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"のろい"

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"のろい"




――あれから、どれくらいたっただろう。


「………」

彼女が――ここに、いなくなってから。


そこにいた少女…千早は、ずっと脳内で後悔の感情がぐるぐる廻っていた。
もう少し、早く追いかけていれば。自分がここまで悲しまなければ。
あの時、席を外していなければ。恵美は、美奈子は。
あるいは、助かっていたかもしれないのに。
もう過ぎたこと、意味のないことだとわかっていても、考えずにはいられない。
救えた、可能性を。

”アタシのこと……名前で……呼んで……”

今わの際に恵美が放った言葉が、いまだに脳裏で繰り返される。
最期に言った、あまりにもささやかな願い。
その望みを聞いて、彼女は満たされて逝けたのだろうか。
……とても、そうは思えない。こんなの、全然大したことなんかじゃない。
だって。笑って、命尽きたはずの少女は。

今、こんなにも。悲しみを帯びた顔をして息絶えているのだから。

「……めぐ、み」

きっと彼女は、千早に心配をかけさせまい、と。
精一杯、最期まで笑顔でいようとしたのだろう。
そして、力尽きた最期に、その本心が、顔に表れてしまった、のだろうか。
お人よしだった、あの子らしい。
そして、恵美がそうしなければいけないと思うほどに、千早は脆かった。

……これから、どうしよう。
茫然としながらも、千早はそう考える。
美奈子は死んだ。恵美も目の前で息絶えて、やよいはその二人を、手にかけた。
これからだ、というところで。すぐに全てが崩れ去ってしまったのだ。
どうすればいいのだろうか…それを示してくれる人が、もうここにはいない。

"死んじゃ……だめ……だからね……"

ただ一言、彼女に残された言葉。
それだけは、絶対に裏切っちゃダメだ。漠然と、そんな想いだけがある。
それだけで、それ以降にどうしようというのが、まったく思いつかなかった。

改めて、自身が彼女ありきだった事を思い知らされる。
死んでもいいと思っていた心を、彼女の悲痛な叫びに引き戻されて。
彼女と共に行動し、その背を見ながらついて行って。
自分が親友の死に泣いていた時も、彼女は心配し、傍にいてくれた。
今までずっと、所恵美ありきの行動であったことを、ひしひしと実感してしまう。
現に今も、彼女ならどうするだろうか。どう彼女の意思を継ぐのか。そんなことばかりだ。

そうやって途方に暮れ、空を見上げている、と。

「……ぁ」

まだ、残してきている子の事を思い出した。

松田亜利沙。
そうだ、まだ生きている仲間がいる。
彼女もまた、この非情すぎる現実に打ちのめされていた、けれど。
それでも、彼女はまだ生きているんだ。

――戻らなきゃ。
そう思い、立ち上がる、だけでめまいがする。
彼女はまだ、恵美も同じように逝ってしまった事を知らない。
それを伝えるのは、最早限界を迎えていた彼女に追いうちをかけるようなものだ、けれど。
伝えなきゃ、何も始まらないんだから。

ふらふらと歩く彼女に、確固たる意志は何もなく。
ただ惰性のように、その足を動かしていた。




「……ごめんなさい……ごめんなさい……」

千早が、立ち上がったのとほぼ同時刻。
家に一人残っていた亜利沙も、同じようにずっと茫然としていた。
ただ、壊れたようにずっと謝っている。誰に向けてでもなく。

目の前には、それも同じように、動かなくなった少女の姿がある。
亜利沙が、"アイドルちゃん"のそういう姿を見るのは二度目。しかも、今回はさっきまで生きていた筈の、子が。
既にそうなっていた春香と違って、もしかしたら――助けられたかも、しれない子が。

「ありさ、みんなに会えて、浮かれちゃって……結局、なんにも守れて、ない……」

もう、誰も喪いたくない。
そう思っていたのに、結局は何もできず、目の前で死なせてしまった。
仕方がなかった。そう思える程、亜利沙は強くも、冷徹でもない。
助けられなかったという事実だけが、彼女自身を責め、無力さを嫌でも感じてしまう。
そして、どれだけ自身を奮い立たせようとしても、心の奥底から諦観が押し寄せてくる。

