駄目だな、コレは。つまらない



グランド√、己にとっての唯一無二を奪われぬために、持てる全力で《伯爵》に挑んだバイロン
その結果は、バイロンの(肉体)が強化の限界を迎えたことで自滅による敗北に終わろうとしていたが……

カーマインを喰らい、更なる高みへと昇った伯爵の姿に、
バイロンは「抵抗」を止め……かつて見た絶対の“吸血鬼”に今一度出逢えた、その感動に涙しながら。
無防備なままその薔薇の生命を、己がそう成りたいと願った想い人にして、同時に穢したくない理想───伯爵に差し出したのだった。

結果自体はどこまでも見えていたものであると、淡々と己の継嗣の死を見届けた伯爵。
ただ、小さな、しかし理解できない一つの疑問が彼には残った。
それは───彼女(かれ)の最期の「変化」であった。


「あれほど依存していながら、最期は妙に聞き分けがいい。
悪食(あくじき)の性根を持ちながら、似つかわしくない終焉だ」


あれは蛇のように執拗で、妄執に憑かれていた。そうなるように誘導した(・・・・・・・・・・・)はずなのだ。
諦めるような存在ではない。たとえ血の一滴になっても己を求めるだろう。
牙を鳴らし、砕けた身体を猛らせてでも自らを求めるはず……そう思っていた予想は最後になって外れた。
最後まで醜悪に欲しい欲しいと叫ぶはずが、自ら差し出されるなど考えもしなかった。


「……惜しいな。ようやく私の興を惹けたというのに。
せめてその心持ちだけは、おまえの口から聞いておきたかった」


健やかに、満たされて逝ったことを不思議に思う。
己の予想だにしなかった行動を取ったのが、死の間際。
蝋燭の燃え尽きる瞬間こそが最も美しいとは、よく言ったものだと伯爵は一人納得しようとして。


それが原風景(はじまり)だったからさ───吸血鬼(ヴァンパイア)


たった一人の“観客”が、疑問の答えと共に、静かに歩み寄る。


「憧れた瞬間はそれほどまでに眩しい。
後の人生を変え、全てを追い求めるための動力源へ変えてしまう。
それが再び、死に至る寸前に現れたんだ。心の一つくらい奪われるさ」


「……たぶん、あんたには判らない話だろうけどな」


『カサノヴァ』の元マスターにして、贋物の同族殺し
アイザック・フォレストは、血族の頂点たる《伯爵》に語りかけた。

その飄々とした雰囲気を崩さぬ男に、伯爵は淡々と応答する。


「そうだな、判らぬ。理解ができぬよ」

「道具と言われ、報われぬと思い知った。ならば後は荒ぶる精神を鎮め、次なる道を選べばいい。
執着と依存にいつまでも囚われているなど、不毛であろう。童すら判る理屈だ」


魂の底から屈服を命じる圧力を、反骨心と気概でねじ伏せながら……アイザックは、王の言葉に苦笑を返す。

「それはまた、機械みたいな物言いだ……」

そこの人形(・・・・・)とは違い、俺達の心はもうちょっと複雑なんだ。そうそう簡単に方向転換はできやしない」

「車は急に止まれないだろう? 仮に、平然と止まれる奴がいればそれは──きっと、大した願いなんて持っていないさ」

「何でもあっさり捨てられる、ということだからな」

そのまま伯爵からの目的を問う言葉に対し、“観察”を終えたアイザックは……


「──駄目だな、コレは。つまらない(・・・・・)

――そう、吐き捨てた。


「……なに?」


「……言い直そうか?
がっかりした。お呼びじゃない。面倒くさそうだ。どうでもいい」


「サンタクロースの正体を知った子供の気分だよ……
やっぱりこういうのは、知らない内が花なんだろうな」


どこまでも投げやりな対応で、関心を抱かれていることすら億劫そうに
「血族の完成系」への畏怖と憧憬ではなく、心の底からの落胆(・・)の意を示した。


そんな希少(・・)な感想を持った男に、伯爵はアイザックに問を投げる。

「ならば問おう。常道から違えた、異端の徒よ。
おまえにとって、吸血鬼(ヴァンパイア)とは何だ?如何なる存在を指し、怪物として真であると提唱する」


その問に対する答えに、アイザック・フォレストは一切の迷いなく、告げる。


三本指(トライフィンガー)───トシロー・カシマ」


……それこそ、己を虜にした逸脱者(ヴァンパイア)


「血族でありながら、吸血鬼など居ないと口ずさむはぐれ者。
夜に堕ちながらも、夜を傍観し続けることでただの人を自称する変人」


「俺が目指したいと思った、憧れの相手さ」


自分と近しい存在でありながら、自分には選べない選択ができる者だからこそ―――アイザックは“彼”に焦がれた。
その気概、精神の光輝(チカラ)に惚れ込み、
こう成りたい(・・・・・・)と狂おしく望んで、今もずっと停滞を拒み、走り続けてきた。

そして同時に、今目の前にいる、精神(自我)の輝きを持たない、「何もかも想像通りの吸血鬼」という巨大な記号は……
アイザックにとってまったく、趣味に合わなかった(・・・・・・・・・)のである。


「あんたは、吸血鬼らしすぎる(・・・・・・・・)
威厳に溢れた風貌、強大な力、深淵な計画、揺るがぬ意思……
どれも想像通りで、確かに理想形だろう」

「だからかな。俺にはあんたが、安っぽく(・・・・)見えるんだよ。非現実的すぎるために、違和感がひどい。
定番の銀幕の向こうの怪物(フィクション・モンスター)────よく出来ているものだと思っている」





  • 伯爵「我が友に憧れたのか。見る目あるな。」 -- 名無しさん (2018-06-04 23:16:38)
  • 変態は変態を知る -- 名無しさん (2018-06-04 23:39:18)
  • バイロン「やっば全力で攻撃したら最初見た時みたいに超カッコいいんだけど。もうまじ無理、尊すぎてなんもできない、全部差し上げたい」 -- 名無しさん (2018-06-05 08:29:01)
  • バイロンがなりたかった伯爵にとって特別な存在に会話だけでなったアイザック -- 名無しさん (2018-06-05 23:36:53)
  • そりゃバイロンは盲信レベルの憧憬が存在理由だからアイザックと同じ方法じゃダメだろ -- 名無しさん (2018-06-09 17:41:28)
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最終更新:2024年03月29日 11:18