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約束

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約束

「ねえ、松田さん。やっぱり、私には似合わないんじゃ……」
「そんなことありませんよ。とっても、お似合いです」

 二人の声だけが響く部屋の中。
 千早の髪に一つの装飾が施されていた。
 結びつけられたリボンは、真っ赤に存在を主張して。

「でも……やっぱりこれは、松田さんがつけておくべきだわ」
「千早ちゃんは春香さんにとって一番のお友達なんですから、もっと自信持ってください。
 きっと……春香さんも、それを望んでいるはずですから」

 それは、二人で生き延びようという決意。
 あるいは、これから運命を共にする証としての、呪い。

「……わかった。大切にするわね」

 一つは千早へ。一つは亜利沙へ。
 天海春香の残滓は二つに分かれ、引き継がれた。

「……松田さん、あなたとても綺麗な髪をしているのね。いつも結んでいるから、気付かなかったわ」
「えぇっ、そ、そんなことないですよぅ! 皆さんと比べたら全然……」

 髪留めが一つになったことで、亜利沙の髪は、千早のような長く透き通ったものへと姿を変えていた。
 亜利沙はいつものように慌てて謙遜する。

「そんなことないわ。松田さんこそ、もっと自信を持つべきよ」
「うぅ……そう言われましても……」

 ほんの一時ではあるけれど、二人に訪れた穏やかな時間。
 それは、かつて皆で過ごしていた劇場での日々のようで。

「――っ! だ、誰ですか!?」

 そう、それは本当に一時だけ。
 気紛れに訪れた、偽りの平穏。

「千早さん……亜利沙さん……二人とも一緒だったんですね」
「し、志保……? どうしたの? なんだか、すごく疲れているようだけど……」
「千早ちゃん危な……っ! ああぁっ!!」

 モノクロの死神は、そんな平穏すらも許しはしない。

「ッ!? 松田さんっ!?」
「よく今の銃撃に対応できましたね。正直、驚いてます」
「し、志保ちゃん……なんで……」

 普段亜利沙から見ていた志保と明らかに違う。
 彼女から感じた、どす黒い違和感。
 気付くのが遅れていたら、風穴が開いていたのは千早の方だった。

「もう、逃げたくないんです。誰に止められても、私は殺さなきゃいけないんです。それが、約束だから……」

 自身に暗示をかけるように、志保が呟く。
 見据えるのは、遥か先。
 彼女の瞳に、二人の姿など映ってはいない。

「……っ、あぁあぁぁっ!!」

 だが、そこに隙があった。
 負傷しながらも突っ込んでくる亜利沙を翻せず、壁に抑え付けられる。

「今のうちに……逃げてください……っ!」
「駄目よ! それじゃあ松田さんが……! 待って、今助けるから……!」

 腕を掴まれ、志保は思うように動けない。
 その隙に、千早は取っ組み合う二人に近づき、銃を奪おうとする。

「っ!」
「ひゃあっ!?」

 だが、志保も黙って無力化されてはいない。
 千早を牽制するように、闇雲に銃を乱射する。
 近付く隙がない。

「どうすれば……このままじゃ……」
「千早ちゃん……っ、ありさがなんとかしますから……早く逃げて……!」

 銃撃の痛みを堪えながら、すんでのところで拮抗している。
 けれど、それも時間の問題。
 亜利沙の顔は既に青ざめている。

「この……っ、離して……っ!」
「恵美ちゃんとの約束なら、大丈夫ですから……っ! だから、早く……っ!」

 亜利沙にはわかっていた。
 千早が恵美との約束に……『亜利沙を助けること』に囚われていると。

「っ! だ、だけど……!」
「ぜったいっ! ぜったいに追いつきますから! だからっ、行ってくださいっ!」

 ならば、行動で示すしかない。
 何としても千早を逃がし、志保を封じ込める。

「――っ! ごめん、なさい……!」

 亜利沙の決意を悟り、遂に千早は家を飛び出した。

「……千早ちゃん……どうか、生きて……あぐぅっ!」

 千早の姿を見届けた亜利沙に、とうとう限界が訪れた。
 彼女の無事が守られた安心か、無理矢理抑え込んでいた体の痛みか。
 志保への力が緩み、反撃を許してしまった。

「この……よくも……っ」
「がぁっ! あぁっ!」

 亜利沙の頭を鷲掴みにし、壁に叩き付ける。

「どうしてっ! 私のっ! 邪魔をっ!」
「あぐ……っ、やめ……っ、んあぁ……っ」

 何度も何度も、けたたましい音を響かせながら。

「ごふ……っ」

 打つ。

「かはっ……」

 打つ。

「……」

 打つ。

「……」

 そして、亜利沙は何も言わなくなった。
 壁面には、赤く濁った染みがべっとりと張り付いている。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 破壊衝動のままに亜利沙を壊し、息が上がっている。
 興奮を冷ますように、大きく肩で息をしていた。


