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カラクリドール

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カラクリドール

カラクリの世界で操られるドール達
繋いだその糸を断ち切ることは出来ない


   ◇   ◇   ◇


ほんの少し傾きかけた太陽に照らされる町並み。
その明るさとは裏腹に、辺りは閑静な住宅街と形容することすら憚られるほどに静まり返っている。
そこを通るは一人の少女。
彼女にとっては一度通った道なので慣れはあるが、それでも不気味なことに変わりない。

そんな町並みには目もくれず、未来は俯きながら歩いていた。
その表情は暗く、目元はやや赤く腫れている。

「あった……」

何故未来は来た道を戻っていたのか。
それはある物を回収する為。
探し物は案外早く見つかったようだ。

コンクリートの上には、人の様な形をした何かが転がっていた。
腹部に当たる部分が切り裂かれ、中身が飛び出しそうな程に大きな亀裂が走っている。
右肩の接合部は千切れており、付近には破損した腕がある。
その顔に生気はなく、目も黒く虚ろであった。
誰が見ても死体を連想するであろう、おぞましい物質。
それは未来の友人を模して作られた人形だった。

「翼……本当に死んじゃったんだね……」

当然これは人形であり、伊吹翼そのものではない。
しかし、翼本人もまた、もうこの世には存在していなかった。



それが分かったのは、未来が警察署にいた時である。
彼女が休息をとっていると、室内から放送が流れ始めたのだ。
その声には何もこもっていなかったが、確かに聞き慣れたプロデューサーの声であった。

唐突に始まったそれを未来は大人しく聞いていたが、やがてその表情は怯えたものへと変わる。
彼の口からは、死者の名が淡々と告げられていた。
天海春香、菊地真を筆頭に、かつて慣れ親しんだ者の名が続々と挙がる。

ただひたすらに怖かった。
プロデューサーも、紗代子も、未来の知る人物が次々と変貌していく。
そして、皆死んでいく。
どんどんいなくなって、やがて一人ぼっちになってしまうのではないか。
一人でいるにはあまりにも広い警察署の中にいると、そんな恐ろしい想像がどんどん浮かんできてしまう。
孤独であることが急に耐え難く感じられた。

怖い。
早く誰かに会いたい。
一人になりたくない。



そんな時、かつて所持していた人形のことを思い出し、現在に至る。
嘘でもいい。誰かの温もりを感じたかった。
紛い物ではあるが、共に過ごした仲間の面影を感じ、少しだけ安心する。

「本当に翼そっくりだね、君は」

人形の顔を愛おしそうに撫でる。
文字通り死人のような表情であったが、その造詣は本物と瓜二つだ。

「『みーらいっ、元気出して。スマイルスマイル♪』……なーんて。昔はよくこうやってお人形遊びしてたっけ」

人形の手を振ってみる。
胴体ががくんがくんと揺れた。


「……何か言ってよ」


人形は応えない。


「ねえ……ねえってば……」


人形の体を揺する。
首が取れてしまいそうだ。


「何か……喋ってよ……」


人形の顔に雫が落ちる。
未来の目には涙が溢れていた。

伊吹翼は死んだ。
未来の知る翼はもうどこにもいない。
甘ったるい声も。
眩しい笑顔も。
もう未来には届かない。


「つばさぁ……あいたいよぉ……」


人形を強く抱き締める。
固く冷たい無機質な体であったが、手放せなかった。
こうして抱いていれば、翼の体温を感じられる。
翼がすぐ傍にいてくれる。
そんな気がしたから。


   ◆   ◆   ◆


ほんの少し傾きかけた太陽に照らされる町並み。
その明るさとは裏腹に、辺りは閑静な住宅街と形容することすら憚られるほどに静まり返っている。
そこを通るは一人と一つ。

未来の腕には大きな人形が抱かれていた。
腕も首もだらりと垂れ下がり、不気味な様相を呈している。

少し歩きにくいが、それでも構わない。
今、翼の存在を思い出させてくれる物はこれしかないのだから。
翼が一緒にいてくれる。
そう思うと、少しだけ心が安らぐ気がした。

殺す者。殺される者。
誰もが皆、プロデューサーに、彼の用意した舞台に踊らされている。
不恰好に舞う人形たちを縛る糸は、命枯れ果てる其の時まで千切れることはない。

翼もまた生命を燃やし、この人形の様に朽ちたのだろう。
彼女を失った悲しみは未だ癒えない。
それでも、翼の分まで生きなければならない。
それがきっと、残された者の使命だと思うから。

未来と翼を、仲間たちを繋ぐ絆の糸はまだ切れてはいない。
そう信じ、未来は再び舞台へと戻っていく。


【一日目/日中/F-3】

【春日未来】
[状態]健康、深い悲しみ
[装備]屍人形(半壊状態)
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
1:皆でまた、楽しくアイドルがしたい
2:皆を探してプロデューサーさんを止める
3:紗代子さんを、助ける?

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