トゥルーエンドルートにて、
イザベルの生首を携えスラムビル50階に到達した異端審問官に対し、至門が発した台詞。
聖句を諳んじるヴァレンティノスを見て、至門は相手が己の持つ
ユダの福音書の奪還が目的と理解する。
「呪われし異端の邪本なれども、それもまた我が偉大なる教義の一部。
全能なる神の意志により存在を許された闇の聖遺物だ。
教義の暗部を外に出す訳にはいかん。教皇庁の元に返してもらうぞ」
重々しく宣告する神の獣。その威容を前に、至門は吐き捨てるように嘲笑した。
「けっ、何が全能なる神だ。その神さんがしっかりしてりゃ、
あのお人が妙な思いつきにかぶれることもなかったろうによぉ」
だが、すぐに歪んだ嗤いは己自身へと向けられる。どこか寂しげな苦笑だった。
「いや……そうじゃなけりゃ、あの人が俺を拾うこともなかったか。
となりゃ、糞溜めみたいな世界をほっといてくれた、
あんたの神さんにも感謝しないといけねえなぁ……」
「万物を許容する我が神だが、その使徒たる我ら、
暴力を行使するに当っての慈悲も躊躇も微塵もない」
「暴力は罪であり愚行であるが、我らの罪と愚行は神により許される。
まして教義のための暴力ならば、それが許されぬはずなどあろうか。
おお、神に許されし暴力……その蜜の何たる甘美なことかよ!
それを行使する特権と愉悦、断じて誰にも渡さんッ!」
白い歯を剥き哄笑するその巨躯に、至門は二千年に渡る世界の暗黒面を幻視する。
十字の架上に殺した聖者を神に祀り上げ、あらゆる矛盾を吸収する絶対概念へと仕立て上げた人類の欺瞞。
そしてその名の下、揺るぎない独善を振るった蛮行の歴史を。
「手前勝手で身も蓋もねえ言い草だが、えらく自分に正直だなぁ……へへッ。
俺は好きだぜ、そういう奴はよぉ」
「望みを欲すると書いて、欲望……要するに、手元に今ねえものを欲しがる心は、
突き詰めれば全部が全部その言葉で言い表せる同じ穴の狢よ。
だのに、その言い方を変えたがったり、
いもしねえ誰かのためにとか自分以外の名前を持ち出す奴は信用ならねえ。
大望だとか理想だとか使命だとかなァ……」
「それってのは、つまり疚しさが為せる業よ。
欲望っていう、薄汚れたその言葉と心中する覚悟がねえんだ。
いくら名前を言い変えようが、欲望は欲望だろうがよ。
どいつもこいつも無花果の葉っぱで生々しいところだけは隠しやがって、
自分の行いだけは綺麗に見せたがる粗チン野郎どもだぜ」
「だが、あんたやあの若造───角鹿って兄ちゃんは丸出しよ。
どす黒い一物ぶら下げて恥も外聞も、名前で隠すつもりも毛頭ねえ。
そういう人間は、敵だろうが味方だろうが信用できるってもんじゃねえか」
「だからよぉ――俺も丸出しでいくことに決めたぜ。
それがたとえ────」
あの人を裏切ることになっても、と付け加えられた呟きは口中に溶けた。
至門が見せた躊躇いは、この中年男に残された一片の純心ゆえだったのか。
- 至門の真骨頂たる台詞 -- 名無しさん (2019-02-12 02:33:28)
- WA2のルシエドのくだり思い出した -- 名無しさん (2019-02-15 19:44:34)
- 至門の欲望まみれなのに哀愁漂うところすこすこのすこ -- 名無しさん (2019-02-22 21:42:17)
- お隣の作品じゃないけど「自覚の有無」って本当に人の印象を変えるよね -- 名無しさん (2019-05-22 02:27:32)
最終更新:2020年08月14日 21:36