どうあがいたって、もう無駄なんじゃないか。って。
どうせみんな、死んじゃうんじゃないか。って。

「………」

いっそのこと、すべてが許せなくなってしまえばよかったのだろうか。
アイドルの夢を絶った、アイドルの事を憎み、すべてを憎めてしまえれば。
"天海春香"を見た時のような、怒りに身を任せてしまえれば。

けれど、もう駄目だった。今の亜利沙には、そんな気力もなくて、そんな感情もわいてこないほど、疲れてしまった。
亜利沙は、そんな自身にまるで他人事のように理解していて、ただ何もできず、うつむいていた。

「……もう」

もう……どうして、しまおうか。
誰も救えない。みんな、死んでいく。
大好きだった、"アイドルちゃん"達が、殺し、殺されて。
みんな、みんな、壊れていく。
そんな、どうしようもないような状況で、亜利沙は、ありさは―――


顔を、上げる。
そこには、地面に転がっている――この地獄から救われるための、おくすりがあった。


「………」

光のない目で、それを見つめる。
そして、その小瓶をあまりにも自然に拾った。
透明な小瓶の中には、まだそれらしきものが残っている。
こうなってしまった、元凶。本来は憎むべきものなのに、今では、それがひどく魅力的に思えた。

「――――っ」

その刹那、亜利沙が頭を抑える。
脳裏によぎったのは、"その瞬間"だった。
千早や恵美が知らない、佐竹美奈子が事切れる、その瞬間。

それは、見るに堪えない最期であった。
素人目から見ても、もう助からないのに、それを認められず、ただ目に映っていただけの少女に、亜利沙に縋り。
目を見開いて、苦しみにぼろぼろと涙をこぼし、死にたくない、死にたくないよと、擦り切れた声を亜利沙に浴びせて。
おおよそアイドルとは思えない絶望の姿を見せて、息絶えた。
あまりにも、惨たらしく。

それほどまでに、苦しく死ぬ劇薬。
けれど、今の亜利沙にはそれでさえも、今の自分にふさわしいな、と思えてしまった。
目の前で、"アイドルちゃん"がそうやって死んだ。なら、自分も。

「……もう、疲れちゃいました」

そう自嘲めいて呟き、その蓋を、開ける。

手のひらに、さらさらとそれを移す。
白い粉――まさに、といったような形状だ。
そのまま全部、自らの手のひらに乗せる。
どうせ、これも他には使わない。使わせない。
ぜんぶ、ぜんぶ。使ってしまえ。頭の中で、誰かの声で言い聞かせてくる。

「…………」

これくらいあれば、死ぬのかな。他人事のように、漠然と考える。
いや、これより少ない量で美奈子は死んだのだ。個人差があるにしろ、間違いなく死ぬだろう。
苦しんで、苦しみぬいて。

それでも、今の亜利沙には地獄めいた現状よりましに思えた。
自らの罪を償うかのように、同じ苦しみを……上回る苦しみを味わって、楽になりたい。
だって、そうすれば、きっと―――

目の前の白い粉を、ぼおっとした思考で眺めて、それを顔に近づけて――――


「亜利沙ッ!!」


その声に、現実に引き戻された。




ただ惰性のように戻ってきた千早が見たのは、小瓶から白い粉を手に移す、亜利沙の姿だった。

あれは、何だ。
それを理解していくにつれ、漠然としていた思考が、だんだんと鮮明になっていく。
あれは、毒薬だ。佐竹美奈子を殺した、高槻やよいが持っていた。
なら、それを手に移している亜利沙は、一体何をしようとしている――?
その答えは、頭が理解するより先に、震える体とどっと吹き出る汗が証明していた。

