まだ、残っていた……残っていて、くれたのか……

発言者:角鹿 彰護


“魔女”の真実を知り、自覚すらしていなかった、己が心の奥底で拠り所としていたもの───
かつての事件で犠牲になった少女達と仲間たちの敵討ちという正当なる復讐の理由を、完膚なきまでに打ち砕かれた彰護。
その果てに、彼は総てを見離し、誰一人として必要とせず万象との共感を絶ち透明な殺戮者と化した。
それにより怨敵である至門をあと一歩のところまで追い詰め、あとは最後の引き金を引くだけで終わりとなるその刹那……
如何なる理由によってか今まで認識する事が出来なかった透明な殺戮者は、その銃口を至門へと向けたまま引き金を引く事無く硬直する。

そして無防備を晒した角鹿は苦し紛れで放った至門の銃撃を受けて冗談のようにあっさりと沈む。
消えゆく意識の中、角鹿は自分自身を襲った不可解の謎を想い続ける。
這いつくばりながら逃げ惑う至門がキャロルの身体を盾とした瞬間の事を。
身体の内より溢れ出た自らの人差し指を拘束した力を。
そこに想い至った瞬間、彼の頭に過るのは7年前の事件をきっかけに灰と化したはずの日々。

誇りと信念の下に、肉体と精神に刻みこんできた人間としての筋金
撃つべき者と守るべき者とを極限状態で峻厳に分かつ、徹底したあの標的の撃ち分け訓練の日々

「そう……か……」

自身を止めたものの正体、それを理解した瞬間に角鹿の死相に、かつて永遠に一度葬られた表情───笑顔が灯る
たとえようもない嬉しさと歓びが空虚な胸を満たしていく。

「まだ、残っていた……残っていて、くれたのか……」

それは、幼き日自覚した角鹿彰護の初期衝動。
善も悪も混沌として定かならぬこの世界で、それでも自分なりの正義を貫くため小さな拳に握りしめた魔法。
そしてその果てに行き着いた、正しき者を護り、悪をこそ撃つためにこそを使うという法の守護者としての在り方。
7年前の地獄で燃え落ち、灰になったはずの魂が確かに自分の中に存在して、堕ち切った今の自分を止めたという事実。
結果として命を落とす事になったものの角鹿の胸の中に後悔など微塵たりともなく、
あるのは最後の最後で自らが人として大事なものを取り戻せたことに対する歓喜。

そうして己が魂を確かに取り戻した男は茫洋と滲む視界に映る泣き叫ぶ少女へと手を伸ばす。
その嘆きと涙を止めてやりたいと、かつて誰かの笑顔を護るため力を振るうと誓った一人の警察官として

……あり……が……とう

最後に発したその言葉が言葉になったのかすら角鹿にはわからない。
けれど、少女はその一瞬涙を忘れた――ように思えた。
それに満足し、角鹿は暗黒への落下に身を任せた。一足先に自由になった仲間(とも)たちが待つ世界へ。

最後に誰かの命を守れた、その誇らしさを噛み締めながら……




  • 展開だけ見るとどう見てもトゥルーエンドなのにその後が悲しい -- 名無しさん (2019-05-16 23:51:09)
  • 個人的にはこっちのルートの方が好き -- 名無しさん (2019-05-16 23:55:42)
  • こっちの方がトゥルー感あるねたしかに。撃ち分け訓練の伏線回収が鮮やかすぎてくそほど感動した。 -- 名無しさん (2019-06-29 20:01:45)
  • 最後「ありがとう」なのもポイント高い。 -- 名無しさん (2022-10-26 12:39:55)
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最終更新:2022年10月26日 12:39