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武器を持った奴が相手なら、『うみみんバックハンドスプリング』を使わざるを得ない

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武器を持った奴が相手なら、『うみみんバックハンドスプリング』を使わざるを得ない

「うそ……そんなに……?」

どこからか響く無機質な声。
聞き覚えのある男の声だ。
男が話し始めた内容を聞き、海美は愕然とした。

たった半日の間に友人が12人も死んだ。
そのあまりにも非現実的な現実を、海美は受け入れることが出来ない。
ただ呆然と立ち尽くし、虚空を見つめることしか出来なかった。


「……ッ!」


しばらく時が経ち、海美は再び走り始める。
目を瞑り、歯を強く食い縛って。


「いやだよ……死にたくなんてないよ……!」


走っているときだけは何も考えずにいられる。
仲間の死も。自分の末路も。
朋花からの指令さえも頭の隅に追いやり、ただ無心で走り続けた。
この島に放り込まれたときと同じように。


「早く……何とかしてよ……朋花様……ッ!」


   ◆   ◆   ◆


――多すぎる。

確かに、何人かは殺し合いに乗ってしまうかもしれないとは思っていた。
だが、あまりにも多すぎる。
育、ロコ、そしてまつり自身だけで殺しきれる人数ではない。
少なく見積もっても、恐らくもう四、五人は殺害に加担している。

そして、まつりをより動揺させたのは、ロコが未だ生存しているという事実。
我が身可愛さに二人を崖から突き落としたにも関わらず、結果的に死んだのは正しい道を歩んでいた翼のみ。
ロコも決して無事ではないだろうが、生き残っている以上、更に犠牲を拡大させていくだろう。
あまりにもやりきれない現状に、思わず目が眩む。

しかし、もうそんなことは関係ない。
どんな弁明をしようとも。
どんな事象が起ころうとも。
『徳川まつりが敵である』という事実は、もう覆らないのだから。



キャンプ場らしき場所を抜けると、次第に木々が少なくなってきた。
道には植物が生い茂っているが、先程よりも見晴らしが良く、遠くまで見渡すことが出来る。

「……」

しばらく道を進んでいると、一人の少女が視界に入った。
装束と刃を血に染め、虚ろな瞳を揺らし、ふらふらと歩いている。
高山紗代子。かつての面影はもう残っていなかった。
その異様な佇まいに、まつりの脳は警鐘を鳴らす。
彼女もまた敵であると断定するのは早計だが、有事に備え、発砲の準備をしておく。

紗代子もこちらに気付いたようだ。
まつりの存在を認めると、彼女はしばし硬直した。
だが、それもほんの刹那。
紗代子は感情を失った様な表情から一転、目を見開き、口角を大きく吊り上げていた。
まるで新しい玩具を前にした子供の様に、嬉々としてまつりの元へ駆ける。

「――あなたもこちら側なのですね」

まつりは銃の照準を向け、紗代子を牽制する。
しかし、襲撃者に止まる気配はない。
ならば――


炸裂音と共に、紗代子の足からわずかに血飛沫が上がった。


銃撃を受け、紗代子の顔が苦痛に歪む。
なのに、彼女の勢いは衰えない。

「ッ!?」

斬撃の射程圏内に入ってしまった。

「ッ!……ぐぅッ!」

回避が間に合わない。
まつりの腕に一本の赤い亀裂が走る。

程度が浅くとも、足を狙撃されれば多少なりとも動きが鈍るはず。
しかし、紗代子にはそれが通用しなかった。
恐慌状態による思考回路の麻痺。そして彼女本来の持つ底無しの根性。
これらが合わさり、痛覚を押さえ込んでいるのか。

思考を巡らせている間も紗代子の攻め手は緩まない。
一振り一振りが明確な殺意を持って襲い掛かる。

かわすだけで精一杯だ。
反撃しようにも接近されすぎている。
発砲の為に腕を伸ばせば瞬時に切り落とされてしまうだろう。

だが、徐々に光明が見え始めた。
少しずつだが、攻撃の速度が遅くなっている。
やはり足に受けたダメージは少なくないのだ。

(――今です!)

僅かな隙を見逃さず、まつりは一気に距離を取る。
銃撃の効果が期待できない以上、態勢を立て直すことに専念した方が身の為だろう。
痛みに耐えつつも、なんとか走ることは出来た。

紗代子も負けじと食らい付く。
大人しく逃がしてくれるつもりはないようだ。

まつりは再び木々に囲まれた森林地帯へと飲み込まれていった。


   ◆   ◆   ◆


――殺す。

逃げたまつりを追い、新緑の中へ入っていく。
全身を掠める木の葉が鬱陶しい。
先程から右足が激しく熱を帯びているが、紗代子の意識を向けるには及ばない。
今の彼女には、相手を殺すことしか頭になかった。
遮蔽物が多すぎる為か見失ってしまったが、まだ近くにいるのは間違いない。
何としても見つけ出さんと索敵を続ける。

