
設定
彼女は元々解剖が大好きだった。好きなように、自分の思ったように、無理に親と同じ人生を歩まず自由に生きようにと両親から家訓として受け継いだが、科学研究者――特にあの科学タワーの研究者――になれば自分の好きな解剖が合法的にそれもたくさん研究としてできると思い、難関大学へと歩を進めた。しかしある時、自身が能力者であることに気が付いてからは、カエルやネズミを生きた状態で解剖するのが好きになった。それは、筋肉が小刻みに収縮するのを、血がめぐって身体中を赤く染めるのを、内臓の一つ一つが一定の鼓動で脈打つのを美しいと感じていたからである。そして、ふと思った。「人体で見るのはもっと素敵なんじゃないか?」と。献体を解剖した事こそあるが、生きていないもののハラワタを観察しても彼女は全く魅力を感じなかったのだ。
日々そう思ってもそんな機会は当然なく、思いを募らせていた彼女はついに自身の腹を裂いた。それは彼女の思っていたように、今まで見たどんな動物の“それ”よりも素敵で、彼女は魅了された。しかし、能力によっていくら痛みを感じなくても、血はどんどん自分の体からあふれていった。彼女は解体こそできても、縫合することはできなかったのだった。とても困ったことに、臓物を見たくて腹を開いたとしても、徐々に動けなくなってしまう。死んでしまえばもう一度その“素敵なもの”を見られなくなるのだ。ギリギリのところで病院に運ばれ、一命を取り留めた彼女はどうやったらまた見られるか考えた。
「そうか!他人のそれで代用すればいいんだ!」
彼女は毎晩、街の、人の少ないところへ出かけた。
この地へ初めてきた旅人からは視覚を奪って、道を案内すると言い、
道に迷った子どもからは聴覚を奪って、不安になっているところへ親切に声をかけて、
番犬を連れた婦人には犬の嗅覚を奪って、犬に気付かれないようにしてからそっと忍びより、
食べ物を探す浮浪者からは味覚を奪い、ごみ溜めに睡眠薬を仕込んでから、
疲れのたまったアマチュアレスラーからは直感を奪い、奇襲して、
連れてきた。彼女の趣味部屋へ。
そして相手の痛覚を取り除いてショック死をしないようにしてから、叫ばれないよう喉を潰して、楽しんだ。
だが、死体が20体になった頃、また困ったことが起きた。街では失踪事件が多発したとして警備態勢が強くなり、手を出すことが難しくなってしまったのだ。これでは内臓をみることができない。
しかし丁度その頃、この街ではとある街との交易が再開されていた。その街は彼女の故郷であり、自分と同じ能力者がたくさんいるという。そしてそこには悪の能力者のための収容所ができたらしい。世間からの情報を断たれ、別の街の収容所であれば失踪事件のことなんて知らないだろうし、例え知っていたとしても模倣犯が出てきたのだからまさか同じ刑務所内にシリアルキラーがいるなんて思わず、警戒心も低いだろう。
「そろそろただの人を襲うのもマンネリ化してきたし、“能力者”ってのも気になるなぁー。能力者たちの体は普通の人と違うのかな?特別な器官とかあるのかな?脈の打ち方は違うのかな?自分の時は興奮しすぎて調べられなかったから、じっくり調べながら覗く事にしよう!」
科学都市に帰って来た彼女はそんなことを思いながら、自身が能力者であることがばれないように、わざと捕まるように、襲いやすそうな一家を惨殺した。解剖できなかったのはもったいなかったけれど。
『お父さん、お母さん。私は教えられたとおり自由に生きているよ!』
キャラクター
名前:Selma Duttine(セルマ・ダッティーネ)
性別:女 年齢:21歳
身長:163cm 体重:55kg
罪状:科学都市内の一家を惨殺したこと。 経過懲役年数:一ヶ月くらい
