“あの日少女が、見上げた星の彼方、落ちる雫がそっと示した終焉の刻”
本体は地球より遠く離れた宇宙の虚空に浮遊している。その距離はおよそ三百億キロメートル以上もの超々長距離であり、
海王星軌道よりも遥か先、 エッジワース・カイパーベルトと呼ばれる太陽系外縁部に広がる未知の天体領域。
そこは生命はおろか光さえ存在しない外宇宙であり、物語の黒幕でありながら単純に移動が不可能な 距離という物理的な隔たりが人類の抵抗を許さない。
作中でこの距離の問題を解決できるのは、作中では ナドレックの 超能力である 物体招来/転送能力しかない。
加えて、なんとか距離の問題を解決できたとしても この存在は超巨大であり、通常の手段で破壊するのが不可能。
巨鯨のように有機的な曲線を描く全体像は地球の大陸の二つや三つを軽く飲み込むことができるほどの巨体であり、表面をフジツボのようにびっしりと覆う突起物の一つ一つが地上最大山稜であるエベレストをも凌ぐ。
地球上の全核弾頭を集結させたとしても太刀打ちできるかわからない巨大さと、大陸間弾道弾を用いても絶対的に到達不可能な膨大すぎる距離の隔たり。
文字通りの意味で人類を脅かす存在でありながら人類側はこれを撃退できないという、どうあがいても絶望状態となっている。
作中最強の本気を出せば大都市を一撃で破壊できる程の 超能力を持つ人類である キニスンでさえ、破壊力の不足により奮闘むなしくどうすることもできなかった。
それは一にして無数。無数にして一。群でありながら統一された意志を持つ存在。
遥か星の彼方より、悠久の時間をかけて宇宙を旅する永劫の旅人。
太陽系誕生以前より億年単位で数十兆、数百兆キロメートル規模の旅を続けている。
この存在を地球に呼び寄せてしまったのはナーラであり、その巫女たる彼女を模した像が上層部に出現する(ただしオーストラリア大陸ほどの大きさ)。
彼らには一つの使命があり、旅を続けているのはその使命に沿ってのこと。
その使命を単純に言い表すとそれは 「融合と同化」。
価値観の多様化をはじめとして、宇宙に存在する知的種族はその知性ゆえに様々な問題的宿命を孕んでいる。
多様化された価値観の差異は必ず衝突を引き起こす。それは誰しもが自己の価値観を至上としたがる本能からくる争いであり、避けることはできない。
そうした争いを続ければ、最終的に知的種族は互いに淘汰しあった結果として絶滅する。
融合知性群体の使命とは、 その摂理に逆らい一つでも多くの知的種族を保護することにある。
しかしその保護の方法とは 「多様性の排除」。
闘争を呼び起こす要素である 個我を除去し、価値を均一化し、対立による自滅を避けるように促すのである。
彼らの理想として、 「すべてを単一に融合同化し“勝敗”そのものに意味がなくなる」……そんな状態を志向するのだ。
まず、対象の知的種族に相応しい統一概念、行動を解析するため、上位より観測活動を実行。
その観測が終了した時点で、因子の活動を活発化させ、対象種族の全面的な同化を開始する。
種族全体の精神を決定された単一の共通概念により染め上げ、障害となる不純物を除去した上で、群体のコアの一部として当該種族を収納する事で融合を完了させるのである。
この同化から漏れた生命体、つまり群体から見ての「不純物」は 排斥体として機械的に弾かれてしまう。
そして 文明圏の融合を経ることで、群体は増えていく。彼らがここまでの巨大さを持つのはそうして総体を増やしていったため。
一つの 文明圏と同化を終えればアンテナを伸ばすように超光速通信による思念波を飛ばし、次の文明圏が発見されれば再びそこに接触して同じことを繰り返す。
つまり彼らは別に人類を滅ぼしたいわけではなく、人間に対して何の敵意も持ち合わせていない。
むしろ意思を持っているかどうかも怪しく、個体としての意思も捨てているその成り立ちから宇宙規模の機械とも例えられる。
