白い杭

ホワイト・パイル



凡ての肉の命はその血なればなり

血を喰らう者は、凡て断たれるべし


『往くぞ、アリヤ』

『我ら白木の杭。これより再び、狩りを始めましょう』



『Vermilion -Bind of blood-』に登場する、『吸血鬼』を滅ぼす象徴≪白木の杭≫をその名に冠した、伝説の白影の刺客(ヴァイスシャッテン・アッテンタート)そして本作屈指の煽りのプロ
人体の潜在能力()を育て、世代を重ねた高度な殺戮技術()を操り、憎悪と人類愛()を駆動させ、単身で縛血者(ブラインド)を滅するに至った究極の狩人(イェーガー)

同業者からも畏怖される逸脱者(モンスター)。信仰でも学術的探究でも娯楽でもなく、ただ吸血鬼を狩り滅ぼすという純粋なる“意志”の使徒。
その徹底ぶりは狙った標的を確実に炙り出し、抹殺するために場合によっては鎖輪の中枢を襲撃し、その社会的機能を完全に破壊する事も躊躇わない。
事実、早期にクラウスという怪物を同じく異端であるトシローが捕捉できた一部共通ルートでは、彼らからの被害を抑える事が出来たものの、様々な要因が重なった結果クラウスが自由に活動する時間が生まれてしまったアリヤルートでは、『裁定者』の被害も加わって完全に取り返しのつかない状況にフォギィボトムは陥ることになった。
アイザックの言を借りれば、「無駄なことはしない。行動を起こすってことは勝つってこと」「ハメて(・・・)殺すタイプ」

作中では、彼らの起源が何処なのか、四代目以前の“白木の杭”はどのような存在だったのか、狩りを続ける物資等はどのように確保してきたのか等といった点については触れられてはいない。
が、現代まで狩りの歴史を重ねてきたピオ同志会(ソダリティウム・ピアヌム)アリヤに挨拶代わりに〆られ不様を曝した構成員の様子や、300年以上を生きた藍血貴(ブルーブラッド)であるゴドフリの発言から、先代の杭達が積み上げた(異端者としての)活動経歴は相当大きな影響を与えているとみられる。



本編に登場した“白木の杭(ホワイト・パイル)”たち




四代目“白木の杭” ヴィクトル・シュヴァンクマイエル・クラウス


「全ては、後に続く者の為……地獄へは貴様も連れてゆく。
覚えたか吸血鬼───これが人間の力というものだ


アリヤの師匠であり、これまでの生涯で多数の縛血者を葬り去ってきた歴戦の狩人(イェーガー)
己が信じる人間像(・・・・・・)にその生涯を捧げきった男

またトシローにとっては最愛の伴侶を殺害した憎むべき仇であり、かつて両者は互いに対する憎悪を漲らせ壮絶な殺し合いを演じたが決着は着かなかった。
この闘いでトシローは心臓に銀弾の呪いを受け、現在に至るまで死に近づく苦痛を味わう一方で、クラウスは喪った片目の痛みと共に唯一仕留め損ねた獲物に対する執着を以後の人生でも引き摺っている。

作中時間では、齢七十を越えた高齢に加え長年蓄積された闘いの傷と病の進行で肉体はかなり衰えていたらしく、
彼を知る者達は、既に新たな後継者に吸血鬼狩りを任せ戦いの場からは離れたとみなされており
「トシロー・カシマを狩る」という試練を課されフォギィボトムを訪れた弟子のアリヤも同様の認識を有していたのだが……
(唯一彼の動向が明かされなかったニナルート以外においては)過去の己の因縁――トシローの討伐――を清算せぬまま死ぬ事を許せず、吸血鬼研究機関・ウロボロスの開発した禁廃液(ウンターザーゲン)*1により躰を投薬強化(ドーピング)、これが最後の狩りとなる事を覚悟し、霧の都に現れる。

異常なまでに強化された肉体により行使される戦闘技術は、老いた人間と彼を侮った縛血者(ケモノ)を容易く挽き潰す。
公園等に植わっているような大樹の先端を削り、主武装とするスタイルは、「構えた」と相手に気取らせぬまま不意を突く。
簡単に巨大な破壊力を生みだせる銃火器に重点を置かず、無骨な杭と鍛えた肉体を戦術の中心に据えて行動する事で、隠密性を高めた行動を可能とする。
自分の行動に伴う獲物達の微小な心理的な影響も考慮しつつ、相手の“巣”の攻略ルートを何百にもわたり思案し、個々の障害や突発的トラブルの排除には拘泥し続けない姿勢。
……こうした長年の経験を活かしたクラウスの狩りの手法は、どこまでも容赦ない罠として縛血者(特に縛血者らしい縛血者に対して)に効果的に作用するが、
何よりも恐れるべきなのは、彼の太陽の如き人類種に対する余りに強い信頼と愛情、そしてその裏面を成す徹底的な“吸血鬼”否定の精神である。

見も知らぬ自分を信じ、“仕事”を手伝ってもらった少女へにこやかに笑いかけ、
感謝と共に「人間とは、強く在ろうとする事で強くなれる唯一の存在」「欲望に勝った強い心を、私を信じた君自身の心を信じてこれからも生きなさい」と送られた言葉
まだ人の血の匂いを纏う前のアンヌを問答無用で殺すことなく慈愛の眼差しを向け、
過ちを犯したならば、正せばよい」と彼女の善性を信じて、血親との繋がりを自らの手で断ってやろうとした姿等は、確かに少女達に陽光の温もりを覚えさせるものだった。
『過去の過ちを改め、自分は他者から信じられる価値を持つと互いに信じ合い、己の次の世代へ善きものを託す……』
それが、ヴィクトル・シュヴァンクマイエル・クラウスの信じる「人間の素晴らしさ」なのだろう。

