そうやって、いつも真っ直ぐ走っているジュンを見るのが――本当に好きだったよ。勇気や希望を貰ったような、そんな気がしていたんだ

発言者:秋月 凌駕
対象者:万里也 ジュン


いつも太陽のように明るく、前向きで笑顔を絶やさなかった少女。
そんな彼女が、速さ”の陰の、積み上げた努力を徒労に帰してしまうことへの恐れに苛まされ、
それを克服しようとしてまた傷を増やしていく姿を見つめた上で、
彼女を想う一人の男として少年が伝えた、少女の走ってきた姿への素直な思い。


ジュン√、アポルオンとの闘いで傷つき倒れた凌駕は、夢の中の屋上でカレンと再会を果たす。
凌駕は、彼女からアポルオンと闘っていたもう一人……ジュンの心は、これから
本来単独では到達できないはずの影装辿り着いた反動に苦しむことになるという事を告げられる。
そしてカレンは、いつも通りで気遣わせてもくれない凌駕に軽口を叩きながらも、
もう、こうして彼と言葉を交わし合うことができなくなる事に、初めて寂しさ、切なさの宿った表情を見せ――
私にとっても大切なジュンの事を支えてやってほしい。二人を私はいつも見守っているよ……と告げ、心に吹いた風のように、彼女は去って行ったのだった。


やがて学校の保健室で目覚めた二人は、
攫われたマレーネを除く仲間達との今後の話し合いの結果、
自分達は戦闘での損傷を修復することを最優先とし、他のメンバーはそれまで待機という形で落ち着いた。
そう、あれだけマレーネを助けたがっていたジュンも、静かにそれに従うという“らしくない”姿を見せて――

各々が休校となった学校各所で、次なる戦いに向けての準備を行っていた頃、
屋上で一人、物思いに耽っていた凌駕は、ある間隔(リズム)で大地を蹴る音を耳にし
校舎から出たところで、校庭で一心不乱に走り込みを続けるジュンの姿を目にした。
何度も、何度も目の前にある行き先しか見えていないかのように。
いや、まるで……自分は道を走っているのだ(・・・・・・・・・・・・)という、当たり前の結果を信じるような……
自分の息をなんとか切らし、疲れ果てたがっているような……
凌駕には、そんな風に思えてならなかった。

それを放っておけなかった彼は、
ジュンに声をかけ、何か彼女の心に燻っているものがあるとその素振りから感じたことで、
相談に乗らせてほしい、笑顔の方がジュンには似合っているから……と己の気持ちを伝えていった。


それに対し、ジュンも儚い笑顔を浮かべながら、静かに自分の中の“こんがらがっている”思いを吐き出していく。
走ること、そして走ることで何を目指していたのかが分からなくなった……と。
速く、速く、少しでも速く、
それを追い求め、挑み、少しずつ目標に近づいていく実感……それを奪われてしまったという事。


「足を踏み出して、地面を蹴るのが好きだった。
努力した分だけ、加速していく感覚が好きだった」

「でも、影装(あれ)で得た最速っていうのは、すごく身も蓋もないやり方で……」

「全部、ただの一歩(・・・・・)。……笑っちゃうでしょ?
ちょっと踏み込んだだけで、もう自分の身体はゴールテープを切った後だから」


「それに気づいた瞬間、こう言われた気がしたんだ。
――ほら、お前の求めていたものは、所詮こういうものに過ぎないんだぞって」


「あはは、図太いつもりだったんだけどね……なんか、珍しくそれで柔らかい部分にガツンと来ちゃって」


目的地への過程を何よりも重んじてきた、そしてそれに対する努力が報われると、これまで前向きに信じてきた彼女の決意。
その決意が、科学の出した“そもそもの道のり自体を排除する”というあまりに身も蓋もない結論によって傷ついている……
そして今も、それを払拭したいと願い、また自分の心を軋ませている、と……
凌駕は空元気を振り絞っている、目の前の少女が抱えた“傷”を理解し、
それと同時に速さを、走りの極限を求める陸上選手(アスリート)でないが故に、
ジュンは気遣って自分を頼ってくれなかったことも理解できてしまっていた。

痛みに気づいてやれなかった悔しさに歯噛みする凌駕に、
それでも笑顔で、心配はいらないと。気丈にジュンは伝えようとする。


「あ、でもでも、マレーネを取り戻すの、諦めたつもりはないからね!
これは、そのためのリハビリだもん。
本番までには間に合わせるための頑張りだから、自棄になってるわけじゃない」

