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絶望偶像

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絶望偶像


勇気と無謀は違うと先人は言った。
正確に言えばかつて安藤重信が言った言葉の要約ではあるが。
「その行動は不必要な勇気だ、『合戦には勇め。用心には怯がれ』という諺は真に理にかなっている。 いつも内を通れよ」
だが、勇気と無謀の境目となる行動とはなんなのだろう。


――――今の私がやろうとしていることは『勇気』なのだろうか『無謀』なのだろうか。



◆          ◆          ◆


もう戻ることが出来ない事くらい、自分でもわかっていた。
考えてみれば、手遅れだったのだから。
あの日、あの時、どうしていれば良かったかなんて。
結果論でしか語れないけど。
でも、全てはこの結果に尽きると思う。

殺し合いが起きてしまった

プロデューサーさんが、起こした。
ただそれだけでも、異常事態ともいえるのではないのか。
1年間以上、彼は私たちのためにプロデューサーをしていた。
そんな彼が起こしたのが、この殺し合いなのだ。

普通だったら考えられないし、考えたくもない事だった。
だけれど、今ここにある現実は非情だ。
洗い流されてはいるが、すでに穢れてしまった手を見る。
微かながらとはいえ、手が震えている。
怖いのか、当然と言えば当然だ。
覚悟を決めた、彼にもう一度会いたいと思った。

「……結局」

覚悟が決めきれていない、のだろうか。
そんな事あるはずがない、あってたまるものか。
現に人を一人殺して、覚悟が出来ていないわけがない。

じゃあ、何がいけないのか。
何が私をここまで恐怖させているのか。



「自分の事すらも、わかっていないんですかね」



『無知』は、それだけで罪だ。



◆          ◆          ◆



実際の問題として、何も決定してない事に気づくのはシャワーを出た後だった。
美也さんと行動をする、まではいいとしよう。
どこに行けばいいとかなんて全く決めていない。
そもそも、自分が何をしたいのかさえもわかっていない。
『無知の知』と先人が言ったようにそれを知る気があれば良かったのかもしれない。
しかし、自分には今そこまで考えるだけの余裕はなかった。

(……どうしたいんだろう、か)

少なくとも、死にたくないくらいは考えてはいるけれども。
プロデューサーさんに会いたいのだろうか。
会ったとして、どうするのか。
こんなふざけたことを止めろと言うのか。

(少なくとも、こんな事を起こす理由があるはずだけど……)

殺し合いなんて、普通ありえない事をするほどだ。
少なくとも、簡単に止めれるわけはない。

「……知りたい、かな」

だからこそ、知りたい。
知らない本を探し出会おうとするように。
知らないあの人の心を、知りたい。

それが例えどんな結末であったとしても。
悲惨な結末しか待っていないとしても。


「どうしたんですか~?」


と、そこで後ろから声が聞こえてきた。
先ほどまでまた寝ていた美也さんだった。
服は着たがその後綺麗に寝ていたので(フラグだとは思っていた)放置していた。
起きるまで待つつもりではいたのだが起きていたようだ。

「起きてたんですか……だったら言ってくれればいいのに」
「ふあぁ……今起きたんですよ~」

そう言いながら美也さんは起き上がってくる。
眠そうに眼をこすっている、かれこれ会ってから2時間くらい経っているがそのほとんど寝ていた気がするのだが。
こんな状況でもこれだけマイペースと言うのも凄い。
だからこその美也さんなのだろうけど。

「……これから、どうすればいいのかなって思ってたんです」

一応、思っていたことの一つを話す。
自分がどうしたいのかは話さず、どうすればいいのかを話す。
実際、どうしたいかなんてことを聞いても進展も何もないのはわかりきっている。
ならば今は、少しでも前に進むことを考えなくてはならない。

「うーん……他の皆さんを探す、とかじゃないでしょうか~?」
「他の皆を――――ですか」

そう、何とかするならそれしかない。
私と美也さんで出来る事はたかが知れている。
バトルロワイアルの知識はあっても、この首輪は解除できない。
プロデューサーさんがどこにいるかなんて、わかるはずがない。

