三本指

トライフィンガー



《爪牙持ち貪る者。これ即ち我が怨敵なり》

《我、我が身を滅ぼすことをも欲する者なり》

《我が身への憎悪を同族に転嫁する愚者なり》
《愚者ゆえに止まる術を知らず》


俺は、生ける亡者を喰らう一羽の(カラス)……
全ての吸血鬼(・・・)よ、震えるがいい。




『Vermilion -Bind of blood-』に登場する、理不尽を塗り固めし最悪の異端者吸血鬼を狩る吸血鬼。自覚なき怪物
約40年前、その所業によって縛血者社会(ディアスポラ)を震撼させた悪名高き「同族殺し」
犯行現場に中指と薬指を欠いた血塗れの手形を残し、それが鳥の足を連想させることからこの名が付いた。

その行為の目的は今なお不明。僅か十年余りの活動期間でアジア、ヨーロッパ、アメリカなどで猛威を振るい、
特にロシア地域においては当時の支配者階級を全滅させ、《鎖輪》を一時的とはいえ壊滅状態にまで追い込んだ。
その被害者はのべ数百名にものぼり、今現在でもその名は縛血者(ブラインド)にとって狩人以上に恐れられる忌み名となっている。

特徴すべきはその殺害の手段。突発的な闘争が主とされる縛血者だが、彼の犯行は非常に合理的かつ計画的
それでいながら目標単体のみならず、その配下や現場に居合わせた者全員を完全殺害するという二面性を持つ。


作中では既に過去の事件として扱われていたが、物語の舞台である21世紀のフォギィボトムで縛血者の連続殺害事件が発生し、現場に血塗れの手形が残されていたことからその再来が疑われている



三本指の真実



俺が好きな奴は、この窮屈な現実に足掻くことでその枠を超えたあいつなんだ……。

人違いだ。超越者(ヴァンパイア)などではない。傷つき、失い、過ちに逃げ込んだだけの……捻くれ者さ。




目的を定め、さらに譲れぬ願いがある。ならば、情を決する以外の未来などありえない。
あったとしても、この男はその可能性を否定するだろう。

俺達は共に、そういう難儀な人種なのだ。思い焦がれたものを裏切ることは、魂も精神も許しはしない。

“こう生きて、そう死にたい”。過去に現在、そして未来。願う思いはただ一つ―――。



贋作

+ そうか……おまえだったのだな

過去からの影にして妄執(あこがれ)を追う男、アイザック・フォレスト




「――よう、ゆっくりとした御着きだな。いい加減……待ちくたびれたぜ」


──そこには、俺のもう一つの過去が待っていた。


「ああ、そうさ。俺が───おまえの、古傷(かこ)



美影と共にあった “人” である記憶との対極。“魔” としての過去が、痛みを伴って胸の奥で再生されたのだ。



過去の豊かな経験を感じさせる知識や、掟にとらわれない自由な考え方を示しては他者の欲望を肯定し、
その性格や役職上理解者の少ないトシローとも、確かな信頼関係を築いてきたバーテンダー・アイザック。
だが、彼こそが連続縛血者(ブラインド)殺害事件の犯人であり、今作の伯爵の因縁に由来しない表面(・・)の事件たるフォギィボトムの陰謀劇における真の黒幕だったのだ。

「──ここから(・・・・)始まるんだぜ。俺とおまえの物語は」


その目的はただ一つ、闇の中で本性を隠し続ける「真の三本指(トライフィンガー)」への挑発。
自分の知る「あの男」が唯一真相を知る本物の三本指ならば、本物(じぶん)が絶対に行わなかった同族喰らい──血族への吸血──を実行している事に対し、必ず何らかの反応を見せるはずだろう、と。
そして、「己は三本指の真相を知る存在である」というメッセージを日常・非日常に織り込み、アイザックは本物の目醒めの時を待ったのである。


「そう、生き生き(・・・・)してたんだ……
あの日のおまえは無敵(・・)だった、最強(・・)という名の幻想だった。
日々を浪費して生きる死肉(ゾンビ)じゃない……生の希求に輝いていたよ。
………くだらない、腐った時間(・・・・・)を過ごす俺と違ってな───



