だから、これからは俺がお前の傍にいる。俺が示すよ、美汐がずっと肯定してほしかった正しさを、この手で形にしてみせる

発言者:秋月 凌駕
対象者:青砥 美汐


周囲を憎むだけ憎んで、大切な人の思いに気づけず喪っていく、
そんな己に対する深い絶望感に苦しみ、弱さと愚かさしかないと悲嘆し、理不尽への恐怖に震える美汐。
それらの想いを受け止め、未だ形の見えぬ心の闇を抱えながらも凌駕が伝えた、青砥美汐に対する生涯をかけた誓い。


《無名体》(ネイムレス)の暴走に始まった混戦により、
凌駕と美汐は、二人の仲間を奪い去られ、深い悲しみを刻みこまれた……。
哀しみに暮れる美汐に寄り添い、深く情を交わす凌駕。
そんな彼らの元に、何とか生き残っていたマレーネと切が連絡を取り―――
彼女達を前にして、逃げ隠れるのではなく、生き残る方策を見つけるべきだと。
自分達でギアーズの拠点と、実働部隊の最優先対象たるネイムレスを排除し、彼らを撤退させようと提案する。
そう……戦うしかないならば、これ以上無為な時間を過ごしてはならない。
自分達を生かしてくれた仲間に報いるために。彼らの想いを荷物ではなく明日へ進むための力へ変えるために。
マレーネたちもその方針に呆れながらも同意し、全体の行動は決まったかに見えた……はずだった。

「……無理、よ」

だが、凌駕の前進への強い意志に、美汐は震えながら弱音をこぼす……

「私は、そんなに強くない……出来ないッ……!」

そうしてトレーラーを抜け出して去ってゆく少女の姿に、
凌駕は彼女の辛さを判ってやれず、自然に置き去りにしようとした事を悔い……
そしてそこに自身の影を感じつつも、彼女に対する“責任”を果たしたいと願う気持ちに従い、美汐を追って走り出す。


……雨の降る街を駆け抜け、美汐の影を探し求める凌駕は、最も彼女にとって深い傷を刻んだ場所――
すなわち昨晩ジュンが命を落とした戦場へと足を運んでいく。


……そこに美汐はいた。
生々しい戦火の痕が残り、抉れ焼け、けれど二人の仲間の遺骸のまったく見当たらない校庭に。
涙に雫を混じらせ、止め処なく流れ出る悲しみを拭おうともせず、ただ地面に座り込んで。

「ねぇ………ここに、ジュンはいたのよ」

「そして、あの子の姿はもうないし―――永遠に戻ることもなくて」

「償う方法なんて、一つも存在しないってうんざりするほど分かってるの………」

追ってきた凌駕に視線を合わせることなく、素顔のまま傷ついた少女は語っていく。
自分を庇って死んだジュン……彼女に対する己の罪と、何等償うことのできない無力な己への哀しみを。
強大な機械兵……その暴虐を、理不尽な現実への深い恐怖と、それを突きつけられてなお戦うと“正しく”言える凌駕の心の強さへの怯えを。


「ねえ、どうしてまだ戦うなんて言えるの秋月?
なんですぐ立ち直って、平気な顔して、戦う勝ち取る報いるって……」

「何で言えるの? お願い、教えて。
頭がおかしいわよ、それは正当性の狂人だってはっきり言ってあげるから」

「ネイムレスの力……あんただって見たでしょう?
私はもうあんなバケモノどもには付き合えない。立ち向かえない、怖くて怖くて仕方ないの」

「分かってるのよ、こんなことを言うのは間違ってるって。正しいのは秋月の方なんだって。
そしてこのまま逃げてしまいたいのに……それが不可能だって言うのも、全部全部分かってるの」

「でも、私は……っ」

「……私は、もう無理なのよ。痛いのが怖い、死ぬのが怖い、
本当はこんなことなんて、したくなかったと今更気づいてしまったから」

「そして何より―――前を向くだなんて、もう出来なくて」

「ジュンの様にも……秋月の様にもなれないよ」


そこには独り鬼の面を被り、強者を憎んでいた苛烈な表情の女の姿はなく……
しかし、かつて信じてきた誠実さも過去の痛み故に掲げる力もなく、悲しみに暮れるしかない儚い少女がいるだけ。

