
だがもう真美にはそれ以外の選択肢もなかった。
死にたくない。その一心で、真美は自身を撃った仇に懇願する。
最もここで麗花の考えが変わっても既に撃たれた脇腹の出血量は異常値に達しっている。
出血多量で死ぬのは時間の問題だろう。

早く撃たれて楽に逝くか。
ほっとかれて苦しんで逝くか。
どちらにしてももう真美に生きるという選択肢は奪われている。

もしも、銃口を向けられたあの時何も考えず、何も感じずそのまま意識を手放してさえいれば、こんな絶望に身を染める事もなく逝けた事だろう。
死しかない選択肢を選ぶこともなく、楽に逝く方に転べただろう。
もしも真美がこの時、既に生きる事を諦める事が出来ていれば無様に命乞いなどせずに、楽にしてほしいと思っただろう。
しかし、真美は生きる事を簡単に諦めてしまえる程人生に絶望など出来なかった。

楽しかった思い出はまだ綺麗なまま、狂気的な発言を耳にこそしたが、実際に誰かが誰かを殺すところなど見ていなかったし、やはりどこかでやる筈がないと達観してしまっていたのかもしてない。

そんな真美の思い出も達観もくだらないとでも言うように、麗花は真美に告げる。

「ふふ♪だーめ♪」

死刑宣告を。

「やだぁ!やだよぉぉ!たすけてよー!みずき!!ももこ!!えれな!!あみぃたすけてぇぇー!!!」

自分を見捨てた者の名前を叫び。
ついには等々この殺し合いの場で会えなかった双子の片割れにさえ助けを求める。
殺されたくないと。
こんな人を殺す事をなんとも思わなくなってしまった人間に引導を渡されたくないと。

「バイバイ♪真美ちゃん」

パァン

さっき呼んだ双子の片割れも、既にその域に達している事を知らずに逝けたのは――
唯一の救いではないだろうか。

【双海真美 死亡】

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

エレナは走っていた。
前方に見える背中を追って。

自分が駆け付けた時、その場にいたのは横たわった真美とそれを見下ろす麗花の姿。
目の前の光景に茫然と立ち尽くし、それから程なくして桃子の声を聞き走り出した。
こちらに助けを求める真美を置いて。

どうして、逃げたりした?
幾ら頭が回っていなかったからと言って、桃子の声が聞こえたからと言って、麗花を止める選択肢だってあった筈だ。
丸腰の自分が麗花に勝てる可能性なんてないに等しいかもしれない。
それでも、止めるべきだったんじゃないのだろうか。

分からない。
でも、今のエレナに渦巻いてるのは、言いようのない罪悪感だけだった。

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

敵に遭った。
こちらに殺意を向ける。明らかな敵だ。
敵に遭ったら容赦しない。
あっちがその気ならこっちだってそれ相応の対処をしてやろうと身構えていた。

…………それで?

この結果がこれか。

敵に怯え、動く事も出来ず、迷惑をかけまいと思っていた彼女の足手まといになり、助かるかもしれない少女を置き去りにするよう促した。

逃げる時でさえ、自分が盾になるよう配慮した彼女。
瑞稀の足から血が滴り落ちる。
この傷も、自分の所為だ。

あぁ、

なんだ、

私が抱いた覚悟なんて―――――











―――――――所詮こんな迷惑なものでしかなかったんだ。


【1日目/午後/G-7】

【真壁瑞希】
[状態]健康
[装備]金鎚
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:皆で帰るぞ……えいえいおう
1:周防さんと一緒に他の人を探す
2:とりあえず、北からは離れる。でも本当は止めたい
3:周防さんがおかしい……気のせいなら、いいのですが
4:北上さん、一体……

【周防桃子】
[状態]健康?
[装備] プラスドライバー
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:死にたくない
1:瑞希さん達と一緒に行く
2:『敵』と出会った……でも

【島原エレナ】
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:二人を仲直りさせるヨ!
2:レイカ……なんで。
3:なんだか、かなしいヨ




■■■■■■■■■■■
みず■ちゃ■■■の後■■■研究■■行く■■■■てたなぁ。
■そこ■■■■織■■ん■いる■■。
私■■■■■守■■■■■■■悪■子■■■■■■やっつけ■■■■■■■■■■■■。



■■■■■♪

【一日目/午後/G-7】

【北上麗花】
[状態] ■■
[装備]レミントン デリンジャー(1/2)、無線機
[所持品]支給品一式、.41shortリムファイア弾(8)、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本: ■■■■■■■■■■■■
1:■■■■■■■■■■■■
2:■ちゃんが死 ■■■■■■■■■■■■
3:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
4:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
5:■■■■■■■■


 Cause of U   時系列順に読む   LIAR LIFE 
 マボロシ   投下順に読む   選んだこのみちを歩いてくから 
 折れた明日に何を祈ろう   北上麗花     
 島原エレナ     
 The star   真壁瑞希     
 周防桃子     
 双海真美   死亡 


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