「彷徨と転身」を繰り返し、あらゆる職業に手を染めては、手抜かりなく、それぞれ相応しい人格を演じてきたアイザック。
だが、外から見れば多方面の才に恵まれたとも見える彼の心の中にはいつしか、数多の縛りに触れ過ぎてきたことで
「己は一体何になればいいのか」、その問いに解を出せない……一つに生き方を定められない自己への漠然とした不安が芽生えていた。
……その惑いを心の底に押し込めながら、アイザックは人だった頃と同じく、「縛血者」らしい「縛血者」として振舞い続けていた。

我こそ不死身の怪物(ヴァンパイア)
闇の底で産声を上げた魔人(ノスフェラトゥ)
ひれ伏せ、人間(ヒューマン)───血袋(・・)の分際で頭が高いぞ。

実際彼は、脆弱な人間を気ままに狩り、狩人の脅威も意に介さず、“人を超越した”という小さな誇りを満たしていた。
そう……「三本指」という現実を超越した、真の怪物との邂逅を果たすまでは。


『あれは忘れもしない、1962年の8月……そこには地獄が広がっていた。』


アイザックは「偶然」街でのいざこざをきっかけとして、狩人達と激しい命のやり取りを行う羽目になり……
浅くない傷を負って、回復のために血親達がいる拠点で眠りについていた。
そして―――柩から目覚めた彼の眼に映ったのは。
藍血貴(ブルーブラッド)に手が届きかけていた血親や、年も立場も力も上の同胞達が、たった一人の縛血者(・・・・・・・・・)によって瞬く間に殲滅されてゆく光景であった。
その在り得ない(・・・・・)はずの光景を前に、アイザックは驚愕する。


ふざけろよ。何故だ、何故、何故───
俺よりも格下の縛血者が(・・・・・・・・・・・)遥か格上相手を討ち滅ぼしている(・・・・・・・・・・・・・・・)んだよ!
膂力に速度、身体能力から賜力(ギフト)の出力まで、明らかに縛血者(ブラインド)として見れば標準の域だ。
一方的に同族を屠れるわけがない。返り討ちに遭い、殺されるのがオチだろう。
そうさ、そのはずだ。だって貴様は俺より弱い。

しかし殺戮者はそんなアイザックの思いを嘲笑うかのように、全身から嚇怒の気配を漲らせ、ただ一つの目的を成し遂げんと凶刃を振り翳す。

憎い、憎いぞ貴様ら、生かしておけぬ……故に滅ぼす、逃がしはしない。
───滅びよ、愚かな吸血鬼(ヴァンパイア)


負傷で倒れ込みながら、アイザックはこの怪物こそ、あの“三本指(トライフィンガー)”なのだという事実を知る。
穢らわしい『化物』の群を潰し終え、三本指の痕跡を己の血親に刻み込む男の姿に……
彼は既存の「常識」や過去の「信念」を砕かれ、今まで感じたことのない感動を覚えていた。

なんて恐ろしく───なんて素晴らしい(・・・・・)のか。
こいつは違う(・・)。断じて一介の縛血者(ブラインド)なんかでは在り得ない。
殺すと決めた(・・・)、絶滅させると誓った(・・・)
その決意により、こいつは成った(・・・)。あらゆる理屈を踏み躙る超越者として生まれ変わったのだ。

縛血者(ブラインド)を超えた吸血鬼(ヴァンパイア)に近しい何者か。
縛られてなどいない、俺達とは一線を画した真実の怪物(・・・・・)

意識を失う直前まで、妄執によって限界を突破した偉大なる先駆者(・・・)の姿を、アイザックは己の瞼に焼き付けていった。


「あの夜、俺は生まれ変わった。自分が何者であるか。何者になりたいのか。
その手段も分からないままながら、あの瞬間確かに見つけたのだ……
この命の目指すべき先、その光明を」


己自身の渇望を無自覚にせよ自覚的にせよ、欺き誤魔化してきた男は覚醒した。
半端に器用で、どこにでも馴染めたが故に常に心に浮かんでいた「自分は、何者になればいいのか」という言葉……その問いかけは、もう聞こえない。
軽く薄っぺらい過去(じぶん)を捨て、目標(ヒーロー)そのもの(・・・・)に成るという望みが、アイザック・フォレストの無二の生きる目的となった瞬間であった。