誰もわかっていない可能性はある。
だけれど、そのたらればで逃げてたら状況は悪化するだろう。

だからこそ、他の皆を探す。
自分たち以外にも同じことを考えている人は絶対にいるはずだ。
殺し合いに乗る人もいるだろうが、それでも動かなければ何も起きない。

「そうですね、何もしないよりはそうした方が良いですものね」
「一緒にいる人は多い方が楽しいですからね~」
「それは違うと思います」

とにもかくにも『善は急げ』、という奴です



◆          ◆          ◆


外に出ると、冷たい風が肌に触れた。
なんという表現をすると文学っぽいですが、ただ風が肌に当たっただけですからね。
室内から外に出る時、風が吹いていれば大体起きる普通の現象のはずなのに。
そんな通常が異常に見えてしまう。

「元のバトルロワイアルも、通常が異常になったんですよね」

修学旅行に行くはずだった。
それがいつの間にか殺し合いに巻き込まれていた。
ふつうではあり得ないことが今、現実に起こってしまってるのだ。

「どこかの組織の陰謀、とか……言えたらいいんですけどね」

プロデューサーが宣言した殺し合い。
それが、実はテレビ番組のドッキリだった。
またはこれが全部夢だった。
それならどれだけ平和だろうか。

だが、少なくともドッキリと言うことはあり得ない。
支給品の中に入っていたあのナイフは間違いなく本物だった。
あれで人を刺せば死んでしまう。
ドッキリとはいえ、もし私が殺し合いに乗っていて誰かを傷つけたらどうするのか。
それこそ、企画した人たちは責任問題になるはず。

じゃあ、夢の可能性?
それだったらどれだけいいか。
シャワーも浴びて、風の冷たさを肌に感じて。
あれが夢だと自分は言い切れない。
夢には幾分もの可能性はあるが、ここまで現実に近い夢は
ないだろう。

以上から、この殺し合いは間違いなく計画されて実行されたもの。
そして、プロデューサーさんは私たちが死ぬのを、よしとしている。
そんな事を認めている理由は、なんだろう。

(……何か巨大な組織が、背後にいる……とか)

確かにあり得なくはない話だ。
普通に考えたらありえないが、今はそれがあり得てしまう。
どこかの組織が実験として殺し合いをさせた、とか。

「……んー」

普段ならば、もっと色々考えは出るのだが、今はぜんぜん出てこない。
やはり、現状の情報では予測の域にしか達せない。
推理小説で言えば殺人事件が発生してすぐの状態だ。
そこで犯人を当てろと言うのもかなり難しい。
いや、推理小説の犯人当てよりも難解である。
プロデューサーさんが殺し合いの進行をしている、と言う情報しかない。
黒幕がいるのか、プロデューサーさんが個人で計画を立てたのか。
個人でこんな計画が立てれるとは到底思えないが、765プロの企画力を見ればあり得なくはない。

実際、先ほど地図を見たときに見たことがある名前が数個あった。
いや……今までプロデューサーさんが企画したものにかかわる施設がたくさんある。
その最たる例と言えるのが、アイドルキャッスルだ。
伊織さんやまつりさんをメインとして行われていたイベント(だったはず)に使われていた城の名前だ。
ならば、野球場は昴さんを主として野球をした時。
それに、先ほどの摩天楼は昴さん達がやっていたイベントの時に使われた場所。

「今まで、私達が関わった物がここに全部来ている……?」

考えてみれば、全ての施設がどこかで関わってきている。
それに意味があるのかどうかなんてわからない。
だが、少しだけ言える事があるとすれば。

『プロデューサーさんは、私達と過ごしてきた場所を忘れていない』

『心の中では、私たちを思ってくれている』

ただ、それだけだった。
甘い考えかと言われれば、否定はできない。
それでも、信じたいからこそ、こう考えたいのだ。

「……って、あれ……美也さん?」

ふと考え事をして周りが見えなくなっていた。
そしたら美也さんが消えていた。
放っておいたらどこかに行ってしまいそうな人だからある意味心配なのだけれど。

「……どこ行ったのかな、まったく……」

私より年上だと言うのに。
年下の私に探されるようで大丈夫なのだろうか。
しかし、そんなに離れていないから大声を出せば見つかるだろうか。
だが、大声を出すのもそれはそれでリスクが高い。