生い茂る木々に苦戦しつつも進んでいくと、他と比べて妙に整備された地帯に出た。
広場のようになっており、行楽地として用いられていそうな雰囲気だ。

周囲に警戒しながら歩いていると、地面に何かが付着していることに気付いた。
少し濁った赤い染み。血痕だ。
恐らく、まつりが逃走する際に落としていったのだろう。
この跡を辿って行けば彼女の居場所を突き止めるのは容易だ。

しかし不思議なことに、血痕は途中から二手に分かれていた。
一つは遠くに見える建造物に向かって、もう一つはまた別の茂みに向かって伸びている。

果たしてどちらに逃げたのか。紗代子は注意深く血痕を観察する。
すると、二つの血痕には僅かな相違点が見られた。
建物に向かって伸びている血痕は少しだけ乾いているのだ。
これは別人の物である可能性が高い。

そうとわかってからの紗代子の行動は早かった。
彼女は茂みに向かって脇目も振らず疾走する。
再び煩わしい木々に突っ込んで行くのは癪だが、止むを得ない。
今度こそ確実に仕留める。



「止まりなさい」



森の中に入って数歩のところで、後頭部に何かを突きつけられた。

「そんなに急いでどこへ行くのです?」

振り返ることが出来ない。
姿は見えないが、背後には確かに翠の悪魔がいた。

「ずっと……待ち構えていたんですか……」
「紗代子ちゃんならきっとこっちに来ると思っていましたからね。あれは所詮時間稼ぎなのです」

細工を見破られると読んだ上で、紗代子にとって死角となる場所に隠れていた。
まつりの強かさに思わず戦慄する。
少しでも不穏な動きを見せればたちまち引き金を引かれてしまうだろう。
森林は沈黙に包まれていた。

「……撃たなくていいんですか?」
「一つだけ聞きたいことがあるのです」

撃とうと思えば、逃げる最中でも撃つことが出来たはずだ。
そうしなかったのも、その聞きたいこととやらが関係しているのだろうか。
まつりの言葉を、息を呑んで待つ。


「――殺しをやめるつもりはありませんか?」


まただ。
頭がどうにかなりそうだった。
此処に来てから腐るほど聞かされた提案。
何故揃いも揃って同じことを言うのだろう。

「私は……」



「私はもう……戻れない……」

首を縦に振らなければ殺される。
わかっていても、その要求だけは呑めなかった。

「そうですか……仕方ありませんね」




「それじゃ、お別れなのです――」










「待って!撃たないで!」


   ◆   ◆   ◆


――やってしまった。

自ら危険に首を突っ込む必要など何一つなかった。
あの時の様に見て見ぬ振りも出来たはずだ。
なのに、無視出来なかった。
もうこれ以上誰かが死ぬのは耐えられない。

「海美ちゃん……」
「まつりん!早く銃を下ろして!」

海美が叫んだ途端、まつりが横転した。
彼女が一瞬目を離した隙を突き、紗代子が突き飛ばしたのだ。
拘束から解放された紗代子は、遥か遠くへと走り去って行った。


「……海美ちゃん。自分が何をしたのかわかっているのです?」


不機嫌そうに起き上がりながら、まつりは言葉を投げかける。

「う、うるさい!殺そうとする方が悪いんだっ!」

やはりまつりが殺し合いに乗っているというのは本当だった。
もし来るのがもう少し遅ければと思うとぞっとする。

「その威勢は褒めてあげるのです。でも……これを見ても同じことが言えるのです?」

そう言って、まつりは海美へと銃口を向ける。
無我夢中で飛び出したはいいが、その後のことは全く考慮していなかった。
殺意に当てられ、海美は思わずたじろぐ。

「何か言い残すことは?」
「う、うぅ……、まつりんなんて……まつりんなんて……朋花様にやっつけられちゃえばいいんだ……」

不用意に割って入ったことを激しく後悔した。
絶対に死にたくない。
その一心で行動していたのに、一時の感情に流されて最も悪い手を打ってしまった。
死の恐怖に気圧され泣きそうになりつつも、海美は悔し紛れの悪態をつく。

「朋花ちゃん?」
「そ、そうだよ!朋花様はみんなを集めて殺し合いをやめさせるんだから!
 プロデューサーや、まつりんの思い通りになんて……絶対にさせないっ!」

勢いに任せて啖呵を切ってしまった。
もう助かる見込みはないだろう。
だが、不思議と悪い気はしない。
絶対的な相手に一矢報いることが出来た気がして、胸の中のもやもやとしたものが少しだけ晴れたように感じた。

「う、撃つなら早くしてよ……。私、今すっごく怖いんだから……」
「――やっぱりもういいのです」
「…………え?」

不意にまつりは銃を下ろす。
絶対に殺されると確信していた海美は驚きを隠せない。

「簡単に殺せる相手を殺しても面白くないのです。それより、一つゲームをしませんか?」
「げ、ゲーム……?」
「そう。まつりがみんなを殺し終わるのが先か、海美ちゃんたちが殺し合いを止めるのが先か、勝負するのです」

