エリーザベト・デスポートプロローグSS


「相変わらず悪趣味」
ドイツのとある組織に所属する暗殺者クレスツェンツ・ズィッヒェルはその部屋に入るなり眉をひそめた。
部屋に入って目に付くのは調教用と思しき首輪や鞭が飾られた壁。
そして、首輪とボールギャグをつけた人間椅子に座る女性の姿。
美しい白髪に褐色の肌。誇り高きダークエルフの耳。
その豊満な肢体を包み込むのは露出度の高いボンデージ系ファッション。
彼女がこの部屋の主エリーザベト・デスポートである。

「褒め言葉と受け取っておくわ」
人間椅子から立ち上がるとクレスツェンツの方に歩みをすすめる。

「で、私に何か用?」
「組織の命令を伝えに来た。貴女に日本で仕事をして欲しいとのこと」
「誰を殺せばいいのかしら」
「今回のはそうではない。とある人物を懐柔しろという指示」
「ふーん。珍しいわね」
彼女たちは暗殺者である。誰かを殺せという以外の仕事を組織から受けるのは珍しい。

「得られた情報を分析した結果、組織がその人物に価値を認めた。貴女は暗殺者だけどそういうのが得意だから」
エリーザベトは簡単に他者を自分の下僕化してしまう。そして暗殺を下僕に任せて自らは暗殺現場にあられないことも珍しいことではない。
普段は暗殺者として活動しているとは言え今回の任務に彼女ほどふさわしい人間はいないだろう。

「で、標的は?」
「これを見て」
エリーザベトはクレスツェンツから写真を受け取る。
写真に映し出されているのは女性とも見間違うような一人の少年の姿。

「フフフ……なかなか可愛らしい坊やじゃない。私のコレクションに加えたいぐらい」
写真に写る少年の姿を見てエリーザベトが舌なめずりをする。
「ちゃんと組織に引き渡せとの命令。あなたの私物にしてはダメ」
エリーザベトに釘を刺すクレスツェンツ。

「心配しなくてもわかってるわよ」
「万が一、こちらに引き込めないようなら殺してもいい」
他の組織に奪われる機会を与えるぐらいなら殺してしまう。組織は無慈悲なのだ。

「せっかくの可愛い坊やだもの。そうならないこと祈りたいわね」
「では、命令は伝えた。私も任務があるのでこれで失礼する」
そのままクレスツェンツは部屋から去っていく。

それを見届けたあと、エリーザベトは壁に飾られていた鞭を手に取るとそれを振るう。
こんな少年を虜にするぐらい造作もないことだ。引渡しさえすれば過程は問われないだろう。
個人的に楽しむことは問題とされることはないだろう。
「フフフ、楽しみね」
エリーザベトの顔からは自然と笑みがこぼれていた。
最終更新:2014年07月14日 05:14