「思ったよりも早く現れたな───我が積年の汚点よ……トシロー・カシマ」
「ヴィクトル・シュヴァンクマイエル・クラウス───白木の杭」
シェリル、アンヌ√共通部……
弟子であるアリヤの窮地に姿を現し、瞬く間にアルフライラら叛徒を殲滅した先代ホワイト・パイル。
そんな彼の次なる標的となったアンヌの元に駆けつけたトシロー。
最強の狩人と、
異端の縛血者。
共に常道より外れた存在。因縁深き二人の怪物は、半世紀の時を経て激突の瞬間を迎えようとしていた。
研ぎ澄まされた刀と、常人が扱うには余りに巨大すぎる白木の杭。
技量は互いに達人の域。己の持つ長所と短所を冷徹に見極めながら、歴戦の戦士らは敵手の命を刈り取るべく絶技を繰り出し続ける。
その中で、クラウスは闘争の中で欠け歪み、老いを極めてなお諦めきれぬ望み――取り逃したたった一体の縛血者の討伐――
それを叫びながら、改めて意志の力を奮い立たせる。
彼が信奉する、夜の闇の誘惑に屈さぬ人類の心の強さ。
それを守り抜き次代へと受け継いでゆくために、己にとってこの一戦は、避け得ない過去の試練であると。
敵手の過去を越えようとする姿を前に、トシローは運命に抗おうとし……果たせず、
この再会と激突が示すように、未だ過去の鎖に縛られ続ける無様な己を自嘲する。
ならばと、
同じ道を繰り返す愚者として因縁が導く激情に身を焦がすのみと、
かつて大切な者を奪った仇に対し、白刃を振り翳す。
「貴様は一つ、忘れている───俺から奪ったもの……その重さを」
「憶えてはおらんな。そのような有象無象などは」
その答えは予想していた。腐った懺悔など今更聞くには値しない。
闘志を鈍らせるだけのそんなものは、この期に及んで必要とはしていない。
この一刀に乗せる、憎悪と怒り……それを掻き立ててくれるだけでいい。
「ならば、その忘却を罪と知れ。貴様が殺した女の名は美影」
「俺が守ると誓った……最愛の人間だった」
「貴様ら墓無き亡者が、人間を名乗るか……! その冒涜、断じて許さん──ッ!」
本編より
「────望んでいたのは凡百の老人と大差ない」
「人生の収支を決算し、ただ最後の時を待つ……だが、果たせなんだ。俺には悟りなど不可能だと知った」
「嗤うがいい。齢七十を越えて我執に突き動かされるとは、無様なものよ……
我が生涯に唯一の汚点を残す事を、どうしても許せなくなった」
「嗤いはしない。現在とは過去が導く必然の結果だ。全ての人間は、過去の奴隷に過ぎぬかもしれん」
「――だが、俺は諦めぬ」
「貴様を討ち滅ぼし、積年の汚点を払拭する……
その時こそ俺は、未来へ託す資格を真にこの手に得るのだ」
「己の過去を……運命を打倒するのだ!
それこそ、人間としてこの世に生を享けた意味に他ならぬ!」
最終更新:2021年12月15日 00:07