互いに抱えた理想に縛られる主従。
そんな中、ようやく
弱みを見せてくれた朴念仁の従者に、主である少女が電話越しに告げた言葉。
余りに的確に内心を見抜かれていた事に驚きつつも、同じく「理想通りに生きられない」己に悩む主に促されるまま、男は重い口を開いた。
「俺は……恥知らずだ」
「君は俺を忠義の騎士だと言ってくれた。信ずるに足る者だと言ってくれた。だが俺は────」
今まで、ニナ・オルロックを利用していた。過去に喪った自分の理想を取り戻すために。
棄てたと言いながら、こうしてまた夢の残骸に縋り他者を軽んじている………何と、底の浅い男だろうか。
「俺は、己自身以上に憎らしい相手を知らん。知らんのだ」
「――驚いた。あなた、本当に弱ってたんじゃない」
それに対し、ニナは――仕方ないとばかりに小さく笑んで。
『よく聞きなさい、トシロー。今から命令をあげます』
その命令とは………
『“私はあなたを許します”。 ほら、これで解決だわ』
「俺は許せぬ」
『けれど私は許したわ。だから、まずはそれが最初の一歩』
頑なな男に、想いが届くようにと。
『よく自分を許せるのは自分しかいないと言うけれど、私は違うと思う。
もし自分だけが先に自分の罪を許してしまえば……それはただの傲慢じゃない』
『詭弁かもしれない。でもね────』
『そちらの方が美しいじゃない。真偽の他に美醜があるなら、それが偽りでも美しくありたいわ』
『たとえそれが取り繕った見せ掛けでも、いつかは真になれるかもしれないもの。……受け売りだけどね』
その言葉に、
夢で見た謎の存在の記憶が蘇るも……それを振り払いトシローは、彼女の気遣いに感謝を告げる。
するとニナの方も、凛々しくなったという従者の声に、
己はまだ未熟だと、至らなさを感じてばかりの日々だと弱音を打ち明け、
理想に重ならない「未熟者」達は、自分には妥協できずとも、
互いの苦しみをより近くで感じとっていた。
表情の見えない電話越しに言葉を交わして―――
主従は、きっと面と向かってでは、これから先もきっと、ここまで素直な想いを吐き出せなかっただろうと苦笑する。
過去に意地を張ってばかりの、互いに面倒な性根だと確認しあったところで……
「ニナ……ありがとう」
トシローは、己を許せないと思いつつも、“主”の優しさを、
ニナという一人の幼い主君の思い遣りが、自分の惑いを軽くしてくれたと感謝し―――
『どういたしまして。 再度の任が下るまで体を休めておきなさい。あなたによこす件は荒事が主なのだから』
ニナも、紅くなった頬を隠したまま、男が調子を戻してくれたことに安堵していた。
こうして、束の間の語らいは終わり―――
トシローは、ニナ・オルロックに仕えている――その己の現実に今一度向き合おうとする。
- 巨乳上司万歳! -- 名無しさん (2020-07-19 22:52:51)
最終更新:2021年06月06日 20:52