『さて、君たちに関しては期待している。よって、このアポルオンを用いるまでもないと判断した』
『何故ならば、君たちこそは生粋の戦士であるのだから。
闘争の何たるかに掛けては、門外漢の私などよりよほど深くその本質を理解している事だろう』
『───では、真理の頂にて待っているよ。済まぬが私には、先約があるのでね』
そんな事を告げ、仮面の代行者はイヴァン、アレクサンドル両名を残し、悠然と歩み去っていく。
どこまでもこちらの事情を斟酌しない“上からのお達し”に愚痴を零しつつも、
イヴァンは既にこの混沌とした状況を愉しみを見出しており……特に、
これまで最強の味方にして、憧れてきた本物の英雄である少佐と闘える事に、心を昂らせていた。
しかし………
「けど少佐、あんたはそうじゃないよな。飽くまでも拝命として、その拳を俺に対して振るうだけだ」
「───不満か?」
イヴァンの憧れた男は、常と変わらぬ冷たい返答を寄こすのみであり、
「ああ、大いに不満だね。あいつが言い残したように、こいつは戦闘じゃなく闘争だ」
「ただ与えられた標的を撃破して損害と戦果を計上する。
そんな味気無い戦闘なら、あの機械野郎にでもやらせときゃアいいんだ」
「だが闘争なら、拳に乗せるべき重たいモンが無くちゃあいけねえや。
少なくとも俺は、一人の男と男としてあんたと殺り合いてえんだ。
あんたにも、俺と同じように怒張してもらいてぇんだよッ!」
狂おしいまでの闘争本能と、そしてそれが一方通行の懸想に過ぎないが故の憤懣――それをイヴァンは訴えかける。
そして、それに答えるアレクサンドルの言葉もまた決まっており……
「くだらん」
叩きつけられた熱情の全てを、一瞬にして無価値と断ずる否定。
「戦闘と闘争の差異など、幻想だ。古今数多の戦場で、存在した事などは一度もない。
より本質を言い表せば、それは破壊と殺戮でしかないからだ。それ以外に意味などない。
ましてその行為に長けているに過ぎぬ者を、英雄などと呼ぶのも愚かしいだけの幻想だ
────英雄など何処にもいない。」
「私とおまえが為すべき事は、この場においてたった一つ。
互いに、歯車として己が使命を完遂する事だ。それ以外に何一つとして価値などない。
───全ては、無謬なる時計の針を進める為に」
鋼鉄の鋳型にも似た冷徹と、血を噴くような闘争への狂熱。
アレクサンドル・ラスコーリニコフと、イヴァン・ストリゴイ。
二人の“戦士”の戦いに対する認識の間には、天と地ほどの隔たりがあることが示されたのであり―――
その上で、イヴァンはこう告げるのである。
「ハハッ───そうさ、あんたはそれでいい。
だからこその、アレクサンドル・ラスコーリニコフなんだからなァ」
「所詮、叶わぬ片思いだってのも分かっていたさ。
だから、振られた俺が闘争を挑むべき相手はあんたじゃねえ───」
言いかけた言葉の先を遮るように。落伍者を間引き終え、自爆により多大な損傷を負いながら、ネイムレスが彼らの前に立ちはだかる。
「なるほど。確かに、お前の相手は私ではないらしい」
天敵の姿を認め瞬時に憎悪と憤怒を纏ったイヴァンの姿に、アレクサンドルは納得の呟きを漏らす。
そんな両者を無機質な眼で捕捉し、ただ命令に従い二人を相手取ろうとする機械兵。
故に。一方は合理的な判断として、もう一方は溢れ出る“天敵”への怒りのままに、当面の相手を認識して……
「我らもひとまず共闘だ。異存はないな、ストリゴイ?」
「ハハッ、そいつは僥倖だ。少佐と肩を並べて戦うなんざ、地獄の鬼すら羨むぜッ」
躰に染み付いた習性のまま鋼の武装を携え、“敵”の撃滅へと向かうのだった。
- 闘争不成立を見越してネイムレス寄越したんだろうけど、その抜け目のなさが余計に嫌われるんだよなオルフィレウス -- 名無しさん (2018-11-29 23:53:17)
- 開発部に直々にコーポレーション会長が表れて、ろくなもん作らないのとパッとしない開発陣其々に全員クビと計画白紙を宣言して残りの有能な戦場ゲームとハードボイルドもののプロデューサー其々に「君達良い作品作るけど『コンテンツ』として世界中に影響力を与える作品作らない限り打ち切られないのは一つの開発陣だけだからね」と言って開発部から去っていった後に、己の作品を完成させるべく作風は違えどコラボ企画でとりあえずの締め切りに対処する二つの開発陣のお話 -- 名無しさん (2018-12-27 21:28:47)
- イヴァンさんが言うとホモ臭くないんだけど光の亡者が言うとなるとなんとも…… -- 名無しさん (2020-04-17 20:49:59)
最終更新:2024年03月12日 00:25