「……大丈夫だと思って油断してるといけませんからね」

こういう時は大体大丈夫と油断したから、というパターンが浮かぶ。
という事で叫ぶのは避けたいが、どうしようか。

「……ええい、とにかく探さないと……」



そう思い動き出した時には、『それ』はもう始まっていた。



◆          ◆          ◆




例えば無知が罪であると言うのならば知りすぎる事はどうなるのだろうか。
それもある意味罪となるのかもしれない。
知りすぎる事は、それだけで真実を知ってしまうという事にもなる。

「……」

そしてその真実は、非常に重いものである。
知らないことより、辛い。
無知であればどれだけ良かったであろうかと。

「もう、2時間以上も経っていたんですね……」

開始から2時間、百瀬莉緒を殺害してから数十分だ。
プロデューサーに対し殺し合いをしろと告げられたのが、遙か遠くのように思えた。
だが、時間にしては2時間ほど前だ。
ゴールデンの特別編の番組ほどの長さしか経っていない。
それが早いのか遅いのか。
人にとっては取り方は違うだろう。
しかし三浦あずさ、彼女にはその時間は長かった。

人生において、ここまで長い2時間強を過ごしたことなどない。
道に迷ってるときよりも。
番組収録をしているときよりも。
ライブで歌っているときよりも。
遙かに長く、重いものだった。

「……」

だが、押しつぶされてはいけない。
そんな権利すら自分にはないから。
一度犯した過ちは取り戻せるとはよくいったものではある。
しかしもう自分は戻れない。
戻っても、百瀬莉緒がそれを許してくれないだろう。
自分が、殺した彼女が、許してくれるはずがない。

もう、戻れないほど背負いすぎていた。
勝手に背負っているだけと言われればそれだけかもしれない。
だけれど、自分のしたことをそれだけで終わらせられない。


それは、三浦あずさとしての、『アイドル』とへの微かに残っている残骸なのだろう。


こんな事をして、アイドル失格の事をしてまで。
三浦あずさはアイドルでいたがっている。
プロデューサーにもう一度会いたい。
そんな理由のために、仲間に手をかけた。

他の人からしたらただ‘それだけ’の理由とも見えるかもしれない。
だが自分にはその‘それだけ’が重かったのだ。
その思いは、三浦あずさを潰してしまった。

「……あら?」

そんな彼女は、あることに気づいた。
どこかから、声が聞こえると。



◆          ◆          ◆


「……あれ~? 百合子ちゃんがどこかに行っちゃいました~」

摩天楼付近をうろついている宮尾美也の姿がそこにはあった。
百合子がどこかへ行ったと言っているが、実際の所は彼女が百合子に置いて行かれただけである。
彼女自身は自分が原因だとは気付いてはいないが。

「むむむ……摩訶不思議ですね~」

摩訶不思議もなにもなく彼女のせいである。
雲が流れているのを眺めていて先に行かれていた、などとなると本当に彼女のせいである。
何度も言うが彼女のせいである。

「とりあえず探さないといけませんね~」

しかしそれに彼女が気付くはずがない。
彼女が考える事は百合子を探すことくらいだ。

だが、探すと言ってもどうすればいいかなどの具体策はない。
ただ地道に探すしかないだろう、となる。

「百合子ちゃーん! どーこでーすかー?」

と、声を出してみるが全然反応も何もない。
近場にいないのは明白である。
だが下手にここを離れて探しに行っても見つかるとも思えない。

「むー……」

やはりこのままじっとしているのが吉であろうか。
待っていれば百合子もここに来る可能性は十分あり得る。
誰かと迷子になった場合は元々いた位置を探しに来ることが多い。
だったらここで待っていればいつか百合子は来るだろうと予測できる。

「ならやはり待つしかありませんね~……」

結局下手に動くとすれ違いになる事も考慮し待つ事にした。
さっきの声を聞いて百合子もこちらに向かってきている可能性もあるし少しくらいは待つべきだろう。
それに、他に誰かと会えるかもしれない。

――――それが、どういうつもりで近づいている者であろうが。

美也はなんとなく気配を感じ取った。
近くに誰かが来ている、と。
立ち上がり周りを見渡す、と同時に遠くに人影が見えた。
その人影は……三浦あずさだった。
かなり距離は離れているが、視力がいい美也にとって誰かくらいはすぐにわかる。
それと同時に美也はある事に気が付いた。
あずさが、大きい剣を持っている事に。