彼らの到来で人類が滅びかけたのは、ナーラが選んでしまった人間が 神代直だった(加えてこの時(再生される直前)の直の精神状態が最悪だった)ことが原因である。
基準として選ばれた直が取っていた"善"なる行動がほぼ全て 英雄的であったため、それに沿わないほぼすべての人類が選別から漏れてしまった。
言ってしまえば地球滅亡一歩手前の原因はナーラと直ということになる。
とは言っても、彼らにも悪意があってそうなったわけではないため、今回の災厄は 偶然にも不幸な出来事が運悪く重なり続けてしまった末の事故に等しい。
故に彼らを一方的に責めることは難しいし、ましてや二人がそうなるに至ったあまりに過酷な背景を考慮すると頭ごなしに非難するのは流石に酷であろう。まさか誰が 『正義』の味方を志す存在もびっくりな世界になると予想できるというのか。
また、星と同化をした後もより純度を保つために内部でさらに振るいわけは行われている。そこで排斥された分の排斥体が崩壊した暁市に現れた排斥体の正体である。
最終的に、物語終盤において全ての 記憶を取り戻した直の選択によって 地球人類の未来が決定されることとなる。
能力
戦闘での役割はないため戦闘能力を持っているのか不明。
本編での戦闘らしい戦闘も持ち前の質量による耐久力だけでキニスンを返り討ちにしたのみ。
しかし確認できるだけでも、
- 宇宙を億年単位で彷徨っている
- 知的生命を意思を持たない怪物に変える
- あらゆるものを取り込んで融合できる
- 宇宙中に超光速通信の思念波を飛ばすことができる
- 星界の果てから空間圧縮による超光速移動を行い知的生命の住む星のそばに移動する
- その時、余波で何万光年分もの空間が復元することによる反動が起きる(そのままにすればその星が滅ぶ)
- この反動を、次元を歪曲させる力場を展開して減衰・封印できる
- 生命の完全な蘇生ができる
- 平行世界の観測及び干渉
- 世界線の往来および各世界の住人の記憶からの痕跡消去
など、数多の知的種族を同化・保存することで手にしたその種族の異能力や科学技術を自在に用いることでこのラインでもトップクラスの能力を持つ。
そのため、戦いのための力を持っていないとも言い切れない(目的が目的なので持っていたとしても使うことはないだろうが、それは耐久力だけで十分だったキニスン相手では使うまでもなかっただけに過ぎず、己を脅かすかもしれない力を持った存在による攻撃を受けた場合は保存した知的種族を守るべく防衛機構のようなものを発動させていた可能性はないとは断言できない)。
彼らの到来理由が生命の保護であったため地球はギリギリのところで助かっているが、もしも理由が滅亡であったらこの存在がやってきた時点でわけもわからぬまま地球は滅んでいた可能性が高い。
仮に戦闘能力を持っていないとしても、大陸数個分の超質量が超光速で移動可能な時点で奇を衒う必要もない脅威であり、黒幕にふさわしい力を持っていることは確かである。
余談
その在り方は別作品における灰と光の境界線と対極的に思えるが、その実多様性に対するスタンスが『排除による統一』か『相互理解による調和』であるかを除けば目指しているものとその他の行動様式はほぼ同一である。
航界記の目的は『より多くの願いや価値観などを知り、その上で自分達何を目指したら良いのか、どこに行けば良いのか』を探求することであり、『一つでも多くの知的種族を保護すること』という融合知性群体の使命を一つの種族内までスケールダウンすれば航界記の『一人でも多くの価値観や願い、哲学や理論を守護すること』となる。
更に言えば『多種多様な融合・同化した種族の異能力や科学技術を行使する』とは海洋王の『対話により能力を貸与し、それぞれの能力を能力の共存共有化により複数の能力を合成、並列して行使する』にどこかしら共通点を彷彿させるものである。
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