そんな、優しく……いえ、もっと、強く、荒々しく………
乱暴に犯しても……蹂躙しても構わないの……よ?
ホテル・カルパチアから、“主”の求めに応じその身柄を奪い去ったトシロー。
……やがて、『ノーマ・ジーン』で目覚めたニナは、
かつて知ることの出来なかったトシローという
武士の過去、
そして、迷いを振り切った彼が今一度捧げると誓う
“忠義”の重みを、確りと受け止めようとしていた。
そうして、決心を固めた彼女は、12年間踏み込めなかった
あの一夜の“先”へと自ら踏み込む―――
「……判ったわ。主従。君臣。私たちが、そういう関係になったという事は」
「──では、それ以外は……?」
少女の面影を残す躯が男に触れ合い、細い腕が背中に回される。
見つめるその瞳の中には、逸るような、怯えるような……相反する感情の鬩ぎ合いが演じられていた。
回された腕に、力が増してゆく。
「あの事は……私の中でずっと負い目になっていたの」
「女の武器で男を繋ぎ止めようだなんて……
売女と呼ばれても仕方ない、浅はかな考えだったと思う。
貴方の顔を見るたび思い出しては、自己嫌悪に陥っていたわ……」
「なのに貴方は、この12年何も言わず、私の傷口に触れもせず、
ただ黙って己の務めだけを果たし……そんな貴方を憎らしく思った事さえある」
「きっとこの男は、心の底で汚らわしい私を軽蔑しているに違いないと……」
明かされたニナの苦しみ。そこにある誤りを、トシローは確かな言葉で以て否定する。
「俺は古い男でな……女の操には命に等しい重さがあると、物心つく頃からそう信じているのだ」
「そんな純潔を差し出してまで、何かを守りたいという決意……
士道を逸れて百数十年。月なき闇を彷徨ったこの眼には、眩しく映った」
「……それは、闇夜に射した一筋の月光のようだった」
「とんだ買い被りかもしれなかったわよ……
私が、そんな純潔に道具程度の価値しか持っていなかったとしたら……」
「ならば、あの涙の説明はつくまい」
安堵し、微笑む少女はしかし、再び不安に心を揺らす………
「でも貴方は……私に“女”を求めないのね。それは、貴方の忠義には邪魔だから」
「男の貴方には理解できないかもしれない……
でも、やっぱり私は女。女には女の納得の仕方があるものよ?」
「傍に立ちこの背中を守ってくれる、
誰よりも勇敢な男に求められている……
そう思えることが、何にも代えがたい納得に、自信になるの」
素直な心で語られる主の望みを、かつてのような戸惑いを見せることなく、確かな意思を持ってトシローは荒々しい抱擁で迎えた。
強大な敵に、かつてない窮地に立ち向かう自信を、今彼女に与えられるのは己だけであると。
「誰が、おまえを欲しくないなどと言った……?」
「トシロー………」
――――酒場の暗がりに、ニナは着衣をはだけて……
12年前と変わらぬ、白雪のように肌理の細かい肌と、見る者を圧倒する淫らな果実を露にしていた。
「……不思議ね。あの時と違って恥ずかしくないのは、どうしてかしら……」
「2度目だから……? いいえ、違うわね……きっと。
あの時の私はこれを恥ずべき行為だと思っていた。後ろめたさを持っていた……」
「けれど、今は……心の底から貴方を求めている……貴方だけを……」
そして、激情を秘めたまま、一人の女としてニナは命を告げる――――
………何をしているの?
さあ、貴方のしたいようにして頂戴……私を可愛がって………ね?
最終更新:2021年11月17日 08:23