「ごめんなさい、ジュン……ごめんなさい、父様、母様……ずっと八つ当たりしてしまって。
本当は好きだったのに、嫌いだなんて憎んだふりして……ごめんなさい」

偽りなき彼女の嘆き、恐れ、そして悲鳴……。
それらを全て聞いた上で、凌駕は―――彼女を優しく抱き締めた。


「だから、これからは俺がお前の傍にいる」

「俺が示すよ、美汐がずっと肯定してほしかった正しさ(・・・)を、この手で形にしてみせる」
生き残った者として、この生涯を懸け捧げよう。謝ることなんかじゃないって、教えてやらないといけない。

そう、だって―――


「正義は勝つ、悪は滅びる……いいね。素敵な言葉じゃないか。
だからこそ、今から現実にしてやろう」

「賢そうな顔をして、悲劇の結末を愉しむような人間は俺も嫌いなんだから。
気が合うじゃないか、嬉しいよ」


「あき、づき……」


少年は今の己が真に願っている想いを、大切な少女へと明かしていく。
この手を離さないと、君を支えたいんだと……心の傷ごと包み込めるよう、力強く、誠実に。
―――秋月凌駕の、青砥美汐に対する人生の宣誓を、今ここに。


「ここに誓おう────
美汐の苦しみが取り除かれるまで、もう一度ありのままの青砥美汐であれるまで」


「秋月凌駕は、ずっと傍にい続ける。
どんな不条理が相手でも、美汐の中にある壊れない誠実さであってみせるから」


「だから美汐も、そろそろ自分を許してやってくれ。
怒った顔や泣き顔じゃなくて、そろそろ本当の笑顔が見たいんだ」





告げられた言葉に震え、美汐は信じられないと不安に揺れながら、掠れた声で言葉を紡ぐ


「ばか、でしょ……なによ、そんな格好つけて、さ……」

「ど……うして? どうして、そこまで言ってくれるのよ?」

「こんなっ、こんな弱い私に……
ジュンみたいに素直じゃなくて、かわいくない、女なんかに―――


それに対し、凌駕は伝えるのが遅すぎてしまった、一つの想いが理由なのだと、答える


「ほら、よく言うだろう?――こういうのは惚れた方が負けだって」

「美汐は自分でも知らないうちに、秋月凌駕に勝っているんだよ」

そして、自分が知る彼女の内の優しさ(つよさ)を信じて……


「おまえは強いよ、立ち上がれる。世界中の全てが否と唱えても、何度だって、俺は叫ぶさ」

「美汐は強くて優しい子だって」

「失ったものの分も強くなれる、誠実な子なんだって」

「その願いがある限り、受け継いだ想いが尊い限り、必ず前を向けると信じている」


「………なあ、そうだろう?」


そうして、美汐は、優しく返事を待つ少年に対し、涙を流しながら、言葉にならない想いを叫ぶ―――


「う、ああぁっ……うわああぁぁぁぁっ……!」

「あ、きづ……き……秋月ぃっ……あああぁぁぁっ……!」


子供をあやすように抱き締める凌駕の腕の中、
青砥美汐は、身体の奥底に溜めていた全ての傷を洗い流すように、泣きじゃくる。

喪った両親と、喪ったジュンに対して、何度も何度もごめんなさいありがとうの言葉を告げながら。
大好きだったと、そう素直な気持ちを世界へ向けて叫んでいった……。



  • ここで抱き締めてあげるのが凌駕。ここで興味なしとして切り捨てるのがオルフィレウス -- 名無しさん (2017-07-11 20:29:16)
  • そもそもあいつには友達がいないからこんな事にならないという悲しい現実の壁にぶち当たる -- 名無しさん (2017-07-11 22:28:36)
  • 凌駕「きっと立ち上がれる(折れそうな強さを肯定し、告白して力になることを誓いながら)」オルフィレウス「さあ立ち上がれ(折れかねない弱みを突く嫌がらせして、自身の糧になることを望みながら)」・・・そりゃねぇ -- 名無しさん (2017-07-12 22:34:34)
  • その人類最高の科学力と頭脳で例として「気にする事はない。あくまで原因は脳という物質の一部の異常だ。病気が理由で君の人間性が貶められはしないのだから」みたいなソリッドだけど優しい言葉が言えれば主人公になれたかもしれんのになぁ... -- 名無しさん (2017-12-05 20:51:30)
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最終更新:2020年06月13日 00:27