彼女が、しようとしている事。
それは、恵美が、何よりも望んでいなかった、事。


「亜利沙ッ!!」

考えるより先に、千早は喉が張り裂けるほどに叫んでいた。


「ぇ……っ」
「一体何をしてるの!?」

狼狽える亜利沙が、次の行動をするより先に千早は駆け寄り、その肩に掴みかかった。
その衝撃で、あの忌々しい白い粉が地面に落ちる。

「…ぁ、ありさ、は……ありさは……っ?」

鬼気迫る千早に対し、亜利沙は自分ですら何をしていたのか理解できておらず、戸惑っている。
まるで、何か無意識に動いていた、かのような。
その瞳は千早を移しつつも、揺らいでいた。

「なんで、なんでこんな……っ!!」

ぎり…と、肩を掴む手に力がこもる。
千早も、言葉がまとまっていないようだった。
ただ、亜利沙がしようとしていたのはいけない事だという想いだけが先行していて。
あまりにも不器用な問いかけを繰り返す。


「……だっ、て……」

二人の瞳が合い、やがて亜利沙の口から零れた言葉は、震え。

「もう、イヤなんです……! みんな、みんな死んじゃうじゃないですかぁ……!!」

ぼろぼろと、その目から涙がこぼれた。

「……っ」
「ありさ、もうみんなのコト見送りたくないっ……!
 向こうに、いけたら……みんな、いるんです……だいすき、な、みんなが……」

沢山の死、直面した現実、絶望。
打ちのめされた亜利沙の心は、もうとっくに限界を迎えていた。
もうこんな世界にいたくない。こんな、悲しい思いなんてしたくない、と。
大好きだからこそ、憎み切れないからこそ。辛い気持ちはあっというまに膨らみ。
等身大の少女の許容量をあっさりと、超えてしまっていた。

「も、むりなんですっ……めぐみ、さんには……っ、ごめん、なさっ、て……」

心の折れた彼女が下した選択は、亜利沙自身にとっても"最悪"の選択であった。
それがやってはいけない事だと分かっている。一種の裏切りである事も、わかっている。
それに対する、負い目もあった。それもまた、彼女を追い詰めていた。
なによりも、この選択を悲しみ、怒るであろう彼女に対しても。

「……恵美は、死んだわ」

そして、そんな彼女を更に追い詰める事実を、まだ知らなかったのだ。

「ッ…!?」
「私が駆け付けた時には、もう………おそらく、高槻さんが……」

仔細は、分からない。千早が駆け付けた時には、もう『手遅れ』だったから。
しかし、一体どうやって死んだのか。その事自体は今ここでは重要じゃない。
あんなに明るく励ましてくれていた、まさにアイドルと呼ぶべきあの子が、かつての仲間に、殺された。
そんな残酷な事実が一つあるだけで、二人の心に鋭く突き刺さる。

「……あ、あはは……」

一呼吸置いた後、亜利沙は壊れたように笑い出した。

「だったら、なおさら、ですね……もう、みんな死んじゃうんだ…。
 向こうには、春香さんも、恵美さんも、いる……みんな、向こうにいくんだ……」

絶望しか、ない。
既に、亜利沙の大好きだった世界は、もうほとんど壊れてしまった。
たくさんのアイドルちゃんが死んで、壊れて、汚されていく。
こんな絶望の悪夢の中にいる事が、もう、耐えられない。

「……死なせて」

その言葉がぽつりと呟かれた瞬間、千早の体がびくりと震えた。
彼女の、最期の逃げ道。全てを諦め、安寧へと身をゆだねる行為。
皆がいる、あの場所へ。

「いかせて、くださいよぉ…っ、もうやだっ!!やだぁ……!!」

千早の胸の中で、子供のように泣きじゃくる、一人の少女。
最初に出会った時の、少しでもこの状況を打破しようとする決意を胸に秘めていた、その表情はどこにもない。
当然といえば、当然だろう。この度重なる仕打ち、耐えられなくとも無理はない。
千早が今一見冷静に思えるのも、先ほどまでの彼女のようにただ全てに疲れただけ、なのかもしれない。

――千早は、一度目を閉じる。
これから、どうしようか。
彼女はこれから、死のうとしている。けれど、死なせるわけにはいかない。
何故か……理由がなんであれ、取る行動は、一つしかない。