科学都市には及ばないが驚異的な科学力を持つといわれる街にある大学の学生(この大学から科学タワーの研究者へとなる者も少なくないという。エリートコースまっしぐらだった)。科学タワーに雷が落ちた時、彼女は新生活の引っ越しの為に出掛けるところだった。だが、特に怪我をしたわけでもなく気にせず家を出たため、封鎖される前に科学都市の外に出ていた。自身の能力に気づくと、それを使って趣味の探求をしていた(なお能力のことについては親にも友人にも隠していた模様)。街に戻ってくると、特殊収容所へ入るために殺人をした。しかし収容所内は(当然だが)看守の警戒度が高く、個人の行動も許されなかったので、思うように実行することができなかった。収容されて一ヶ月、自身の趣味もできずただストレスだけが溜まっていたが、いきなり檻が解放され、混乱が起き、彼女はこれに乗じて看守・囚人関係なく数人を生きたまま解剖した。けれどもそれらは彼女が待ち望んでいた能力者でなく、それだけでは満足できなかった。「ボスを決める」――彼女はリーダーという立ち位置には興味がなかった。しかし“力比べ”には高確率で能力者が出てくるだろう。能力者を解剖したいがため、彼女は名乗りを上げたのだった。
両親は科学タワーの研究者であった。雷が落ちた時は無事だったが、その後悪の能力者によって殺されたという。両親が死んでからの学費や生活費は、残された財産と自身のアルバイトにより何とかなっている。しかし親が死んだからといって特に悲しくはなっていない様子。むしろ亡くなってくれたおかげで名誉だとか親の尊厳だとかのしがらみにとらわれず、もっと自由に生きることができていると思っている。それほどまでに自由に生きることを信条としているが、元々天才素質だったためにほとんどのことが彼女の思う通りに動いたこと、親から家訓として言い聞かせられたことが相まって、ちょっとでも自分の思い通りにいかないと、普段温厚な彼女でもかなりの癇癪を起してしまう(もっとも、軋轢が生じてしまうので人前では平静を装っているが)。
能力:六感択一
対象の「五感+第六感」から一つ選択し、それを断つ能力。ここでの五感と第六感は「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚(痛覚)・直感」を指す。能力発動には「感覚を断つ」ために対象の「何かを断つ」という擬似行為が必要であるが、単純に言えば傷をつけさえればよい(「何か」は細胞や血管、髪の毛や爪などなんにでも設定できるので、切り傷でも打撲でも髪や爪を切るという行為でも能力の発動が可能である)。傷をつけるときは六感から必ず選択しなくてはいけないわけではなく、単に傷をつけたいだけの場合は念じなければよい。また対象から別の感覚を奪いたいときは、新たに念じながら傷をつけることが必要となる。しかしそれ以前に奪った感覚は対象へと戻ってしまう。
能力は自身に使うこともでき、自分に使ったときはその感覚がなくなる他に、視覚であれば思考力、聴覚であれば動体視力、嗅覚であれば集中力、味覚であれば危機感知能力、直感であれば空間把握能力がそれぞれ上がり、痛覚であれば痛みを無視した動きができる。だが痛覚喪失によって得られる能力は、下手をすると後で感覚を戻した時に動けなくなってしまうことがあるのであまり使わない。
欠点は能力を発動した際の傷を完治されると断った感覚が元に戻ってしまうこと。そのために回復スキル持ちには不向きな能力である。それに断つ感覚は「一人から一つのみ」というわけでなく「全体で一つ」しか選べないので人海戦術も不得意としている。
能力者としての力以外は、割と平均的なステータス。ただし、解剖に関する知識と技術は桁外れで、初見の相手でも目標の臓器をものの十数秒で取り出すなんて芸当が可能である。武器に関しては、趣味の探求をしていたときは人を襲うのに主にメスを使っていたが、収容所にはないので念のためにと盗んでいた食事用のスプーンをその辺に落ちていたスーパーコンクリートXの破片でメス状に加工し、それを使っている。
最終更新:2014年06月13日 22:52