◆          ◆          ◆


摩天楼の前にいる美也ちゃんがこちらを見続けている。
ある意味不気味な雰囲気を感じながら歩みを進める。
逃げる事も近づくこともしない。

逃げられるならそれは構わないと思っていた。
だが、逃げるどころが待ち構えているような。
私が今持っている、この剣が見えているはずだ。
なら、何か向こうも考えているのだろうか。
色々な思考が巡るが、会ってみない事にはわからない。

「……美也ちゃん」

美也ちゃんは黙ったままこちらを見ている。
普段のあのおっとりとした感じからは感じ取れないような、そんな雰囲気を醸し出している。

「あずささん、お久しぶりですね~」
「……」

だが、彼女自身は何も変わりがないように振舞う。
少なくとも、戦う意思はないとでも言うかのように。
というよりは、武器を出していない時点で戦うつもりはほとんどあるように見えない。


「どうして……逃げなかったのかしら?」


とりあえず、まずはそれを聞く。
剣を持っているのは彼女は見えていたはずだ。
ならば、逃げると言う選択肢も取れる。
そこだけが、謎だった。

「え~? 逃げるってどういうことでしょうか~」
「この剣を見て、どうして逃げなかったの?」

持っていた剣を、これみよがしにと見せつける。
だが、美也ちゃんは一切態度を変えない。

「ん~……どうしてでしょうね~?」

ふざけているわけでもなく、いつもの調子で美也ちゃんは返してくる。
少し考えるそぶりを見せると、美也ちゃんは答えた。


「あずささんが悲しそうに見えたから、ですかね~」


悲しそうに見えた。
その言葉に、少し動揺する。
答えになっていないが、その言葉は自分の心に突き刺さった。
すぐに怒りのような、よくわからない感覚が襲った。

「悲しくなんてないわ……だって」

だって――――だって?
なんだというのだろうか。
ここで悲しいと、苦しいと認めたら、どうなる?
今は何も起きなくとも、今後他の人を殺していくたびに心に傷を負うかもしれない。
いや、今の時点でも傷を背負っているのだ。
その上に更に、傷を負う事になる。

もう元に戻れないというのに、心に隙を作るのか。
そんな事をしては、この殺し合いに生き残る事など、絶対に出来ない。

「だってもう、手遅れだもの」

剣を、彼女の腹に突き刺した。
美也ちゃんの腹に、間違いなく剣は刺さった。
それを、ゆっくりと抜き取った。

「……ごめんね、美也ちゃん……さようなら」

これ以上苦しませるのは彼女に悪いと、剣を振り上げる。
その剣が、振り下ろされる――――。




「あずささん……無理しないでください」



その瞬間に、この声が聞こえた。
剣は美也ちゃんではなく、そのすぐ横の地面に突き刺さる。
美也ちゃんのその言葉に、動揺したのか。
剣の軌道がずれた。

「あずささん……すごく苦しそうですから……無理、しないでください~」

死が近づいていると言うのに、苦しいはずなのに。
彼女は何故自分の心配をするのか。
わからない、わかりたくない。
だけれど、一つだけわかった事があった。

彼女は……眩しすぎる。
これ以上、彼女に関わっていてはいけない。

これ以上関われば、どうにかなってしまいそうだった。

だから、この場から離れよう。
このまま放っておいても、美也ちゃんはまず助からない。
それにこれ以上剣を使って消耗する必要はない。

そしてなにより、美也ちゃんの顔を見たくなかった。



◆          ◆          ◆



震えが止まらなかった。
ただ、物陰に隠れて時間が過ぎるのを待つだけだった。
あずささんはどこかに逃げたように見えたから、今行っても問題はない、はずだ。
だが、もしあずささんがどこかに隠れていた場合、自分まで殺されるかもしれない。
その時は逃げればいいかもしれないが、あずささんを見ただけのこの状況ですらこんなに怖いのだ。
隠れていて出てきたとして、恐怖で動けなくなることだってあり得る。
そうなれば、本当にお陀仏になってしまう。
すぐに美也さんを助けなければ間に合わない事くらいわかっている。
助けても助からないかもしれないが、自分は助けなかった。
美也さんよりも自分の身の可愛さを優先したから。

