女は強くないとやっていけないんでしょう? ねえ、置いて行かれた相棒さん



グランド√、まるで目に見えない亡霊(ゴースト)によって導かれて(憑かれて)いるかのように、
不細工な怪物の群れを素通りして先に向かったとしか思えないトシロー。
彼を追いかけるニナとシェリルは、譲れぬ気概を胸に獣達の相手を繰り返していたが、次第に厳しい状況に立たされていた。


―――どうよ、お嬢。まだイケる?」

「どうしたものかしらね……根性論も、だらしないものだわ」


――そんな彼女達を救ったのは、ルーシーが連れてきた……地下社会(アンダーグラウンド)の覇者・アルフライラの率いる武装集団だった。
この策は、事前にニナが保険として考えていたものであり、確かに怪物達の危険は一時過ぎ去ったが……
判りやすい砲火の嵐(ぼうりょく)をちらつかせて、アルフライラは泣き付いてきた公子(権力者)を脅しにかかる。

だが、「臣」命懸けで伝えた言葉を胸に
「吸血鬼」ではなく、今の自分として闘い抜く覚悟を決めた公子は……その政の駆け引きに、臆することなく切り込んでゆく。


「あなたが最も持ち味を発揮するのは、法の隙間や荒事だわ。
それが存在する限りは有能でも、経営や統治には向いていない」

「あなたがここで欲しいのは私への借り。権力構造や支配に興味はない、
恫喝で権力を反故にするための交渉材料(カード)が欲しいのよ」

「ああ、私は別に構わないわよ? 暴力機構(マフィア)保安官(シェリフ)は禁酒法のときから、ずっとお友達のはずだもの」

……くすくすと上品な笑みを浮かべつつ、冷たく相手の弱みを突く実に「頼もしい(恐ろしい)」ニナの姿に、
シェリルは顔を引きつらせながら、自分はこうした政の場には絶対関わるまいと決めていた。

楽な相手だと舐めていたはずが、見事に予想を裏切られたアルフライラ。

「ま、上手く灰色(グレーゾーン)の蜜を吸わせてあげるから安心して。
大丈夫よ、支配者やってれば切り捨てるべき膿なんてのは幾らでも出るわ」 

これは「共生」だとしたたかに告げるニナは、真っ直ぐに地下社会を統べる女傑を見つめ……

「商談をここに、アルフライラ・ワ・ライラ――あなたが持つ野獣の群れを借り受けたい」

「これからも善き関係を築けるよう。どうか、ご英断を」

内容こそ権力者による後ろ暗い話ではあったが、力を求める意思は純粋で、陰惨さを感じさせない。
灰色をして良しとする、清濁併せ呑む決断であった。
――結果、アルフライラは獰猛な戦意を覗かせつつも、これはこれで満足と……戦いの場に駆けだすのだった―――



そうして、一仕事を終えたニナ。我ながら腹芸が巧くなったものだと、シェリル達に笑いかけるも……

労いの言葉をかけられたルーシーは、先程まで見ていたニナの「笑顔」に、
完全に委縮してしまっており、原因にあまり自覚がない公子様はシェリルに問いかけた―――


「………ねぇ、そんなに怖い顔していたかしら、私?」

「悪い顔はしてたね。もう見てるこっちがどん引きするぐらいの、えげつないやつ」


シェリルのしてやったりという表情に、ニナは思わずむっとする。
公子という立場を除けば、自分とて一介の女性であるから――強烈な返しをお見舞いしてやろうと……



「そう……まずいわね、ならトシローの前では見せないようにしないと」

「んなっ――ああ、そういうことなわけ、お嬢。
身の危険がなくなったと思えば、まぁこの女はいけしゃあしゃあと……諦め悪ぅ


驚き、そして苦々しい表情を浮かべた女に、ニナは実にいい表情で(・・・・・)言い放つ。


「女は強くないとやっていけないんでしょう?
ねえ、置いて行かれた相棒(パートナー)さん」
おめでとう! 余裕ない系お嬢様は腹黒裏表系魔女にチェンジしたぞ!!

同じ男に惚れた、そんな二人の間に芽生えたのは、奇妙な連帯感
譲れない未来図を互いに胸に描きつつも、互いが互いを好ましく思うという可笑しさ
そして、決着をつける前に必要な事は、もうとっくに決まっているから―――


「まずはその前に、男の調教をしないとね」

「手伝うわ。あの後ろ向き、ちょっとは改善させないといけないもの」




  • こういう女の戦いって感じで静かな火花を散らし合うやり取り好き -- 名無しさん (2018-11-05 19:54:23)
  • しかし昔の女とホモには勝てなかった -- 名無しさん (2018-11-06 03:28:25)
  • この時の女たちはlight作品でも屈指の"強い女"なんだけどなぁ…相手が悪い… -- 名無しさん (2018-11-06 15:09:56)
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最終更新:2021年12月01日 23:44