「追いかけないと……」

 亜利沙から手を離し、扉へと向かう志保。
 捨てた物体はもう、何も言わない。


「……さ…………いで…………」


 そのはずだった。


「ちは…………ちゃ…………を…………ろさ…………いで…………」


 歩き出そうとする志保を、何者かが呼び止める。
 その者に、もう意識はなく。
 それは、大切な人を守ろうとする執念だけで動いていて。

「……っ! どこにそんな力が……!」

 遮る者に、銃弾を放つ。
 血塗れで横たわるそれは、今度こそぴくりとも動かなくなった。

 本当に死んだのか。
 死んだに決まっている。
 それなのに。
 振り向いた途端、すぐにでも動き出しそうな気配を感じてしまうのは、何故なのか。


   ◆   ◆   ◆


 結局、外に出るまで、亜利沙から目を離すことが出来なかった。
 千早の姿はもう、どこにも見当たらない。

 やはりまだ本調子でないらしい。
 けれど、これで確信した。
 誰かを殺している間だけは、あの幻から逃れられる。

 誰が邪魔しようとも、それによってどんなに苦悩しようとも。
 結局のところ、殺してしまえば同じなのだ。
 気付いてしまえば、簡単なこと。

 最悪、別の誰かでもいい。
 早く、誰か見つけなければ。


【一日目/夕方/G-4】

【北沢志保】
[状態]健康?
[装備]ベレッタM92(4/15)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1、9x19mmパラベラム弾入りマガジン(2)、タオル、着替え
[思考・行動]
基本:"ジョーカー"として動く
 1:とにかく、人を殺していく。殺し続けていれば、きっと迷わない
 2:嘘をついてなくちゃ――――
 3:可奈の『呪い』を背負い続ける?
 4:人に会いたくない、見られたくない
 5:発電所に行かなくちゃ


   ◆   ◆   ◆


 走った。
 ただひたすらに走り続けた。

 何も目に入らぬように。
 何も耳に入らぬように。

 共に生きる道連れが欲しかった。
 けれど、身代わりが欲しかったわけじゃない。
 こんな目にあわせる為に、彼女を生き永らえさせたんじゃない。

 勝手な我儘で仲間を繋ぎ止め。
 危機に陥れば容易く見捨ててしまう。
 自身の下劣さに吐き気がする。

 死を何度も願っていたはずなのに。
 誰かを殺すくらいなら自分が死ぬと、ずっと思い続けていたはずなのに。
 恵美に、亜利沙に、明日へ進むことを望まれたこの体は。


 生きたいと、願ってしまった。



【一日目/夕方/G-4 民家】

【如月千早】
[状態]健康、虚無
[装備]春香のリボン(1本)
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:生きる
1:もう何があっても死ねない
2:激しい自己嫌悪


   ◆   ◆   ◆


 春香さん。美奈子ちゃん。恵美ちゃん。
 見ててくれましたか?

 ありさ、やっとアイドルちゃんを守れたんですよ?
 こんなドジでダメダメなありさでも、誰かの助けになれたんですよ?

 ありさは……残念ですが、ここでお終いです。
 後悔してないかと言えば、嘘になっちゃいますけど……。
 でも、あの時全部投げ出してたら、きっと今よりももっと後悔してたと思うんです。

 頑張ってよかった。
 諦めないで、よかった。

 千早ちゃん。
 ありさからもお願いです。

 どうか千早ちゃんも、最後まで諦めないでください。
 一秒でも多く、長生きしてください。

 ありさのことは……忘れてしまって、構いませんから……。



【松田亜利沙 死亡】

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 "のろい"   如月千早     
 松田亜利沙   死亡 
 マボロシ   北沢志保     


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