「……」

物陰から顔をのぞかせる。
美也さんは、いまだ倒れたままだった。
当然である、動けるはずがない。

その傍にあずささんはもういなかった。
もういなくなったのだろうか。
本当にそうならどれだけ良いだろう。

息を吐いて、立ち上がる。
隠れていた場所から出て、周りを見渡す。
視界良好、自分と美也さん以外誰もいない……はず。
さっきも考えたが、どこかにあずささんが隠れている可能性もある。
だが、もうそんな事を言ってられなかった。
美也さんをこのままおいて逃げるなんて、したくなかったし、できなかった。
見捨てておいて、許されると思えなかった。

「……美也、さん」

腹部を貫かれている。
そこから血液が流れ出ている、もう助かることはありえない。
そう確信できるほどの傷だった。

微かにまだ息があり、生きているが……もう手遅れだ。
その場にしゃがみ、美也さんの手を取る。
まだ少しだけ温かい彼女の手を握り締める。

「……ごめん、なさい」

言ってももう聞こえてるかすらわからない。
それでも、謝らずにはいられなかった。
私のせいなのだから、私が弱いせいで美也さんはこうなってしまったのだ。




「ゆり、こちゃん」




「…………え?」

何が起きたかわからなかった。
いや、わかってはいるのだ。
ただもう、彼女にはそんな力は残っていないと思っていた。
ただ少しでも生きながらえるために足掻いているしかできないとまで思えた。

「美也さん……」
「泣、いちゃ……ダメ、ですよ~?」
「……え?」

美也さんの手を掴んでいない左手で頬を触る。
手にあったのは、液体がついた感触があった。
泣いていたのだろうか、自分ですらわかっていなかった。
まるで感情をなくしていた機械のような、普段ならそう言って騒いでいたかもしれない。
だが、今はそんな事は心底どうでもよかったのだ。

自分は、泣く権利なんかないはずなのに。
悲しむ権利なんてないはずなのに。
なのに涙は止まるどころが溢れ出てくる。

「……なんで」

なんでかなんて、そんな事は簡単だ。
自分は仲間が死んでも乗り越えれるほど強くなんてない。
『バトルロワイアル』の七原秋也のように、死を乗り越えるなんてできっこない。
同じ武器を支給されていようが、彼と私は圧倒的に違うのだ。
私は七原秋也ほどに強くない。

「なんで、私の事を気にしてくれるんですか……!」

だからこそ、この行き場のない怒りのような、悲しみのようなものを何かにぶつけたかった。
その先が、宮尾美也だというのが、最高に滑稽で最低な行動であるとわかっていながら。
自分を罵ってくれればそれで楽になれるのに。
美也さんは罵るどころが私の心配をした。
そんな美也さんの優しさを受け取る自分が許せなかった。

「もう、死んでしまいそうだって言うのに、私の事を気にして!
 私がもっと早く来てれば、こんな事は起きなかったのに!
 なんで、なんで……!」

涙が止まらず、呂律すら回っていない。
結局もう、それ以上喋れなかった。
喋ろうにも、何を言えばいいかわからないし。
これ以上彼女にあたる自分が恥ずかしかったから。

「……だって、悲しいじゃないですか~」

それに対し、美也さんは答えた。
いつものような、優しい声で。


「お別れに涙なんて……悲しいですから。 最後くらい、笑ってお別れしましょう~?」


その声を最後に、彼女の手から力が抜けた。
もう、彼女はここにいないのだ。
間違いなく、死んでしまった。

掴んでいた宮也さんの手をそっと地面に置く。
そして、宮也さんの顔を見た。
彼女は――――笑っていた。
微笑みと言うような笑みを、浮かべていた。

「……笑えるわけ、ないじゃないですか」

最後まで、美也さんは笑っていた。
私を悲しませないために。
笑顔にさせようとしてくれていた。

「幸せにしようとしてくれて、笑顔にしようとしてくれて……そんなにもしてもらったのに
 私は何も出来ないどころが……貴方を見殺しにしたんですよ……!」

自分の事を見殺しにしたと言っても過言ではない相手に対して。
その事実を美也さんが知っていなかったとしても。
私は美也さんを見殺しにして自分だけ助かった。

そんな自分が、許せなかった。
殺してしまいたいほどにまで、許せなかった。

そんなのはわかっている。
だけど、私は――――。

「う、うぅ……ぁ」

涙は止まらない。
泣くことを美也さんは願っていなかったと言うのに。
自分にその権利はないと自分で言っているのに。
一向に――――涙は止まってくれませんでした。


【宮尾美也 死亡】


◆          ◆          ◆



もう一度会いたい。
ただそれだけの理由で、私は仲間に手をかけた。
それを許してもらうつもりはなかった。
憎まれながら、それを背負って、惨たらしく生きていくつもりだった。
――――なのに。

