どうしてよ。あたしは大それた望みなんか持っちゃいなかった。ただ一番小さな幸せだけでいい……ずっと、そう思っていたのに



とある事件をきっかけに、相棒・トシロー忌呪により死ぬ運命にあることを知ってしまったシェリル。
その事実を前に、しかしシェリルは迷いながらも、40年の間ずっと……自分達二人の間にあった『一線』を越えることを決意。
トシローへ向けて、精一杯の歌声に乗せずっと形にできなかった“愛”を伝えるのだった。


――その肝心の告白相手である朴念仁は、何も返事を寄こさぬまま、ふらり、と。夜の闇に消えてしまい……。
二人の棲家であるK&M探偵社のオフィスに一人、シェリルはやり場のない思いを抱えていた。

そんな彼女の前に現れたのは、意中の相手……などではなく、
かつて自分達を妨害し、トシローに謎の執着を見せていた、三本指(トライフィンガー)”を名乗る謎の包帯男。
トシローの不在と、彼を狙う危険人物の到来に不吉な予感を感じつつも、
相棒の現状を何とか掴もうとするシェリルだったが………

三本指を名乗る男は迂遠な言い回しを用いながらも、次第に彼女を、“ある事実”へと誘ってゆく。
そう、自分がずっと傍にいて、しかしその過去(きず)に踏み込もうとしなかった大切な男こそが――真実の三本指であると。
直感で、彼の闇の正体を理解してしまったシェリルは、必死にそれを受け入れる事を拒もうとするも、
包帯の男はまるで全てを見通しているかのように、彼女の迷い、躊躇いを見抜き───こう告げたのだった。


『フフ……だが、言葉で覆い隠そうが真実は一つ……どれだけ背を向けようが、それはそこにあるだけだ』


その男の言葉に、シェリルは今度こそ言葉を失った。
過去を恐れ、触れることを避け続けてきた彼女にとっては何よりも痛烈な言葉だったゆえに。


過去の真実はいつでも傍にある。無かった事になど出来はしない。
どれほど迅く、どこまで遠く逃げたとしても、己の()だけは絶対に振り切れはしないのだから。

───ならば。 忘れる事、触れない事……せめてそうする事が、現在(いま)を守る唯一の方法だと思っていた。


追い掛けてきた、“過去”と言う名の怪物を前にシェリルは……


「……どうしてよ。あたしは大それた望みなんか持っちゃいなかった。
ただ一番小さな幸せだけでいい……ずっと、そう思っていたのに」


だからこそ、本当に欲しい(もの)には手を伸ばさなかった。
それを前にして忍び続けることを自分は選んだ。



「なのに……なんで、どいつもこいつも……あたしの邪魔をするのよ!」



けれど、最後は偽らざる胸の想いを吐き出した。
そうしなければ、永遠にその機会を失ってしまうから。
永遠に取り戻せない後悔を引きずる事になってしまうから。


『単純な話だ』


運命への怒りと反抗を乗せ、叫び上げたシェリルの想いにしかし、男は冷水を浴びせかける。


『この世界に存在するのは、おまえたち(・・・・・)二人だけじゃない……
たったそれだけの当たり前の事実だ』


そんな幻想(おもいこみ)など、存在しないのだ…と。




  • ホモの嫉妬に見えるんだけど、そんなありきたりで可愛らしいもんじゃないんだよなあ…… -- 名無しさん (2018-02-28 08:30:54)
  • やってることはうわぁ…って感じだけど言ってることはわりと真理なホモ -- 名無しさん (2018-02-28 15:06:13)
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最終更新:2024年04月03日 21:21