彼女を導くのは――自分しか、いない。

「……恵美、最期に言ってくれたことがあるの」

ぽつりと、泣き声に交じって呟かれる。

「死んじゃ、駄目だって。絶対、諦めないでって。
 ……あと、あなたの事、助けてあげてほしいって。きっと、苦しんでるから、って」

恵美の言葉を、反復する。
最期まで、自身の事を気にかけていてくれた、優しい彼女の言葉。
それを聞いて、亜利沙の体がびくりと震えた。

「もし、あなたが自ら死を選んで向こうに行ったって、きっと恵美は許してくれない。
 ……いえ、違うわね。あの子は優しいから、きっと許してくれる。けど……ずっと、自分の事を責め続ける。自分が死んだせいで、って」

亜利沙は変わらず嗚咽を漏らし、俯いている。
苦しんで、弱り切っている。それでも、仲間への、アイドルへの想いは変わらない。
今言っているのは、それにつけこんだ卑怯な言葉だ。
彼女を生に無理矢理束縛する言葉。千早にも、それは分かっている。

「……あなたは、それでも逃げ出す? あなたの大好きな人を悲しませてまで、その選択をするの?」

それでも。
不器用な千早には、これ以外の方法が思いつかなかった。
何としてでも、彼女を死なせない為の方法が、それしかない。

「…………ずるい、ですっ……どうして、そんなこというんですか……っ」
「……ごめんなさい」

弱り続けていく彼女の言葉を、しっかりと受け止める。
諦めようとしている彼女を、それでも逃さず、こうして追い詰めている。
彼女の事を思うのなら、千早は、もうこの腕を離した方がいいとさえ思っている。

「でも、もう……私も、見たくない、から」

それでも、そうしなかったのは。
千早自身が、耐えられなかったからに他ならない。

「恵美の約束を守る事……私が、もう皆が死んでいくのを見たくない事。
 全部、私のエゴだから……貴方を救える言葉は、何一つ言えないけれど」

千早が恵美の言葉を受けて、生きていく。それは願いであり、"約束"である。
この言葉を受ける事は、きっと死を選ぶよりも辛い。彼女自身が、何よりもわかっている。
それでも、この願いを裏切らない為に、生きていくために。彼女は、そうやってまた別の子にも束縛していくしかない。
だから、彼女にもまた、"約束"を。

「……お願い。私の為に、生きて」

淡々と、はっきりと、伝える。

「……………………千早、さん」

ぎゅっ、と。抱き着く力が強まった。
具体的な返答は、まだ帰ってこない。

「千早さんっ……うぁ、あぁぁぁぁ………!!!」

そして、またぼろぼろと泣きじゃくり始めた。
今まで、出せなかった分を放出したかのように。
答えはなくとも、それが答えである事は十分察する事はできた。

「………ごめん、なさい」

そして千早は、それを光のない目で見つめていた。


……わかっていた。
彼女がこう答える事を、知っていた。
本当はいるかも分からない"むこうのみんな"より、目の前の一人の"アイドルちゃん"を優先するだろうから。

自分の卑怯さに、反吐が出そうになる。
彼女を助けたのは綺麗事でも、なんでもない。
ただ、ここで亜利沙も死ねば自分が耐えられないと思ったからだ。
そのためだけに、心の折れた彼女を生かして、傍に置こうとしている。
この希望のない世界で。どうせ終わってしまう、世界で。

度重なる、死。どうして自分でなく、貴方達が。
分からない。この理不尽に、理由を求める方がどうかしているのかもしれない。
そうだ、たとえ理由なんて分からなくても、生きなくちゃいけない。

それが、あの子との"約束"―――なのだから。




【一日目/夕方/G-4 民家】

【如月千早】
[状態]健康、虚無
[装備]なし
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:生きる
1:これからどうしよう…

【松田亜利沙】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:???
1:???


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 Cause of U   投下順に読む   空見て笑って 
 紳士の昼食会   如月千早   約束 
 松田亜利沙 


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