…過ごした月日が刻んでゆく痛みを、杜志郎以上に悲しむ女性の手を引きながら。
―――杜志郎様……美影は苦しゅう御座います。
―――ならば……その苦しみ、俺に預けるがいい。 その為に、俺達は二人なのだ。
―――いいえ……私が苦しいのは、そのように私を労わりくださる貴方の姿を見る事が、なのです………
……―――
時の止まった二人の男女の下に、百回目の冬が訪れる。
ふたり、世界から取り残された寂しさを、歩み続けることへの疲れを滲ませ、女は静かに告げる。
「何もかもが変わってしまいました……
いえ、変わらずにいられるものなど、この世には何も無いのでしょう」
それでも、と。
あの日と同じく瑞々しいままの、永遠に輝く愛を守りたい。投げ捨てた過去を無意味にしないために。
現実から目を背け、歩みを止められない男は、自分に言い聞かせるように答える。
「いや、俺たちだけは変わらん……あの時から、何も」
だが、それはどこまでも彼の
幻想でしかなかった……。
第二次大戦後日本における縛血者の大幅な増加と、それを促した東西の
鎖輪勢力圏拡大のための代理戦争の開始。
その変化の波は、外部との交わりを避け続けてきた杜志郎にも、変化を強いることとなる。
街の闇で止むことのない縛血者同士の抗争。
自陣営を拡大するための、孤立する縛血者の組織化。
杜志郎は、自分達に近づくそうした者らを、
血に染まった「怪物」だと嫌悪し拒絶し―――すべて平等に、容赦なく、同田貫で斬り続けた。
二人だけの楽園に踏み入り、自分達を人とは異なると、冷たく事実を突きつける邪魔者。
そんなものは要らない。
この永遠の楽園には、俺と美影の二人だけがいればいい。
「寄らば斬るッ! 吸血鬼どもめ!」
「貴様らとは違う……俺は……俺たちは人間だァッ―――!」
杜志郎は疑心に駆られたまま、ひたすら斬って、斬って、斬って……
伴侶も大切に思っていたであろう、彼自身の持つ人としての情・温かさすら投げ捨て、血塗れの修羅と化した。
―――愛する男が自分を守り、共に在り続けるためだけに、傷つき病んでいく。
その姿をもはや黙って見ていることなどできず、美影は涙と共に訴える。
「杜志郎様……! もう……もう十分で御座います……!
もう、わたくしたちの旅を終わりに致しましょう……ッ」
「美影は……貴方と過ごせて幸せで御座いました……」
取り残されてしまったのだという現実を受け容れ、穏やかに寄り添っていられたかつての幸福と共に眠りに。
もう、これ以上の痛みと苦しみで大切な人を縛り付けたくはない――――
そんな身の丈の幸福を願った美影の心からの求めに、杜志郎はしかし、頷くことは出来なかった。
「大丈夫……大丈夫だ、美影……
俺達は何も変わらない。このまま二人でいる限り……」
愚かな我儘だと判っていても、彼にはあの日の誓いを守り抜くこと――
それしか、自分の依って立つべき物語に命を賭すことしか、生きているとは思えなかったから……
しかし、永遠の楽園などない、この世にいるのはおまえたち二人だけではないのだと嘲笑うように、
甘い絵空事からの冷たい目覚めを促すように、
未だ二人で生きていけると夢想した男に、現実は最悪の旅の終わりを齎そうとしていた……
- 白杭「よし!銀弾をぶち混んでやるぜ!!」 -- 名無しさん (2018-05-22 12:03:37)
- プレイ前は美影さんへの葛藤で思い悩むところはあるけど大人な主人公だと思ってたけどいざ蓋を開けると結構アレな人だねトシローさん -- 名無しさん (2018-05-27 15:11:34)
- だからグランドルートでアイザックに突きつけられるまで自分が一番現実を受け入れてないってことに気づかなかったんだよな -- 名無しさん (2018-06-02 12:57:31)
最終更新:2020年07月05日 23:14