勇者と少女

孤独な勇者の物語です

勇者は勇者であり、少女は少女

不特定の名称であるため、誰を指しているのかは定かではありません

 


勇者は満ち足りていました 

友人がいて、思いがあって、幸福があるからです 

けれど勇者は孤独でした 

その叫びは誰にも届かず 

その苦しみは誰とも分かち合えず 

その辛さは誰も気づかず 

その悲しさはだれも知らず 

その涙は誰にも見つけては貰えなかったからです 

 



世界は闇に、包まれて 

穢れゆく少女たちは、黒く染まっていく 

救いはない。救われない 

ゆえに 

少女はいずれ大きな傷を、負うのだろう 

 



少女は足を止めることはありませんでした

後ろの道は闇に包まれていて、

振り返ることも、戻ることも出来はしないからです

少女は孤独でした

少女の前にも、横にも誰も居らず

ただただ迫りくる闇が、背後にあるだけだったからです

少女はいつも、笑顔でした

蝕まれゆく心に、化粧を施していたからです

だから誰も

気づいてはあげられませんでした

少女が本当は泣きたかったことに

誰かに助けて欲しかったことに

誰かと一緒にいたかったことに

誰も気づいてあげることは……できませんでした

 



その少女の笑みは、涙に濡れていました

けれど、それはとてもても、幸福に溢れていました

少女に気づいてくれる人が、現れたからです

けれど少女はたった一人で振り返りました

自分の支えになってくれる人を、巻き込みたくはなかったからです

背後の闇は消えることなく

ずっとずっと……少女の後ろを追いかけてきていました

それは世界で、現実で

とても残酷で、冷徹で、無慈悲で、理不尽な……運命だからです

 


 

少女は戦うと言う選択は出来ませんでした 

なぜなら、少女はいま……勇者ではないからです 

少女は強く、強く、祈りました 

今の少女には祈ることしか、出来ないからです 

 


 

2人は互いに背を向け合いました

それはまるで、友の背中を守る勇者のようでした

けれど

少女たちの表情は暗いままでした

なぜなら

それはただ……互いの思いを拒絶しようとしているだけだったからです

 


 

戦い続ける勇者に寄り添い、少女は言いました 

私は戦うことが出来ません。だから、貴方の傍に入るべきではありません。と 

けれど、勇者は立ち去ろうとする少女を捕まえて、言いました 

傍にいて欲しいと 

だから、少女は勇者の傍に居続けることを決めました 

ただ傷ついて行くのを見るだけ 

苦しんでいるのを、悲しんでいるのを、辛そうにしているのを 

ただただ、見ていることしかできないとしても 

少女は、たった一人の孤独な勇者の傍に居続けました 

勇者が傷ついている分 

悲しんでいる分、苦しんでいる分、辛い思いをしている分 

自分の心が傷つき、摩耗していくのを感じながら 

少女は、勇者に寄り添い続けました 

世界の為、人々の為 

戦い続ける勇者の為だけの、勇者へとなりたかったからです 

最終更新:2015年05月24日 23:34