――できない。他人を守って自分が傷つくなんて……
――大勢の知らない誰かのために命を賭けるなんて……
――神代直のように生きるなんて、私にはできない……
「でも、ナオは私に言ったよ?」
その正体は「元人間」である(正確には元知的生命体)。
なぜ都市に排斥体が出現したのかは簡単で、 単に街の人間が怪物に変貌してしまっただけである。
多すぎるその数の理由も、街中の人間が怪物になってしまったため。
いかにして人間がこの醜悪な怪物の姿に変貌してしまうのか、それは 本作の 黒幕的存在が密接に関わってくる。
本編にてこの黒幕的存在は人類に対して 一つのテストを行い、人類を篩に掛けている。
そのテストに失敗の烙印を押されてしまった者が、この怪物になってしまうのである。
このテストが行われているのはあかつき新都だけではなく、 日本中、どころか世界中という惑星規模にまで彼らの手は及び、世界中の人々が次々と異形へと変わり果ててしまった。
そしてそのテストの内容とはズバリ、「人類のお手本である神代直と同じ善なる心を持つことができるかどうか」である。
今回の場合、判定基準である直が平行世界線上で実践し続けた行為と同じく、いつでもどんな時でも弱い"誰か"のために自分を犠牲にしてでも頑張れる精神。
加えて、自分以外の誰かのために"善"を目指せる人間。
たとえ危機に陥っても諦めず立ち上がり、たとえ自分より強い敵が相手だったとしても挫けずに立ち向かい、友人や愛する人間を救うために懸命に手を伸ばし続けることができるか。
つまるところ一言で表せば、"自分以外の誰かのために"ということである。
自分とは関係のない人間にも手を差し伸べようとする熱血漢、自己より他者の利や生命を優先できる英雄や聖者のような人間だけがこのテストにクリアすることができる。
言うまでもなく超難関な試練であり、ごく普通に自分を優先してしまう普通の精神がほとんどを占める人間という種族の中でそんな聖者に当たるものはむしろ異端。
そして失格となったものは世界の外に排斥され、文明圏の知的生命体としての資格を剥ぎ取られ、個我の特徴である攻撃と闘争に特化した生命体へと強制的に変換される。
もちろんこんな条件はそう簡単にクリアできるものではないし、世界中を探したところでこの選定を掻い潜れる人間は極極僅か。
普通の人間にそんなことはできないし、自分を優先するという心理は当たり前のことだからである。
わかりやすく 過去の作品で例えるならば、 正義の味方を名乗る審判者が夢見た 極楽浄土にも似た選定条件と言えるだろう。
だが今作のこれはその審判者でさえ、もし目の当たりにすれば顔面が蒼白に染まってしまうであろうという、ある意味においてそれよりも更に輪をかけて最悪。
あちらは信賞必罰という理が支配する世界で一見まだ理想郷にも見える世界であり、悪行を積んでもそれ以上のプラスを積めばプラス側にいられるようなある程度の救いの余地は残されている。
事実、極楽浄土とは彼が思い描いた理想の世界であり、彼の言うところの強者が報われるための世界だからである。
が、理想の世界ではなく人類に対する "選別"であるこちらは失格の烙印を押された瞬間 即アウト。一瞬で怪物の姿になり、自我を失ってしまい……人間としては ほぼ死んだも同然となる。
さらにテストにクリアしたとしても、無数の怪物たちが跋扈する世界に取り残される。つまり、極楽浄土でいうところのプラスの恩恵も 一切ない。
またさらに一度は選別を潜り抜けたとしても、後々自己保身に走ってしまえばその瞬間再び選別を受けて怪物化してしまう。 つまり、 生きている限り永遠に英雄や聖者のような、「神代直のように」あらねばならない。
さらに一度排斥体に捕捉されれば当然排除の対象となる。
もちろん捕まれば殺されてしまうし、殺されないためには逃げ続けるしかない。
しかし無数の怪物たちから永遠に逃げ続けることはやはり難しいだろう。先に体力的、精神的に限界が来てしまう可能性の方が高いと思われる。
そしてまた更に、仮に逃げ続けることができたとしても黒幕的存在の手からはやはり逃れられないという、どう足掻いても人類は詰みの状態となってしまっており、世界は終りへと向かう。
|