「大丈夫だよ、きっと難しいことじゃない。
あたしにとっての走る原点を見つけたらすぐにまた走り出せる。歩き出せる」

「凌駕を一人になんてさせないためにも、ついて行ってみせるつもりだよ。
たとえ夢でも彼女(・・)とそう約束したしさ」


そんな彼女に対し、凌駕はせめて自分が今、素直に伝えたいと思える気持ちを言の葉に乗せた――

――綺麗な走行法(フォーム)だったよ」
「……え?」

走り続けるジュンの姿を見続けてきた自分だからこそ言えるその思いを――

「昔と、そして今も、ちっとも動きは崩れていない。
刻鋼人機になったからとかそういうのじゃなくて、もっと骨の部分から整っているんだ」

「つまりそれは、ジュンが限りなく理想形に近い走りへ生身で達していたということの証だろう?
努力の賜物だよ。すごいと思う。そこに俺は、ずっと憧れさえ抱いていた」

「そして、あと……その、ああ何だ――――

……照れくささを感じながらも、凌駕は彼女に対する想いをまとめて


「そうやって、いつも真っ直ぐ走っているジュンを見るのが――本当に好きだったよ


「勇気や希望を貰ったような、そんな気がしていたんだ」


愛おしい日常を彩っていた光であり――もう一度平和な日々の中でそれを見たいと希った。
明日の夢を目指して努力を信じ、日々切磋琢磨していた少女の姿。
そんな万里也ジュンという少女に、秋月凌駕は見惚れていたんだと、そう伝えていった。

――さらに言葉を継ごうとした凌駕に、


――――うあぁぁぁ、ちくしょうど真ん中だ」

「なんかもう、ほんと……やられちゃったよ、カレンさん」


ジュンは感極まったような声を上げて抱きついていた。
文句を言っている言葉と嬉しそうな声色が一致していない事の意味を理解できず戸惑う凌駕を置き去りに、

「こいつひどいよ、反則だよ。
いつもはお地蔵さんみたいでさ、周りをじっと見守るだけで動かないのに、
こういう時だけ毎度決まって的確な不意打ちかましてくるんだから……」

「凌駕って、絶対すけこましの素質あると思うんだ。
普段は目立たないんだけど、心が弱っている女の子をコロッと落としちゃうみたいな」

「んむむ……なんか腹立ってきた。ええい、この鬼畜っ、むっつりスケベ」

そんな言葉を並べながら、ぽかぽかと、じゃれつく感覚で凌駕の胸元を叩く。
そして、ジュンの表情にはいつもの明るさが戻りつつあり、切羽詰まった雰囲気から解き放たれた顔がそこにはあった。


「ふふ、なんてさ……感謝してるよ、本当に」

「ありがとう。ちょっとだけ、最初の気持ちを思い出せたような気がする。
凌駕のおかげで、また走りだせると思うよ」


だから……と言葉を続けようとしたジュンが色っぽい声を上げたことで、
それまでの空気は吹き飛び、二人は自分達が身体を密着させている事を思い出して赤面する……。
さらに、ジュンが、あたし……汗臭くないかな……?と艶のある表情で聞いてきたことで、
彼らの間のピンクな空気は最高潮まで高まって……

「ジュ、ン……」
「凌駕ぁ……」

そして二人の瞳は閉じられ、ゆっくりと熱を帯びた互いの唇が引き寄せられていく――瞬間。


『おハロー、もしもしこんばんはー』


から届いた通信音声が二人の空気を吹き飛ばしていたのであったとさ……。



  • HAHAHAHA!!勇気や希望貰わなくても自分で賄える奴が何言ってるんですかねぇ!? -- 名無しさん (2017-07-11 18:17:45)
  • 自家製勇気や希望「意地も才能もあって200年分の時間で研鑽した奴の妄執には勝てなかったです」「人間」からもらえた勇気や希望「中庸の怪物を「皆と、生きていたいんだ...」と切なる祈りにすがる「ただの人間」にしました」(なお、そのただの人間は意地と才能と200年分の研鑽を持つ精神面において中庸の怪物を上回っている機械神を完全撃破した模様) -- 名無しさん (2017-07-11 18:26:37)
  • ↑ホモ融合は強いからね -- 名無しさん (2017-07-11 19:29:36)
  • そうやって、いつも真っ直ぐ走っている閣下を見るのが――本当に好きだったよ。勇気や希望を貰ったような、そんな気がしていたんだ -- 審判者 (2020-07-19 15:58:05)
  • ↑2 ヤンホモバーテンダー《おっそうだな》 -- 名無しさん (2020-07-19 16:00:10)
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最終更新:2020年07月19日 16:00