……放浪の時を経て、バー『カサノヴァ』のマスターとなっていたアイザックは、変貌していた三本指の男と出会った。
それでも、幽鬼の如き男の価値感や振る舞いから“異形”たる在り方を認め、私人としてその男と友誼を結びながらも、彼は内なる狂熱を一層昂らせて、前述した行為に及ぶのであった。


今一度、三本指という奇跡の怪物と出会いたい。
その上で、己を含めた縛血者(ブラインド)が持ちえなかったその“視点”を、全存在を喰らってでも自分も見てみたい。

その闘い方は、“本物”のような奇策等も絡めつつも――
根幹にあるのは、実力や常識という現実の壁を、かつて見た“不死身の超越者”なる幻想を信じ抜く事で突破する捨て身のそれ。
三本指(ヒーロー)への憧憬一つを武器に、己の過去を棄て憧れた男の過去を呼び覚ますために、アイザックは夜の闇を駆け抜けてゆく。
複雑なしがらみを抱える“あの男”を追い詰めながら、しかし決して他者には殺させず───
愛か、忠誠か、あるいは他の何か……強いただ一つの感情、信念を持った上で、自分と向き合い()り合ってくれる時を待ち望む。

そのための“準備”に対し、アイザックは何ら苦労と思うことも、躊躇することもない。
縛血者の連続殺害事件も、贋作(アイザック)はあっさり、「お試しで始めた」「ブラフ」に過ぎないと言ってのける。
反面、本物に関わらない行動や、その彼の本気を引き出すための必要な手続にさえ繋がらないと見れば、「つまらない」「面倒臭い」とまるで関心をみせない。
本物が見せる本気の姿や危機や壁を越える姿、その一つ一つに夢見る子供のように興奮し、熱狂する。

……果たして、彼をそこまで狂奔させた三本指とは、いったい何者なのか。



「で、ファン心理として質問がある。こう見えてミーハーなもんでな……
俺の理由はもう話した。今度はおまえ(・・・)の理由を教えてくれ───




真作

+ なあ──判るだろう本物。おまえに憧れて仕方がなかった

“吸血鬼”への復讐にとり憑かれ、人から魔へと堕ちた男、トシロー・カシマ



何かに巻き込まれ、その都度ただ翻弄されているだけ。
選ぶべくもない、全てが与えられた選択肢から選んだに過ぎない。

ならば、俺は今まで……ただの一度でも能動的に道を選べたか?
己の意思で、自らの決意で。
アリヤやクラウス、アイザックのように何者にも覆せぬ鋼鉄の精神で歩めたことが―――


───あった、あるではないか。


決して誇れない過去が。過ちを犯しながらも邁進した最悪の時期が、己への不信と共に存在する。
こんな過去しか、俺は俺だけの決意を持てた時期がないのか………

そう───


「我が名は三本指(トライフィンガー)───穢れて堕ちた、吸血鬼を狩る(・・・・・・)魔鳥なり」



かつて血族社会全体を揺るがし、あらゆる倫理や掟さえ通用しない模倣犯まで生み出した三本指(トライフィンガー)
その正体とは主人公、トシロー・カシマの過去の姿であった。

「猛禽の手形が示すは“八咫烏”。真の方角へ導くという伝承があり、俺はそれをなぞった。
害獣を襲い、腐肉を喰らい、死の穢れを祓う……一羽の鴉とならんとな。
―――そう息巻いていた時間が、かつての俺には存在していたのだ」

フォギィボトムの夜警(ウォッチャー)として、掟を血族に遵守させ、また個人の信条として……
縛血者もヒトに過ぎないと吐き捨て、夜の闇に耽溺する愚を否定してきた彼は、かつて愛の喪失という出来事によって怪物への一歩を踏み出したのだった。


