己が真に抱く願いを告白し、共にその未来を目指そうと勝利の確信と共にヴァルゼライドの胴体を 己の剣で腹から背へと貫き、さらにその上で刀身を捻り、主要臓器を破壊したギルベルト。
その瞬間に死闘の趨勢は決した、ギルベルトは何一つミスなど犯していない。故に、その正着を打ちつづけたその行動に対して順当な結末が訪れる。
「否、貴様はここで必ず止める。何よりも危険な男だと理解した」
「故に必ず粉砕しよう―――決して譲らん。勝つのは俺だ」
そうしてそのトドメに刺しに来る行動を待っていたと言わんばかりに計算されたカウンターがギルベルトを襲う。
剣で貫かれた腹から盛大に内蔵と血がこぼれようとも知らぬとばかりに、死なず、倒れず、膝さえ屈さず、気力のみによる徒手空拳の攻撃が。
そうしてヴァルゼライドは語っていくお前の言うことも理解はしよう、確かに今の世の中では正しい道を歩むことの見返りが少ない以上悪へと人が流れてしまうのは当然だと。
だがその上でと語る、危険を感じ後方へと回避しようとしたギルベルトを自らの腹に突き刺さった剛剣をより深く自分で突き刺すことで自らの側へ引き寄せて。
「お前に足りないものは自覚だ」
そうして語る自分達は万人に倣うことなど到底不可能な破綻者なのだと。前提としてまずそのことを自分で強く戒めねばならないと。
貴様のそれは冗談ではなく人を滅ぼすと 正しき者にしか祝福が齎されない極楽浄土を築かんとする 正義の味方を
民へと繁栄を齎す新世界を築こうとする 悪の敵は否定する、貴様の築くその楽園に民の居場所は一切ないと。そうして神託を告げるがの如く
「俺はこの国と民に必ず光を齎してみせる。ならばこそ過半数をふるい落とすお前の理想は認められん」
「悪には相応の裁きをやるが、まだ歩き出していない者達まで否定するつもりはないのだよ」
「―――遅咲きの花を見守る位は偽善をやらせてもらうとしよう」
「地球にはない極楽浄土の守護を望むのならば審判者とでも名乗るが良い」
貴様のそれは今を生きる人間に対してではなく死後の世界を司るものの基準だと告げるかのように。
だがそれでもと審判者も立ち上がる、そのどこまでも雄々しき有様に彼の敬愛する英雄の末路がどうなるかが判ってしまったからと彼が根たる願いを叫ぶ
「私は輝く者が救われる世界を見たい……ッ」
「ああ、そうだともあなたのような存在こそ報われて欲しいのだからッ!」
しかし、そんな審判者の叫びを聞いても鋼の英雄はどこまでも雄々しく揺るがない。余計なお世話だとでも言うかのように告げる
「―――笑止」
「救いなど一切不要、俺は望んで地獄へ往こう」
「誰かのために生きて死ぬ。そのためだけに我が心臓はあると知れ」
そうして齎された 断罪の天霆を受け常人ならば発狂してのた打ち回るその激痛を 愉快でたまらないと思いながら
人類史上初めて受けたその断罪の刃に審判者は 身に余るほどの栄誉と感動の坩堝を味わいながら
そうして今まさに自身に対して光刃を振り下ろそうとする奇跡の如き存在を 素晴らしい素晴らしいと讃えながら告げる
「天に轟く雷霆よ、あなたこそが英雄だ」
「いいだろう――そう在る事で誰かの笑顔を守れるならば」
そんな賛辞を受けて鋼の英雄は どこまでも雄々しく貫く。
ここに審判者と天霆の人類史上初となる 星辰奏者同士の死闘は幕を下ろすのだった。
審判者が天霆の火に下るという結果を以て。
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