「あんな事言われて、何も思わない訳ないじゃない……」

自分を殺そうとし、実行した人間に対して、
あんなに真っ直ぐな事を言えるだなんて。

「――――でも、もう退けない……退いてはいけない」

だが、それでもここで止まるのはいけない。
莉緒ちゃんを殺し、美也ちゃんも殺した。
その時点でもう戻る選択肢など選べない。
修羅の道であろうが、茨の道であろうが、なんだろうが進むしかない。

「あの人に、もう一度会いたいから」

ただ、傍から見ればそれだけの理由で。


【一日目/午前/D-7】

【三浦あずさ】
[状態]健康
[装備]明日を拓く剣
[所持品]支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
1:殺し合いに乗る
2:真っ直ぐな彼女が、眩しかった



◆          ◆          ◆



結局、戻ってきてしまった。
摩天楼の最上階のこの部屋に。
美也さんと再会した、この部屋に。

もしこの部屋から出なければ、何も起きなかったのだろうか。
美也さんは死ぬこともなかっただろう。
私も、ここまで引きずることもなかっただろう。

「ごめんなさい」

そう言いながら、ベットの上で眠る彼女に目を向ける。
その顔は、まるで良い夢でも見ているかのような幸せそうな顔だった。
だが――――もう彼女は死んでいる。
綺麗な顔をしていようが、死んでいるのだ。
もう二度と私と会話することもない。
アイドルとして活動する事も出来ない。

それを奪った原因の一つが――――私だ。

その事実を受けても平然としていられるほど、私は強くはない。
美也さんのように誰かを幸せにできるとは思えない。
小説の主人公のように、ここで意思を固めるようなことは出来ない。

「……ごめん、なさい」

もう、何もかも投げ出したかった。
ここで、自殺でもすれば解放されるのだろうか。
そう思いながらナイフを手に取る。
それを自分の喉元に突き立てる。

手が震える。
怖いのだろうか。
怖いに決まっている。
死にたくなんか、絶対にない。
でも、生きていても辛い。


「……」

だが、それでいいのだろうか。
美也さんがそれを願っているのだろうか。
ここで苦しむことは、彼女に対する冒涜と同じではないのか。
皆を幸せにしようとした彼女を、今の私は踏みにじっている。
彼女の信念を潰している。

美也さんの事を、何もわかってあげれていない。

様々な気持ちが交錯している。
諦めたいと言う気持ちと、諦めたくないという気持ち。
風の戦士として戦うか、ただのひ弱な少女として戦う事を止めるか。

「――――美也さん、もう一度……魔法をかけて欲しかったな」

彼女の魔法は、私を元気づけてくれた。
ただただ、虚無感が支配していた私を救ってくれた。
だが、彼女はもう魔法を使えない。

自分で立ち直るしか、自分で自分に魔法をかけるしかない。
今の私には、それをするだけの力はありません。

私に、美也さんみたいな魔法をかける力はありません。

「……あれ」

視界が、くらくらし始めてきました。
まるで世界が終るかのような。
夢から醒める時のような。
そのような感じが、私を支配した。

意識が離れていく。
なんとか繋ぎとめようとしても、自分の内面がそれを許さない。
諦めて投げ出したい、その気持ちが全てになる。


――――――――おやすみ



【一日目/午前/D-7 摩天楼】

【七尾百合子】
[状態]精神的疲労、睡眠
[装備]なし
[所持品]支給品一式、軍用ナイフ、鍋蓋
[思考・行動]
1:……
2:あずささんは、危険だ

※D-7摩天楼最上階の部屋に宮尾美也の死体及び支給品がベッドの上に置かれています。

 争いが絶えない世界に僕らが迷い込んでも   時系列順に読む   The Trojan Horse 
 争いが絶えない世界に僕らが迷い込んでも   投下順に読む   The Trojan Horse 
 ♪魔法のアンサンブル   七尾百合子   ナナオリミックス
 宮尾美也  死亡
 ずっと夢を見て  三浦あずさ   アナタガ欲シイ


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