第二次大戦の終戦後も変わることなく……恋人である美影と共に、縛血者として放浪し続けたトシロー。
彼は、熱を持たぬ肉体を抱えながらも、自分と美影は人間であると叫び続け二人だけの世界を守らんとした。
だが、自分達を化物として完全否定する白木の杭(ホワイトパイル)・クラウスとの邂逅と、それによって齎された美影の死、
そして彼女との死を拒む自身の肉体という絶望的な現実を前に、ついにトシローは人間で在ろうとする心を自ら捨てた(・・・)
己を含めた縛血者という存在を、彼女に一層苛酷な運命を強いた元凶と信じ込み、その絶滅(・・)を誓ったのである。


狂った機械のように、唇が呪詛を吐き始める。

「許さんぞ……俺の祈りを砕いた者どもを……俺たちの楽園を犯した者どもを……!」

「俺は……吸血鬼(・・・)を憎む……!」


そして、その後には昏い、昏い嗤いを浮かべた復讐の鬼一人しか残ってはいなかった。
───吸血鬼、滅ぶべし。
倫理や法からの明らかな逸脱。
途方もない企てであり、縛血者を知る者や「常識的な」狩人ならば、嗤い出すか投げ出すであろう目標。
だが、己を救い得る光などこの世にはもう存在しないと信じ込んだトシローは、
化け物どもの血に塗れた路が己にとっての全てだと、躊躇なくこの復讐行に身を投じたのである。


血塗れの手形を残す様にしたのは、初めて同族殺しをした折、反撃により失った薬指と小指を意に介さず攻撃した時に偶然ついた痕の有り様が、化物の仕業に思えたトシローが気に入り、“吸血鬼を殺す異形” と自己を規定する意味も籠め、それ以降もワザと残すようにしたためである。


作中では特に触れられてはいないが、この時期のトシローはクラウスの銀の銃弾を既に心臓に受けた後のはずである。
ギリギリの命のやり取りが続けば続くほど、基礎能力の劣化やコンディションへの悪影響も生まれた可能性が否定できないが……
回想などを見る限り、たとえそれが突如生じたとしても、彼の研ぎ澄まされた殺意が鈍ったとは考えにくい。

本物の同族殺し、三本指――それは、弱者(人間)のように術を手繰り、強者(吸血鬼)のように猛き刃を振るう者
闇の底で、産声を上げた……人と魔の黄昏に在る者
達人の見切りにより全ての攻撃の性質を見極め、吸血鬼の剛力で悉く迎え撃つ
人間としての知性が思い付く限りの手段と、縛血者としての死に難い肉体と鎖輪(ディアスポラ)への侵入のし易さ。
この二つの側面を最大限に活用して、彼は次々と縛血者を手に掛けた。
だが何よりも恐るべきは、アイザックが焦がれ自らも模倣せんとした人間とも縛血者とも並ぶ者無き、“吸血鬼”滅殺への執念である。


総数二十六人の血族の集団、準藍血貴(ブルーブラッド)級の二体を含んでいる――彼らを相手取るに当たっては、力の詳細を把握できた者達のみ(・・)全員が都合よく同一の場所に揃い、それ以外の把握できなかった者達全員が都合良く、その場に居合わせないという状況をただひたすらに待ち続けた(・・・・・)
存在を気取られぬように観察を続け、僅かでも油断、隙を見せれば、即時の殲滅へと移行。確実に逃がさず殺すために。

また、特定対象の優先的な排除の為、毎夜ごとに無作為に選ぶ100種の棺桶(寝床)の中、
その者がたった一つ(・・・・・)を開けるその瞬間まで、彼は吸血もなしにおよそ一カ月もの間柩の中で耐え忍ぶという手段を迷いなく実行した。
そして、実際の排除行動に至っては、年を重ねた者貴い血を引く者が当然(・・)強いという縛血者の基本認識を逆手にとり、
序列の高い者から駆逐することで、より弱い(わかい)者達の意識を恐怖で縛り付け、殲滅していった。

この他、人類社会への牽制・協力を引き出すための手段を断ち切り、
狩人など敵対要因が流入しやすいように集団全体を脆弱化させて攻め落とす事も、彼にとっては常套手段だったようである。*1


