人間としての情愛も、悪党の仁義も、男の誇りさえも捨て去った蛆虫の這いずる世界。
最底辺の街に流れ着いた、悪名高き元テロリストのブライアンが昏い熱の籠った欲望を吐き出した一場面。
彰護らにより潰された、
魔女狩りに関わる拠点。
その“現場”を直に確認したと、雇い主である至門に告げるブライアン。
原型を留めない死骸、
わざわざ素手で殺されたと思しき死体の数々………
常人ならば目を覆わんばかりの惨状。
「歪んでいる」と犯人の異常性に触れながらも、彼の言葉にはどこか
嬉し気な響きさえ含まれているように思われた。
そんなブライアンは、犯人像に興味なさげな態度を示す至門に、
この相手は、「自分でなければ狩れない相手」と言い、こう言葉を継いだ……
「こいつは、自分の一番大事な理想を捨てた奴だ。
それも、かつては命を懸けて貫いたほど筋金入りのをな。
普通はそこで抜け殻として終わるか、死ぬ。だが……」
「そんな終わってる奴に、何か一つだけ執着する目的が残ったとき……
こういう徹底して、かつ歪んだ化け物が生まれることもあるのさ」
「善も悪も、自分の生死にすらも関心がない。だから話も通じない。
言っておくが手強いぞ。生きた亡霊を相手にするようなものだからな」
鼻で笑って去っていく至門に対し――ブライアンは独り引き攣った笑いを漏らす。
「判るさ───なにせ自分自身のことだからな」
己と同じく僅かに光も射さぬ無明の荒野を歩く者を、ブライアンは見出した。
愛する者や親友、家族への献身、社会への責務や誇りある行動……
それら人間らしい在り方に背を向け、誰からも唾吐かれる最底辺の蟲の影を。
最終更新:2021年04月25日 22:14