H2・954-955

偶然聞いてしまった話
聞きたかった訳じゃない

教室に忘れ物を取りに行った時に
偶然クラスの男子が東郷さんの胸が大きいとか
脚が治ったからアタックしてみようかとか
そういう事を話しているのを聞いてしまった

私は忘れ物の事なんてどうでもよくなって、教室に入らずそのまま帰った


「東郷さんの髪いつも綺麗だね、さらさらぁ」
「ありがとう友奈ちゃん」

いつものように東郷さんの家に行って
他愛のない話をしたり東郷さんの髪を触らせて貰ったりする
でもどうしてもさっきの事を思い出してしまう

確かに東郷さんは魅力的だと思う
綺麗だし、スタイルも良いし、料理も上手だし……
私が男の子だったら、きっと放っておかない

「友奈ちゃん、今夜も家で食べていく?」
「うん! わー、楽しみだなあ♪」

仮に東郷さんが誰かと付き合ってるのを想像してみた
東郷さんの髪や身体に誰かがベタベタ触るのを



ーー凄く、気持ちわるかった

「友奈ちゃん、髪乾かすね」
「わぁ、くすぐったいよー」

明日はお休みだったので
結局そのままお泊りさせて貰う事になった
濡れた髪を東郷さんがタオルで拭いてくれるのが気持ちいい

「ねえ、友奈ちゃん」
「ん、どうしたの?」

「……なにか嫌な事でもあった?」

忘れていた
私が東郷さんが何を思っているか大体分かるように
東郷さんにも直ぐに分かってしまうのを

「……ちょっと、ね。 クラスの男子が東郷さんの事話してるの聞いちゃっただけ」

「そっか。 ありがとう友奈ちゃん」

「え?」

ここでどうしてありがとうって言われたのか本当に分からなかった。
ただ東郷さんは私を後ろからふわっと抱きしめて

「内容は分からないけど、それで友奈ちゃんが私の事を思ってそんな気持ちになってくれたのが嬉しいの」

「……東郷さん」

「ごめんね、友奈ちゃんが嫌な思いしたのに嬉しいなんて」

「東郷さん!」

気がつくと、私は東郷さんを押し倒していた
東郷さんの目をジッと目つめて
心の中にあったざわざわした感情と一緒に気持ちを全部吐き出す

「東郷さん、私……他の誰かに東郷さんを触られるのが嫌」

「うん」

東郷さんも目を逸らさずに私を見つめ返してくれる
私を見てくれている

「脚が治ったからって、そんな理由で他の誰かに東郷さんを渡すのももっと嫌。 東郷さんは私がずっと守ってきたの……これからもずっと!」

「友奈ちゃん……」

ここまで来たら、全部言ってしまおう
他の誰かに東郷さんを取られる前に

「東郷さんーー私、東郷さんが欲しい」

「……うん」

東郷さんは私の背中に手を回すと引き寄せて、抱きしめてくれた

「なるよ、友奈ちゃんのものに」

東郷さんは柔らかくて、良い匂いがした
きっと、今の私の顔は真っ赤になっている
東郷さんも真っ赤だったから
重なり合ったお互いの胸から心臓の鼓動が伝わってくる

「……東郷さん、2人きりの時だけ名前で呼んでもいい?」

「うん。2人きりの時だけ、ね?」

「じゃあ」


その日、私は初めて『美森ちゃん』と呼んだ子とキスをした

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最終更新:2015年06月09日 10:48