強靭な肉体や異能に頼り、昂揚した感情のままに無謀な特攻に奔る。
危険のある行動を避けて経年による強化などに賭けるといった、己の命や生存を第一に置く思考。
三本指(トライフィンガー)という(あざな)に憑かれたトシローは、そういった感情の揺れ動きや命の勘定から解き放たれ、
“絶対に殺し、滅ぼし尽くす” その無尽の執念を以てあらゆる条理を踏み拉く魔物と変貌していた。


「この三本指にかけて誓おう……
この世の全ての吸血鬼を墓の下に埋め尽くすと……」

「俺の墓標は、奴ら全ての屍の上に築くと…………」


───そして悲願を達成するのだろう。心の底から満ち足りた顔で、己の心臓を抉り出すに違いない。



項目冒頭の誓いの言葉にあるようにトシロー自身、己の行為が如何に愚かか理解しながらも、
それでも、決して止まることなどしないという心の芯が形成され……
最後の一人(ブラインド)として、無様な自分自身を滅ぼすという安息にして至福の瞬間(とき)が訪れるまで、それは継続するかに思われた。

何百もの同族を屠ったトシローは、欧州を二分するほどの実力を持ち、最強と目された、バイロンを次なるターゲットと見据え、彼の居城に侵入を試みようとしていた。
そんな折、バイロンの潜伏地である古城が戦闘機による砲撃を受けている状況に出くわす。
トシローが踏み込んだ時に既にバイロンの姿は無く、代わってそこにいたのは───
無残にも四肢を奪われ、その身を血に沈めていた女であった。

そんな無残な様を見ても、トシローは腐肉を喰らう鴉として、人外(ばけもの)に止めを刺すために切っ先を向けるが───

「マ……マ……」

今際の際に母を求める…そんな怪物とは思えぬ姿を見てトシローは驚愕し、ある事に気付いてしまう。

俺は今まで、人間を殺していただけに過ぎなくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

憤怒が、憎悪が忘れさせていた(・・・・・・・)記憶───それが一気に逆流する。

そうだ……
俺の傍にあり続けた美影とは、一体()だったのだ?
俺は、何者(・・)をこの手で慈しみ愛していたのだ?

天地逆転にも等しい衝撃が、俺の心身を打ちのめした。
血管を満たしていた赫く黒い狂熱は、嘘のように何処にもなかった。
血だまりの海で息絶えんとする名も知れぬ女と、白木の杭に貫かれた美影の姿が重なっていく。

「人間……だ……」

嗚咽にも似た声が、震える喉から絞り出される。
気が付けば、血だまりから拾い上げた女を胸へと抱きしめていた。


「人間なのだ……美影も……おまえも……」

「怪物など……吸血鬼など……何処にもいなかった(・・・・・・・・・)のだ……」


深い、深い慚愧の念を抱え……止め処なく流れる血涙が男の頬を濡らしていた―――


……そうして人知れず、三本指という災害にも似た狂気の存在は、縛血者社会の表舞台から姿を消していった。


どこまで行っても逃げられないってことだよ……自分自身の問題(かげ)からは、な。


それでも───アイザックがこう呟いたように、トシローがいずれの道を歩もうとも、
三本指の名はその影を追う者達が齎す惨禍と共に付き纏い続け

しかしまた同時に、数多の縁が予期せぬ因果を引き寄せるように………
アイザックのその憧憬(おもい)は───ある結末にも繋がり得るのだった。


……今まで俺と語り合っていた時間は、やはり偽りだったのか?

相変わらず極端だな、トシロー。全部が全部、1か0で区分けられるはずがないさ………
あの時間はあの時間なりに楽しかった……おまえと語り合ったことが嘘になる訳がない。

裏切りも、敵対も、友情を終わらせる要因じゃない。……そうだろう?


死すらも、終わりにはならないと?

