◆Introduction
2022年12月04日の午後、3時過ぎだったと思う。
辺りが急に騒がしくなったことに内心びくびくしていた私は、中央広場からの大きな歓声によってそれを知らされた。
ついに最初のフロアボスモンスターが倒されたのだ、と。
前の人の真似をして初めて飛んだ2層主街区の転移門広場は既に満員電車みたいな人口密度で揉みくちゃにされた。
日が暮れてもお祭り騒ぎは一向に収まる気配をみせず、どうもそのまま夜通し朝まで続いていたらしい。
あんなに多くの人達がこぞって大喜びしているところを私はそれまで見た事が無かった。
諦めずに戦い続けて『不可能ではない』という希望を示してみせた人達はまさに英雄だと思う。
2,000人もの死者が出たこの一ヶ月間、私は《はじまりの街》で震えている事しか出来なかった。
頭の上に重く圧し掛かっていた蓋からの解放と人々の笑顔はそんな私にも勇気めいたものを与えてくれたらしい。
翌朝、初日以来アイテム欄に入れっぱなしだったスモールソードを取り出して装備してみた。
そのまま《はじまりの街》を出て、1匹の青イノシシを周囲の人達全員で狩っているのに混ぜてもらった。
そして私は――――ようやく私自身とこの世界の現実を正しく理解したのだった。
この世界……このゲームは《たたかう》というコマンドを選んだら自動的に攻撃してくれるゲームとはまるで違った。
ゲーム世界の住人でも物語の主人公でも無い、ただの一般人でしかない私自身が武器を振るって戦わなければならない。
――――多分、私は最後まで生き残ることは出来ないだろう。
一ヶ月間脅え続けてどこか感覚が麻痺していたのかもしれない、不思議とあまり絶望はしなかった。
ただ、このままは嫌だと思った。
これまで生きてきて、何かをやりとげられた事なんてまだ一度も無い。
優しい祖父と理解のある両親は幼い頃から私に色々と機会を与えてくれたけれど、結局どれもうまくやれなかった。
このまま私のいる意味を何も見出せず、何の成果も無いまま死んだら寂しすぎる。
家族や今までお世話になった人達にも申し訳ない。
これまでが惨めだったのは仕方が無いけれど、惨めなまま消えてしまうのは嫌だった。
どんな形ででもいい、私は確かにここに居たというしるしを、私が生きていたという証を残したい。
この世界に同情や悲しみ以外のなにかを残せたなら多分、きっと。
私にもなにか意味があったんだって、そう思える筈だから――――
最終更新:2014年06月20日 15:50