しかしそれは同時に、それを脅かす、欲望に負けた夜の眷属に対しては、強い排斥の念として発露されるのである。
一部共通ルートでの、縛血者として抵抗する道を選んだアンヌへの慈愛から憎悪への迷いなき切り替えや、
アリヤルートでの藍血貴の精神攻撃すら受け付けぬ、金剛石の如き殺意、
慟哭するアンヌを躊躇なく滅ぼしてから、間もなく放たれた吸血鬼への呪詛の言葉等……
一度彼の中で“吸血鬼”と判断されれば、如何にか弱い姿をしていようが、如何に害を成さぬ心根を備えようが
一切の迷いなく(自らの異端性を自覚しながら)彼はその白木の杭で滅殺の意志を遂行することだろう


「俺達のような愚か者が、命を賭けてこの世をつまらないままに(・・・・・・・・)しておこう(・・・・・)と、尽力していることを……!」

「どうか、忘れないでくれ――――



五代目“白木の杭” 鷹匠 亜莉矢(タカジョウ・アリヤ)


「狩りとは、人間であるが故の確認行為……我、ケモノを狩るが故にヒトなり。
私は吸血鬼(あなたがた)を殺す事で人間である事を感じ、その蜜の甘さを噛み締めるのです」



師であるクラウスに命じられ、トシロー討伐を果たすべくフォギィボトムに侵入……
裁定者(テスタメント)と交戦途中の彼に斬りかかるという鮮烈な出会い(デビュー)を果たした本作のヒロインの一人。
彼女もまた奪われ失い、惑い足掻き続ける、人と魔の狭間に立つ者である

常に纏う学生服は、己にとって日常も非日常も境目などなく常に狩りのために生きているという明確な意思表示の現れ。
血の力―オド―と体術を組み合わせた闘い方は、小柄な体格に似合わない膂力を生み、逆に相対した縛血者は血を乱され再生力を奪われる。
冷徹な殺意は、肉体の痛み等から生まれる隙を抑え込み、脱臼程度は僅かな時間で治療してしまう。
爆薬の扱いにも長け、拳打蹴打に気を取られてばかりであれば、瞬く間に爆殺されることだろう。
近接戦では小太刀と杭射ち機付きの籠手を構え、作中では度々武器を持つ戦闘経験を蓄えたトシローにも匹敵する技量を披露する。


元々両親と共に争いとは縁遠い暮らしをしていたが、「ホワイト・パイル」を挑発する目的で、杭を武器に人間を惨殺する残虐な縛血者に襲われた事でその日常は崩壊。
父親も母親もアリヤの目の前で殺され、己の心を手放したまま少女は縛血者の杭に殺されかかったが、
そこに本物の白木の杭(ホワイト・パイル)であるクラウスが現れ、唯一アリヤの命だけは助かることができた。
何もできず大切な者達の命が奪われ、自らの命も失いかけた極限状況に彼女の心は凍り付いてしまっていたが、
『勝ちたいか?』というクラウスの声に導かれるように、彼女は「奪い蹂躙する事を愉しむ」吸血鬼(かいぶつ)を滅ぼす狩人の道に生きる事を決めた
そうして、彼女は師と共に世界を巡り、十年余りの時間を吸血鬼を狩るための修行に費やし、弛まず克己を続けた結果……
達人級の技術を備えた狩人として、ありふれた縛血者程度ならば如何に数が多かろうが、容易に翻弄・撃滅できるまでに至った。

縛血者を「人を無慈悲に襲う怪物」という“悪”であると定義しそれを狩り続ける事で、自己の存在意義を安定させていたアリヤ。
だがあくまで自分達は人に過ぎないと語るトシローや彼から影響を受けた周囲の縛血者との邂逅は、
大きく精神を揺さぶられ、冷徹な狩人の仮面を捨てざるを得ない状況に追い込まれてゆく。

物語が進む中で、師の越えられなかった壁としてトシローの影を狙い続けるのか……
あるいは、人として抱いた吸血鬼への恐怖という弱さを認められず朽ち果てるのか……
それとも、憎悪ではなく、使命として吸血鬼を狩ることに目覚め、それを自覚させた男に惹かれていくのか……
主にいずれ殺し合う貴方の(大切で性的な)思い出としてチ●コ剥製にしてもよさそうですねとか、(挑発とはいえ)ダルマにした貴女の眼前で彼氏()NTR(純潔あげ)ますねとか
―――師が秘めていた自分に対する思いと向き合う事で、真に自分の生きる道を見つけ出すのか。


滅びを前に、躊躇い惑い続ける縛血者と同じく、アリヤという少女も選択を迫られるのである。


「奪われ、喪ったその答を探して黄昏を歩き続けた迷い子……
ならば、その背中を(しるべ)としながら、私は歩き続けましょう。いつか朝に戻れる日まで」





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最終更新:2021年12月18日 23:57

*1 対吸血鬼用の秘薬(の失敗作)。血液より引き出す人体の神秘の力『オド』の燃焼率、代謝機能、神経速度の上昇や、骨格・筋肉・腱の強化など……使用者に縛血者に近似するほどの凄まじい能力増大を齎す。しかしその代償は大きく、投薬の度に細胞は急速に死滅し末期癌のそれに数倍する激痛は発狂してもおかしくなく、寿命は文字通り燃焼されていく。