負けないのですか? ……勝てるのですか?



狩人アリヤ・タカジョウ、彼女がそう生きることを自らに課した際の言葉。


―――『杭』により、両親を物言わぬ肉塊に変えられた少女。
命乞いをしても、無惨に殺された親。
何事か愉し気に嗤っている、人間とは明らかに異なる怪物。

それらの光景に、彼女の瞳からは光が消え失せ、抵抗さえ無駄だと悟り……
不可避であろう死という結果を、他人事であるかのように諦観しながら受け入れていた。


だが、アリヤという少女は、巨大な『白木の杭』を操る老人によって救い出される。

全てが終わった後―――
老人……クラウスは、未だ立ち上がれずにいるアリヤを、難しそうな顔で見つめ続け、遂にその重い口を開いた。


「生きたいか?」

少女は思う。どうなのだろう、だって今、自分が生きているかどうか分からない。

「死にたいか?」

少女は思う。どうなのだろう、でも、痛いのはあまり好きじゃないから。

「逃げたいか?」

少女は思う。どうなのだろう、分からない。逃げ道があっても逃げられない気がする。


―――ならば、勝ちたいか?」

その言葉を聞いた瞬間、止まっていたはずの彼女の心は確かに動いた。


老人は少女に、生きている者がいつまでも蹲っていてはならぬと告げ、
人の命の真の価値とは、動く事――悩み苦しみそれでも足を動かし歩む事にこそあるとする。
そして、自らが屠った怪物を指差し、あれこそは歪なる超人、光に背を向けた臆病者だと断言したのだった。

力強い言葉一つ一つに耳を傾けながら、アリヤは老人を“太陽”に譬えた。
凄まじき熱を放ち、夜ごと、相対する穢れを焼き払ってしまえる灼熱の化身だと。

そして、それが如何に無慈悲な光であろうとも、彼の姿を何よりも眩しく強く感じたことは真実だから―――


「………負けないのですか?」


怖い、怖い、吸血鬼(かいぶつ)にも。


「………勝てるのですか?」


今も、こうして恐怖(・・)に蹲っている私でも。喪失を前に呆然と膝を折るのではなく……
あなたのように屈する事無く(・・・・・・)、立ち向かえる強い人になれるのでしょうか?


少女の問いに、クラウスは鋼の意思を以て答える。


「勝つ。それこそが《ホワイト・パイル》の矜持なり」


薄汚い闇など物の数ではない―――
そう何よりも雄弁に語る彼の瞳に導かれるようにして、アリヤ・タカジョウはその小さな手を伸ばす。

彼のように、怯え屈することのない強大な光(ホワイトパイル)となるために。
それが、死んでいた自分を動かしてくれる強い想いだと信じているから。


そして、狩人となった彼女は認めることができない。
薄汚い、闇への逃亡者に過ぎず、奪う事に悦びを感じている下劣な“奴ら”の中に、
歪な力に溺れることなく、自分を討つよりも仲間を庇う行動をとり、
あまつさえ年長者のように、人心について鬱陶しく説いてくる、異端な存在がいることを。


だから――彼女は認められない()に向けて、叫ぶのだ。


「私は狩人(イェーガー)! 私は白木の杭(ホワイト・パイル)
光に背き、夜に逃避した愚者を狩る浄化の使徒!」




「人間であることから逃げた臆病者が――今更、人のふりなどするなッ!!




  • コメント鏖殺されてる…おま環かな?それはそれとして「勝てぬよ。ああ、それでも出来れば足掻いてほしい」の真上に来ててダメだった -- 名無しさん (2019-12-02 21:53:12)
  • ↑それはひどいな、最低だぞオルフィレウスよ。 -- 名無しさん (2020-04-27 00:31:56)
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最終更新:2020年04月27日 00:31