己の使命に従い、粛々と生贄の魂を刈り取ろうとする《伯爵》の偉容に対し――
執着に狂った相貌から解き放たれた彼女は、この永き旅路の終わりを受け入れた。
「ああ───私は、間違ってなど……いなかった」
「あなたこそが……吸血鬼。古びた始祖など塗り替える……現世に降臨した、夜の王」
頬を雫が伝う。死の恐怖ではなく、感動の証が月光を反射した。
差し伸べられた手に惹かれたその瞬間から、この終わりは決まっていたのだろう。
だが、彼女の胸に、後悔の念は欠片もない。
「あなたのために……」
誇らしさが今にも砕けそうな胸を満たす。
この偉大な御方に連なれたことが、嬉しくて。
「抱きとめられたくて、ここまで来た……」
だからせめてと、その時だけを夢見て足掻き続けた。
結果は無残なものだとしても。予定調和の駒だとしても。これ以外に、彼女の道はないのだから。
「地位も、名誉も、居城も、不要……私の望みは、ただ一つ」
「いま、あの時から変わらず――この瞳に映っている」
嘲笑とは違う、心からの笑みが唇を柔らかく動かした。
ああ、歯痒い。けれど、それでよかったのかもしれない。
手の届かない相手は理想像であるがゆえに、美しい。足掻くこの手で触れてしまえば、きっと穢れてしまうだろう。
理想は、理想のまま誰にも穢されず在ってほしい。近づきたいのに、己さえも近づかせたくはない。
そんな二律背反の想いに、彼女は最期で気づいたから。
だから、お願いします。摘んでください、《伯爵》。
私を始めたあなただから、私を終わらせていいのはあなただけ。
友情も、愛情も、全ての情はその威光へと集約する。
あなただけが、この慕情に幕を下ろせるから。
「御身へ───永久に咲く、薔薇の愛を」
告白と共に、そっと頭を撫でた手が……彼女の身体を砂に変えた。
求め、足掻き、想い敗れて終わる。
妄執に突き動かされたバイロンの放浪は、悲恋と純情によって、その終焉を迎えたのだった……
- この境地のバイロンが杜志郎と伯爵の戦いの始まりと終わりを見れてたら如何なってただろうか -- 名無しさん (2018-08-31 15:49:12)
- バイロン「やっば全力で攻撃したら最初見た時みたいに超カッコいいんだけど。もうまじ無理、尊すぎてなんもできない、全部差し上げたい」 -- 名無しさん (2019-12-29 03:52:53)
- 《伯爵》ライド閣下が尊すぎる…… -- 名無しさん (2020-03-27 00:43:44)
- ↑2 500年突っ走ってきた感じだし、あんあり変わるようにも思えないけど…どうだろう? -- 名無しさん (2020-03-27 00:46:07)
- なんだかんだ一貫してたしキャラとしては割と好き -- 名無しさん (2020-04-07 12:46:58)
最終更新:2024年03月29日 09:23