なんてことはない。
海美を殺すことに興味を無くしただけだった。

「さあ、どうします?」
「――わかった。その勝負、乗る」

何もみすみす命を落とす必要はない。
気紛れだろうと何だろうと、助かるチャンスがあるのなら迷わず掴む。
躊躇うことなくまつりの提案を呑んだ。

「それでこそ海美ちゃんなのです。
 まあもっとも、朋花ちゃんに頼りきりの海美ちゃんなんかに負ける気はしませんけどね……」

そう言い残すと、まつりは深い緑の中へと溶けていった。





「こ、怖かったぁ……」

死を免れた安堵からか、海美はその場でぺたんと座り込み、溜め息を洩らす。
彼女の人生の中でこれほどに恐ろしいと感じたことは今までになかった。

「……みんな、死ぬ時はこんな気持ちだったのかなぁ」

殺されていった友人たちに思いを馳せる。
これ以上こんな思いをする人を増やしたくない。
そう思った。

まつりとのゲームに応じたのは助かりたいが為でもあったが、それ以上に本気で彼女を打ち倒したいと思ってのことだった。
彼女は人の生き死にが左右されるこの非常事態をゲームだと思っている。
軽い気持ちで仲間の命を奪っていくまつりのことを、決して許すことが出来なかったのだ。
逃げるばかりだった海美の心に怒りの炎が灯り始めていた。

更に言えば、「朋花に頼りきりだ」と侮辱されたことも気に食わない。
なまじ否定出来ないだけに、余計に腹が立つ。

「決めたっ!この勝負、絶対に勝つ!まつりんより先にみんなを助けて、私を馬鹿にしたこと後悔させてやるっ!」


【一日目/日中/E-5】

【高坂海美】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:走る/伝える。もう誰も死なせない
 1:恐怖。決断することへの恐れ。真っ直ぐであるが故の困惑
 2:朋花に協力する。その心は盲信気味
 3:まつりには絶対に負けたくない


   ◆   ◆   ◆


「良い仲間に出会えましたね、朋花ちゃん」

海美からは危うさや不安定さを感じられたが、瞳の輝きだけは失っていなかった。
不器用かもしれないが、きっと朋花の力になってくれるだろう。

「痛っ……、みんなからは嫌われるし、傷も増えるし、本当に損な役回りなのです」

紗代子に斬られた箇所の止血をしながら、つい愚痴を洩らす。
ドリルによる傷。
爆弾による傷。
そして、今負ったばかりの傷。
戦う度に体は傷つき、ぼろぼろになっていく。

最初から殺すつもりで対峙していれば、こんな傷を負うこともないのだろう。
それでも、彼女たちを信じたかった。
共に過ごした仲間との絆を、そう容易くは切り捨てられなかった。

しかし、それでも聞き入れてもらえないなら。
もう容赦はしない。
それが彼女たちの為でもあるのだから。
辛いのは殺す側の人間も同じなのだ。
悪い夢からは早急に解放してやらねばならない。

「姫はそろそろ本気を出すのです。さあ、早くしないとみーんな死んじゃいますよ?」


【一日目/日中/E-5】

【徳川まつり】
[状態]四肢、背中、左腕に傷
[装備]二十六年式拳銃(4/6)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1、二十六年式拳銃実包×24
[思考・行動]
基本:『敵』を演じるのです
 1:殺し合いをやめてくれない子には容赦しないのです
 2:紗代子ちゃんとロコちゃんを探す……?


   ◆   ◆   ◆


『だから――ね? 一緒に、頑張ろう……!』


どうして……?


『仲間を殺すなんて……ぜったい!ぜーったい!ダメなんだから!』


どうして皆、邪魔ばかりするの……?


『―――バイバイ、紗代子』


私はただ、プロデューサーの言うとおりにしているだけなのに……。


『――殺しをやめるつもりはありませんか?』


どうして皆、真っ直ぐでいられるの……?



私は何も間違ってない。
悪いのはみんなの方。
あの人が殺せって言うんだから、それが正しいんだよ。
だから、もう邪魔しないでよ。
早く私に、殺されてよ……!


【一日目/日中/E-5】

【高山紗代子】
[状態]右足太腿に銃撃、出血多量、錯乱
[装備]冷艶鋸
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:生き残る為に、殺し合いに乗る
 1:春香が、その意思を継ぐ仲間が怖い
 2:私は悪くない


   ◇   ◇   ◇


でもね、ときどき考えちゃうんだ。
もしあそこで諦めてなかったら。
もしあそこで春香さんの手を掴んでいたら、って。
そうしたら、もっといい結果が待っていたのかなぁ。
こんなに、苦しまずに済んだのかなぁ。

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 いっぴきのこぶた  高坂海美   
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