おまえが、俺を忘れずにいてくれる限りは……な。





  • 本物と偽物も執念凄まじかったな... -- 名無しさん (2016-11-25 14:09:18)
  • このラインは最初から「才覚や性能は誤差であり真の強者は精神性を振り切って限界を超越するトンチキ」だったんだな。向こうのラインは「全ては格。強者はただただ強者であり気合や根性で乗り越えられるものではない」というのとは本当に真反対だな。 -- 名無しさん (2018-02-02 21:13:01)
  • ドーモ、ヴァンパイアスレイヤー=サン -- 名無しさん (2018-02-02 22:48:42)
  • ↑2 こっちのラインは向こうのライン程、強者と弱者の格差が開いていないってのが大きいんだろうな。だからこそ気合と根性で覚醒し、取れるだけの手段をなりふり構わず取る側のが結果として勝つと -- 名無しさん (2018-02-03 05:14:58)
  • 三本指(憧れの対象) 伯爵(憧れの対象) ヴァルゼライド(憧れの対象) オルフィレウスもまあ、憧れる部分はあるかあ。 -- 名無しさん (2018-02-06 10:54:10)
  • ↑ゼファーさんも(本人にとっては不本意だが)憧れの対象にされている。 -- 名無しさん (2018-02-06 10:55:19)
  • 憧れの対象に成りえないのはウラヌスみたいなタイプだと思う。 -- 名無しさん (2018-02-06 10:57:11)
  • ↑何ていうか、尊さ?的なモノが足りてないよな。そういうのがないと憧れの対象にはならないんじゃないか、って気がする。 -- 名無しさん (2018-03-14 19:31:46)
  • ↑メルクリウスは反骨精神は抱けど憧れは抱かないな。トシローさんは反骨精神抱いている奴もいないわけじゃないが・・・・・・ -- 名無しさん (2018-03-14 22:39:53)
  • ↑アリヤ、ゴドフリ、モーガンと反骨心が殆どな気がするのだが・・・・・・ -- 名無しさん (2018-03-14 22:40:49)
  • アイザックをして「色んな手合いから嫌われる」言われてるからね。仕方ないね。 -- 名無しさん (2018-03-14 22:42:12)
  • ニートとトシローは割と正鵠を射ている発言系だがウラヌスはアホの子だから憧れはもとより反骨心を抱く程じゃないな。 -- 名無しさん (2018-03-14 22:43:54)
  • ↑ウラヌスに対しての対応:「なんだ、その程度なのか」「お前、全然大した事ないな」 -- 名無しさん (2018-03-14 22:45:11)
  • なんだこの妄執と荒唐無稽な殲滅の決意。どこぞのニンジャ殺す者じゃないか -- 名無しさん (2018-04-15 21:50:32)
  • 文章では中指と薬指なんだけど、画像では薬指と小指がないように見えた -- 名無しさん (2018-05-15 19:30:52)
  • 本物さんがなった過程を見るかぎり、三本指って所謂無敵な人なのか? -- 名無しさん (2019-11-26 15:46:49)
  • 三本指vs三本指は熱すぎませんかね -- 名無しさん (2020-02-07 18:41:18)
  • 正田先生の作風が「変態が真人間に更生する物語」なのに対して昏式・高濱先生のは「真人間(或いはその価値観を肯定する人間)と変態の闘いを描く物語」ってイメージがある。 -- 名無しさん (2020-04-04 13:41:34)
  • ↑どっちも変態対変態で、最終的に主人公が真人間になるイメージだな、俺は -- 名無しさん (2020-04-04 13:50:49)
  • おいアンヌの家族殺害の犯人よ、三本指名乗るならこれ位やってみせろよ -- 名無しさん (2020-08-24 10:51:38)
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最終更新:2023年08月09日 14:03

*1 三本指の「常識、常道の穴から攻め滅ぼす」というやり方に関しては、本編アリヤ√のクラウスも、有力な藍血貴かつ経済面の支配者、そして中立派であったギャラハッドを最初に屠っていることが注目される。これにより彼は、下手人を同じ種族と誤認したままの藍血貴の野心を刺激しつつ、“力”の意識に縛られた下位の縛血者を理解不能の恐怖に叩きこんだ。加えて、重要な役職に座っていた藍血貴の代役を補充し早急に組織の硬直を防がねばならぬにも関わらず、統治者らは経年という傲慢や旧来からの縄張り意識から新入りを阻害するであろう。そうしてクラウスは鎖輪の上層部の動きを読み切り、正攻法では突破できない城に、血の力を信奉する統治層を狙い通り「押し込めた」。そのままカルパチアまで到達した彼は、内部に気取られずに奇襲のための仕込みを完成させ、見事に鎖輪に致命傷を与えた