レインは闇の代行者として、ヘリオス達の 灼烈恒星を滅奏の力で連日にわたって封印し続ける。
だが、意志力により際限なく強化される烈奏の 三位一体の陣により、地上への再度の解放を避けることは困難となっていた。
やがて来る烈奏の解放を前に、
天墜せよ、我が守護星。鋼の冥星で終滅させろ
ああ、嘆きを奏でる冥王よ。灰塵の下へどうか我が身を導いて
太陽に溶かされて燃え尽きた残骸の灰であろうとも、思いは何も色あせていないから
悠久の常春と、実りの季節を、過去と共に奏でよう
灰塵さえも慟哭させて、奏でる渚は柘榴を齧る
だからお願い、月天女――あなたの弓で夜天の輝冠月を射抜いて欲しい。
私は既に闇の住人、死界の底に留まりたいから。
蒼褪めて血の通わぬ死人の躯を抱えることで、天地奈落を流離う果てに過去の詩を奏でよう。
渚に雨の降るごとく、我が心にも涙ふる
かくも心に滲み入るこの悲しみは何やらん?いざ慟哭せよ死想冥月、光を砕き破壊しろ
是非も無し――ならばこそ、焦がれろ輝冠月。死想冥月の判決は下された。月天女の魔弓よ、天を穿て。輝く銀河を裁くのだ
――――私の罪は、いま此処に
「いいさ、縊り殺してやる。誰一人として逃がさない。おまえ達全員を――必ず、この手で」
輝冠月として焦がれた彼を守るべく、死想冥月の裁きを下し、月天女の魔弓を以て狩られ穿たれ死ぬがいい――
レイン・ペルセフォネ--否、ナギサ・奏・アマツは固く必滅を誓うのであった。
かくして降臨した光の奴隷たちは、議事堂内に秘されていた次元相転移式核融合炉を目的地として、意図するともせざるとも関係なく地上へ甚大な被害を齎してゆく。
審判者と邪竜が各々勝手に思い描いた聖戦の前の、“因果の清算”に突入してゆく一方で、救世主は揺らがずいち早く次元炉へと到達するも、そこには互いに最大の宿敵と認めた死想冥月が待ち構えていた。
レインは刃を交える前に、ヘリオスという新たな極晃星の担い手を正しく把握するため、そして大切な彼の存在が何か良い影響を与えてくれたのではないかという淡い期待を込め、その行動目的について問いを投げかける。
それに対し返ってきたのは……
「俺は、訊ねてみたいのだ。この新西暦で今も生きているすべての地球人類に。
彼らの願う明日の形を知ることで、より良い未来を目指したい」
「――――は?」
次元炉を用いて地球と 灼烈恒星を接続、全人類の意識がヘリオスと直結した状態をつくった後、 聖戦にまつわるあらゆる情報を平等に伝達した上で、救うべき衆生の祈りを聞き届け、常時救世主との対話・議論を行えるように世界法則を作り替えるという前代未聞の答であった。
この答えにレインは、落胆と怒りに肩を震わせながら、
「やはり問題あるだろうか?」
「大有りなんだよ、この馬鹿が」
「文句が長くなりそうだから、まず結論から言ってやる」
「おまえの思いを人々の意識に直接伝えるだって? 冗談ぬかせ。その瞬間出来上がるのは死体の山だ。」
「いい加減に自覚しろ、おまえの理想は叶わない。
救世主と繋がって誰が無事にいられるかァッ!」
お前の望む世界は、お前が救いたいという人間の大半の心を容赦なく壊す、弱く情けない現実は“こうあらねばならない”という理想を直視できないんだと、
闇の悲哀を知る者として吼え、殺意の刃とともに救世主に立ち向かうのだった。
死想冥月と煌翼の激突は、かつての冥王と神星との戦いにも劣らぬ熾烈な様相を呈し、
優れた干渉性と拡散性を武器にレインは敵手を反粒子で包囲し、ヘリオスは防御を捨てて収束性と技術を極めた光熱の剣を以て突破を図った。
反粒子の弾幕をかいくぐり、肉薄するヘリオス。
しかし、レインは特異点において得た天奏者の残滓を利用し、相性差に加え出力面でも強化を果たしたのであった。
追い詰められるヘリオスは食い下がらんと吼えるも…
「否、否だ! こんなものでまだ俺は―――」
「ああ、まだだ。まだまだまだまだ……まだ足らない。
おまえを滅ぼし尽くすのに、こんな力で足りるものかァァッ!」
光と闇、どちらの力にも手をかけていたレインの覚悟が上を行き、斬首の刃を見事喰らわせ軍配は彼女に上がったはず……
―――否。
「いいや、まだだ。
すべては“勝利”を掴むために、今こそ俺は創世の火を掲げよう!」
今こそ光の後継者は、死の現実すら超越し“勝利のその先”を知るべく雄々しく立ち上がるのだ。
気合と根性によってついに因果法則すら屈服させられた光景を前にレインは呆然と立ち尽くすしかなく…
さらに今まで完全な力を封じてきた 灼烈恒星も、集めた祈りにより世界法則を改変するため、最後の脈動を始めた。
一刻の猶予もない状況であったが、最強最高の 太陽神はもはや今の現実では捉えられない。
蒼黒の雨を一粒残さず切り払われた。
壁のような瘴気の波濤を真っ向から蹴り砕かれた。
空を断ち乱れ舞う黒刃さえ、気合を込めた頭突きによって叩き潰される――何が何だかもう分からない。
それら敵手の攻撃を迎撃した際の傷さえ、心一つで“なかったこと”にされるという悪夢のような事態に、
レインはそれでもアッシュを守るべく、否定の言葉を叫びながらヘリオスに立ち向かっていった。
しかしその愛しい人に向けての想いに、ヘリオスは容赦なく正論の刃を突き立てる。
「それに、先ほどから守る守るといったいなんのつもりでいる?
俺やおまえがいなければ、奴は立てないような男だとでも思っているのか?
冗談も休み休み言うがいい」
「それ、は……」
「自覚しろ。依存しているのは貴様の方だ。
奴はおまえが必要とされるための道具では断じてない――俺の比翼を侮るなッ!」
その言葉が、最も大事にしてきたアッシュへの想いを上回るものと感じてしまったがゆえに
「――――黙れぇぇぇッ!」
レインは 魂の底から絶叫をあげ、かつての冥王の如く肉体を素粒子化しての特攻を仕掛けるも、光の後継者たる煌翼には通用せず、
覚悟も、勇気も、想いも、力もーーすべて、すべて。
あらゆるものを木っ端微塵に破壊されて、情け容赦なく超えられて。
何もかもが格上だと示されて、特異点へと堕ちていく。
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