――助けて

発言者:青砥 美汐


両親が壊れながら死んでいき、絶望の中で自分の命も失ったことで、彼らが教えた“正しさ”、“誠実さ”などは圧倒的な“力”の前には弱く蹂躙されるだけに過ぎないとして、他者を信用せず、己を強く在らしめんとした美汐。
そんな彼女が、支配者の手によって虚飾を剥ぎとられ、今なお己の本質は弱いままの少女であり、そんな自分は既に忌み嫌う力そのものに変わり果てていた、という事実を露とされ、悲嘆を叫びながら暴れ狂う。
そのまま疲れ果て、他のさらに強大な暴力に命を奪われんとした際、美汐が心から発した呟き。


突如、エリザベータの命を喰らい、他の刻鋼人機(イマジネイター)も破壊せんと暴れるネイムレス
鹵獲し、友軍機となっていたはずのネイムレスの暴走に溢れんばかりの憎悪を向けながら影装を展開しつつ全力でそれを潰そうと猛るイヴァン
その二機が激突し合う戦場で、凌駕達は直前までのイヴァン達との闘い、および前日までの傷によって、十分に動けずにいた。
美汐はこの困難な状況の打開策として、先に断念したネイムレスの操作権奪取を目論見、囮となった凌駕との連携で接触には成功したのだが……
ネイムレスから送られる謎の意思、それが美汐の強制的な覚醒を促して─────

青砥美汐は、人形の鋼を纏った影装に至り、他二機を超える速度によって、三つ巴の状況を作り出していった。
だが、それはあくまで彼女の身体だけの話であり、その精神は、見る仲間達の心も抉るような悲痛な少女の悲しみと絶望に彩られたものであった………


「違う、違うの……違う、違う、違う、違う、違うんだからッ」
「私は、奪う側になんてなってない───ッ!」
「やりたくないの、したくないの……傷つかないでよお願いだからッ」


「父様、嘘よ、間違いなんてないはずじゃない……
正しいことをしてきたじゃない……!
だからもう、謝らないで。そんな姿は見たくないからッ」

「どうして……どうして母様──
見ないで、そんな眼で見るのは止めて! 嫌ああぁぁぁぁっ!」


それは、彼女が弱さと断じ、切り捨てたはずの過去に対する慟哭。
装甲の間から火花を散らしながら、眼前で信じた人が、想いが無残に踏み躙られた光景を信じたくないと、あってほしくないと涙しながら狂乱するのみ。
美汐には現実の敵手など映っておらず、過去の幻影の中で苦しみ悶え続ける。


「私たちは悪くない……私たちは悪くない……助けてきた、
笑ってほしかった、奪いも穢しもしたいだなんて思ったことは一度もない!」

「悪いことなんて、間違ったことなんて……
何も、何も、何一つ、してないじゃないのよォォッ!!」


何とか彼女に手を伸ばそうとする凌駕であったが、他の仲間と同じく負った傷の深さゆえに、眼を背けたくなるような光景を前に動けず……
それでも、ジュンは身体を引きずりながら、友達と呼んだ少女のために涙を流しながら叫ぶ───


「ねぇ、もういいから……そんな、一人で抱え込まなくてもいいからさぁっ……!」

「ほら、やっぱり無理してたじゃんよ。いつも意地張って、強がって……そんな姿、辛そうでもう見てられないよ……!」


「もっと早く、辛いって言えっ……馬鹿ぁ!」


先に互いの在り方について譲れず喧嘩にもなって……今この声が届かなくなった時でもジュンはその想いを伝えようとしていた。

しかし、既に美汐の精神という燃料は底を尽きかけており……


「見せないで、ごめんなさいッ……私が間違っていたからぁ!」


幸せな過去と、それを喪失した瞬間と、そして今現在暴れ狂う己の醜悪な姿。
それらによって徹底的に嬲られた美汐は、身体から力を失い、二体の獰猛な獣の格好の標的でしかなくなっていた。
イヴァンによって吹き飛ばされたネイムレス、それが向ける銃口を目の前にして、美汐はこれまでの仮面を取り戻すこともできず、ただ恐れた。


死ぬことが怖い。痛みが怖い。自分が死ぬことで優しい父母は思い出ごと消えてしまうということが、何より一番恐ろしく。


彼女は、か細く掠れた声で呟いた……


「───助けて」


――ネイムレスから命を奪う凶弾が放たれたその瞬間、美汐の身体は何者かに押し飛ばされ、地面に投げ出された。
影装も解除され、自由になった身体。そこにかかった生温かい飛沫と、自分を抱きとめた感触に視界を上げると……


「ううっ……っ、あ……」

「……ああ。やっと正直に言ってくれた。そうだよね。怖いよ……こんなの」


………そこには美汐を庇い、胸の永久機関を貫かれながらも、彼女に微笑みかけるジュンの姿があった―――



  • ナギサちゃん、チトセネキに続いて3つ目だなこの台詞の項目 -- 名無しさん (2017-05-23 09:03:46)
  • Q馬鹿で単純な男を無敵のヒーローにする魔法の呪文じゃなかったんですか!?A凌駕くんは馬鹿で単純な男じゃないので無理です。あと時系列的に魔法の呪文化が後です。 -- 名無しさん (2017-05-23 19:03:52)
  • 同じ助けてでも、結果が一番よくないというのが -- 名無しさん (2017-05-23 19:20:07)
  • ↑ 自分の弱さを受け入れるタイミングの差かねぇ?一応、高濱ァのヒロイン達ってある程度自分の弱さや醜さを知った上で行動してるけど、美汐はそれを無視し続けて来たからな。 -- 名無しさん (2017-05-23 23:01:58)
  • このシーンとこの後のシーン(別項目)はゼロインの中でも特に精神的にキツかったなぁ。ジュンの死、美汐の涙、凌駕の慟哭を見ていると心臓がキリキリする -- 名無しさん (2017-05-23 23:29:07)
  • バトル物の一番手ヒロインは不遇なのが基本だが、これは酷い。けど子供みたいに泣き喚く美汐ちゃんにときめきました -- 名無しさん (2017-05-24 03:05:33)
  • なお、一番手じゃないからと言って不遇ではないとは限らない模様(ナギサちゃんを見ながら) -- 名無しさん (2017-05-24 09:40:08)
  • 凌駕さんが割と空気な気がするこのルート… -- 名無しさん (2017-05-24 10:23:32)
  • 凌駕はバカで単純じゃないから、無敵のヒーローになれなかった -- 名無しさん (2017-05-24 14:46:54)
  • ↑3ナギサちゃんは不幸かもしれないけど、不遇どころか優遇されてる気がする -- 名無しさん (2020-08-08 22:42:31)
  • ↑まぁなんかグランドルートであれこれヘリオスさんヒロインじゃね?って盛り上がってたときのレスだから -- 名無しさん (2020-08-08 22:49:06)
  • 無敵のヒーローにはなれなかったよ -- 名無しさん (2020-11-09 18:53:10)
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最終更新:2020年11月09日 18:53