聞いた風な口叩くなよ、オッサン。あんただって昔はヤンチャしてたんだろうが



アンヌ√、アンヌの想いの強さを見抜けず、受け止められず。
傷つき独り自分の前から飛び出していった彼女が、せめて自分のいなくなった後も穏やかな日々を過ごせるようにと、
『裁定者』とその親であるカーマインを滅ぼすべく、残りの命を燃やし奮戦するトシロー

だが、共闘を持ち掛けてきたバイロンの突然の裏切りに遭い、深い傷を負わされ死の闇に墜ちるかに思われた。

「おまえを拾ったのは俺なんだぜ? 命の恩人って奴だ。感謝しろよな」

そんな窮地に陥った彼を救ったのは、三本指(トライフィンガー)……その“影”にして、親友でもあったアイザック


「どういうつもりだ」

「おまえに用がある。それを果たしてもらうまでは、勝手に死んでもらっちゃ困るんだ」



その用とは……

「俺と()り合ってくれ。三本指(トライフィンガー)の名を賭けてな」


「………」

「おいおいスルーか? 決め台詞だぜ。格好がつかないじゃないか」

「馬鹿げている」


理由ならある…そう告げたアイザックは紫煙を燻らせながら、トシローに向け
己こそ過去のお前(真の三本指)の所業、それを知る生き証人であると語り、


「状況証拠が揃っても、俺は迷い続けていた……俺の記憶にある残像(やつ)と、目の前の実像(おまえ)とがどうしても重ならなくてな……」

「だから、お試し(・・・)で始めてみたのさ……ブラフって奴だ」

「この街で最初の事件が起こった時――おまえの雰囲気は明らかに変わった……俺の知る三本指(トライフィンガー)と見事に重なった。大当たりさ」


過去を認めざるを得なくなった彼に、模倣事件を起こしてまで本物を追い続けた真の理由をアイザックは明かす……
それは殺された仲間の仇討ちなどでは欠片もなく、
「仲間を鏖殺した時の、超越者としてのおまえの姿に惹かれたから」だと、微笑みさえ浮かべて告げる。

「そういう心理を理屈で説明できるなら、この世界はここまで混沌(カオス)に満ちちゃいないと思うぜ」

「ただ俺が考えるに、そいつは単純に質量の問題だろう――引力は質量(・・)に比例するのさ。星がそうであるように、人間もきっとそうなんだ

「おまえは存在が濃すぎた(・・・・)。反して俺は、薄すぎた(・・・・)。俺は、おまえという巨星(ほし)の引力に掴まれた星屑みたいなもんさ……
あとは突っ込んでいって、ブチ当たるしかねえ(・・・・・・・・・)───どっちが砕け散るにしても、な」


理解できないという態度を示す友に、求愛(ちょうせん)したいと語るアイザックの貌は、
ただの友人としての間柄では見る事の無かった至福の色に満ちており……

「その無言を受諾と受け取るぜ。口数の少ないのがおまえの良い所だったな……」

その穏やかな語り口に秘められた妄執の深さを悟ったトシローは、
ついに過去の影と対峙することを決心……自らに焦がれたという狂信者(ファン)に、“三本指” の起源を語り聞かせる。


かつて、夜に生きるしかなくなった愛しい女の為、彼女と同じ存在(もの)となり生きる道を選んだ事。
しかしその愛に己の全てを擲った結果、その喪失に耐えきれず、血族という存在に責任を転嫁し凶行に奔った事。
そうして全てに瞳を閉ざし死に場所を求め、身を焦がすような憎悪と共に駆け抜けた果てには、
吸血鬼(かいぶつ)など何処にもいない、人間しかいないという現実が横たわっているだけだったという事を。

決して誇ることのできない過去(きず)とその結末を語り終えたトシローは、
無駄だとは知りながらも、確かな友誼を交わした男を失う事を惜しみ、過ちを犯した「先人」として告げる。


「アイザック。俺を斃した所で……俺に斃された所で、手に入るものなど何もないぞ


それに対し──アイザックは友の心を見透かすように、微笑(わら)っていた。


大人(・・)ってのは、いつも自分を棚上げしなきゃやってられねえモンだよなァ……
判るぜ、トシロー。この場合、おまえはそういう(・・・・)役回りだ」


「だったら俺はガキ(・・)として、こう言うべきだろう───
“聞いた風な口叩くなよ、オッサン。あんただって昔はヤンチャしてたんだろうが”

かつて、そんな只人として守るべき「規範」や信ずべき「情愛」を理解しながらなお踏み拉き、
あらゆる声に耳を塞ぎ、盲目的に渇望へと身を委ねた己が、諭すべき領域にはないと……
笑みを浮かべた朋友を前に思い知らされ、トシローはただ天を仰ぐしかなかった。


「そうなる……な」


「ああ。そうなる」



この先、もはや互いにぶつかり合うしか道はないと……
親友だった二人の男は言葉もなく、命を喰らい合う決着の舞台へと足を進めようとしていた




  • あれ?そういやトシローさんとアイザックってどっちが年上だっけ? -- 名無しさん (2019-01-20 14:31:07)
  • ↑ここでいう「オッサン」ってそういう意味(年齢)じゃないと思う -- 名無しさん (2019-01-20 15:00:21)
  • そういやアイザックって作中現在では準藍血貴クラスなのか? -- 名無しさん (2019-01-20 15:14:12)
  • 初見でアリヤに見切られてたように、素のスペック自体はごく平凡でそこまで強くなかったはず。憧れた三本指の残像を反芻することでイメージにある狂気的な強さを「再現」してるっていう理屈だったような -- 名無しさん (2019-01-20 16:25:39)
  • アイザックの年齢に関しては正直分からん。初めて三本指見たとき縛血者としての能力的には自分以下みたいに言ってるけどそもそもあの時のトシローさんが年代的には実質藍血貴だけど銀弾で弱体化してるし -- 名無しさん (2019-01-20 23:28:31)
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最終更新:2024年04月03日 21:17