H4・173

 2月14日

「あの、三ノ輪さん! これ受け取って下さい!」
「あー……、ありがとう。アハハ」

走り去っていく女の子を見送りながら銀が乾いた笑いを浮かべる

「銀、これで朝から8個目ね」
「そういう須美が袋に下げてる中身は何ですかね~?」
「何かしらね……」

 ジト目を向けられた須美の目が泳ぐ。
 片手に下げた紙袋には綺麗にラッピングされたチョコが詰まっていた。

「そういえば園子はどうした?」
「そのっちなら女子の大群に囲まれて流されて行ったわ」
「さいですか……」

 須美が指差した方向を見て手を合わせる銀。

「はぁ、しかしあたし達もう中ニなのに浮ついた話の一つも無いのはどういう事だ須美ぃー?」
「そんな事私に言われても困るわ。それより銀、はいこれ」
「ん?」

 鞄の中に入れていた包みを銀に手渡す。

「毎年渡してるでしょ」
「お、サンキュー。須美はお菓子作り上手いからなー。実は楽しみにしてたりした」
「褒めてももう何も出ないわ」
「んじゃミノさんからもお返しだ」

 銀も予め用意しておいたチョコを須美に渡す。
 家事を一手に引き受けている銀も須美に負けず劣らずお菓子作りが上手い。

「……あ、ありがとう銀」
「お、おう。照れられるとこっちまで恥ずかしくなるな」
「さて、後はそのっちに渡すだけなのだけど」

『ミノさーん! わっしー!』

 聞き慣れた声に2人が振り返ると丁度園子がこちらに走ってくるところだった。

 大 勢 の 女 子 に 追 わ れ な が ら。

「ちょっ、須美逃げるぞ!」
「で、でもそのっちが!?」
「あの群れに囲まれてみろ! 何時間拘束されるか分からないだろ!」

 そう言うと銀は須美の手を取って走り出した。

『え、えぇ~!? なんで2人とも逃げるの~!』

「すまん園子! 後でイネスに集合なー!」
「そ、そのっちー!!」

『な、何だかよく分からないけど。でも2人が手を繋いで逃げてるの愛の逃避行みたいで小説のネタになるよ~!』


「そ、園子。この状況でなんて逞しいやつ……」

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最終更新:2015年10月25日 13:55