――私は、機構を滅ぼす強者(あく)に成りたい

発言者:青砥 美汐


誠実さを信じ、両親から愛を注がれて生きてきた令嬢、青砥美汐が、
世の不条理に直面し、何もかもを喪失した末に、温かな思い出を封じ込め、新たに打ち立てた決意(エゴ)



幼き頃から、両親の愛情を受け取って真っ直ぐに育ってきた美汐。
穏やかな光に包まれながら、彼女の胸には常に、親から学んできたある一つの言葉が存在していた。

それは、“誠実に生きろ”という言葉。

誰かを助ければ、自らもまたいつか助けてくれる。
誰かを傷つければ、自らもまたいつか傷つけられる。
因果は応報するのだ、という両親の教えは、美汐という少女の生きる上での標となっていった。
そして実際に、彼女の周囲の世界はそれで上手く回っており、皆が笑顔で微笑みかけてくれていたのである。

無条件な父母の愛情で他者の善性を信じ、その上で自らの行動が幸せを与えられるということを自覚する。
助け合いの精神はそうやって育まれ、相互を幸福の連鎖へと誘ってくれる。
無償の愛を証明し、次に有償の愛を獲得する術を教える、そこを両親は教育の上で重んじていた。

無論彼らとて、現実にそういった理屈が通じる相手ばかりではないことは重々承知の上であったが、
それでも、そんな言葉を信じて育つ時間を我が子に与えようとした。
邪悪さや精神の闇ばかりを見て、それを屈させることに快感を覚えたり、
他者の悪意を利用して狡猾に立ち振る舞うような、そんな人間には成って欲しくはなかった。

愚かで結構、だからこそ子を健やかに育て守るのだと。
両親のそんな願いに応えるように、少女もまた、心に優しさという花を持つ立派な令嬢へと成長していった……。



――しかし、幸せの光に包まれていたこの家庭の運命は、ある時を境に一変する。
政治家である美汐の父親、青砥大海が、裏側に存在する時計機構の末端に気づきかけたこと……
たったそれだけの事実が、美汐の周りにあった世界を急速に破壊していった。

あれほど眩しかった風景は、悪意に満ち満ちた世界へと反転する。
手の平を返す親類に、嬉々として架空の罪を書き連ねる新聞社などなど………
あまりに重い、精神への暴力が彼女ら親子を苛み続ける。

父親は巨大疑獄の汚名を背負わされ、失意のままに自殺を遂げた。
母親は度重なる精神への負担に、心を病んだ。
壊れて行く大事な人達の姿に、心を軋ませ、涙を流し、何度も現実の不条理を思い知らされた美汐はそれでも、
両親の教えを守り、気高く在ろうと、屈してはならぬ輝きを守ろうとした。


だが、限界を迎えてしまった母親の無理心中によって、ついに……
少女・青砥美汐は憎悪の叫びを世に向けて放った。


どうして? なぜ? 私達は悪い事なんてしていないのに、誠実に生きてきたはずなのに。
こんなにも理不尽な目に遭わねばならない理由があるの? 
罪が在るなら償うから、教えてちょうだい。


共に死を選んだ母への失望よりも、先に逝った父への懇願よりも、何よりも勝ったのは不条理への嚇怒であった。
甘い汁を吸う卑俗な存在、それを見逃している社会。
それらに彼女は絶望し、悲嘆して、
――刻鋼人機(イマジネイター)として甦ったその瞬間、今までの価値観を捨て去らんと決意した。

誠実さなど無意味。この世は所詮弱肉強食。
善に意味なし。利得を得るは常に悪。能力こそが唯一の牙というのならば……


「許さない……私は強者へと生まれ変わる。もう二度と奪われたりするものか」

「そして思い知らせてやる。弱者を喰らう肥え太った豚共に、奪った者の痛みを刻もう。
お前達がどれほど多く、尊いものを笑いながら踏み躙ったか……死の間際まで後悔させてやるんだから」

かつての尊敬と愛情は反転し、弱者になるよう育てられたことを恨みながら、両親の思い出とも決別する。

力こそが、強者こそが世の真実。ならば己は――


――私は、機構(やつら)を滅ぼす強者(あく)に成りたい」


今度は手に入れたこの力で、連中を蹂躙してやろうと。

そうして激情の赴くまま、美汐は自らを蘇生させた機構の施設を壊滅させ、電子機器を掌握、
マレーネ達反抗勢力とのコンタクトをとり、現在に至るのであった。


+ ...
今、美汐はかつての自分と、温かい家族との思い出をひたすらに侮蔑し、
毒を喰らうために鋼と成り、戦化粧で常に心を武装している。


「私はさ、うんざりなんだよ───お前達の友情芝居(ごっこ)は」

「自分で手一杯なら、自分だけを守れよ。
他人(わたし)に構って不幸になられても───こっちは不愉快なだけなんだから」


「もう、背負いたくないのよ………」


だがその過去への憎しみは、裏返せば未だそれらを捨てきれていないことの証であり………
無くしていないからこそ、疼く。
が見せる、誠実さに対する想いが、その生き方を眩しいと思う感性が。


そして彼女は今また、そんな輝きを憎みながら遠ざける。
胸を掻き毟るような苛立ちに、一人で眉を顰めながら………





  • 彼女の身に起きた件、黒幕からすれば表向きの加害者達をさぞ侮蔑していることだろうなぁ…。 -- 名無しさん (2019-08-17 21:48:14)
  • ???????「“悪の敵”に成りたいのだ!」 -- 名無しさん (2023-01-09 20:55:09)
  • これは閣下ブチギレ案件ですわ… -- 名無しさん (2023-01-11 10:04:41)
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最終更新:2023年01月11日 10:04