謎めいた二人の男と女……主人公が青臭い悩みに煩悶する一方、少しだけ仲を深めた、そんな彼らの間の一幕。
そして、最終ルートで密に描かれる切の慕情が、僅かに顔を覗かせた瞬間でもある。
エリザベータ√、ギアーズとの戦闘で負った損傷を自室で癒す礼。そんな彼の元に、いつものように無表情の切が訪れる。
敵拠点に囚われていた凌駕が帰還したと伝える彼女に、礼は微笑を浮かべ「よかった」と冷静な反応を示す。
そんな彼の反応に切は不思議がるも、「背中を預け合う対等な相手に対し過剰な心配はむしろ侮辱。彼ならきっと戻ってくると信じていた」
礼は、より力強さを増したようにも思える、親友への信頼の言葉を語る。
そうして、他者には必要以上に踏み込まない切にしては珍しく、酒を交えて話を続けようとする。
二人の話題は、変わらず「秋月凌駕」の事について。
礼の目に「珍しく機嫌のよさそう」に見えたその女は、先程確かめてきた凌駕の“変化”に関して、
「まあ、ね。若者の成長過程に立ち会うっていうのも、満更悪いものじゃないなと思ったり」
「一晩見ない間に、だいぶ面白味のある男になってたよ。揉んだり揉まれたり、知らぬ間に色々あったと見える」
詳細は伏せつつも、彼女らしい表現を用いて凌駕の変化を語る切。
一通り語り終えた彼女は、「自分はそういう事に共感する人間でもないと感じていたんだけど……」と何処か自嘲めいた言葉を残すも、
礼は穏やかに
「幾つもの顔を使い分け、時には己の本質さえ分からなくなるのが人じゃないのかい?」
「本当の君はもしかしたら、そういう人間なのかもしれないよ」と、柔らかな言葉で諭す。
そして、放浪の日々では否定的に考えてきた己の記憶喪失も、むしろ
「これから先も自分を見失う事はなくなるだろう」と、
いつの間に生まれていたのか……自虐の中にも自信をうかがわせて、前向きな姿を見せるのだった。
「知らない間に成長してたのは、どうやら秋月クンだけじゃなかったみたいだね」
そんな、自分の境遇を受け止め、他者さえ慮る余裕を見せる礼に……口元を綻ばせた切は問う。
「ふむ、男を手っ取り早く成長させるのは女だっていうのは、彼を見ていて判ったけど……」
「じゃあ、キミの場合はどうなのかな……?」
試すような切の言葉をはぐらかすように……礼は曖昧な微笑を浮かべるだけ。
一本取られたか、というように切がグラスを高く掲げた。
「……なんだか転がされてる気分だよ。もしかして、記憶を失う前はジゴロだったり?」
「……いや。素直になるのが照れ臭いだけの、単なる野暮な男だよ」
少しだけ真剣味を帯びた眼差しが、捉え所のない切の視線と束の間絡んだ。
過去を失くした男と、紫煙のような女。
粛かな夜は、酒精の香りと共に更けていくのだった―――
- ……凌駕君も大分高身長だけど礼さんも相当に高いよな…共通ルートでも言われてたけどもしも学校に教師として赴任してきたら物腰も相俟って黄色い歓声を浴びそうではある -- 名無しさん (2020-05-18 10:10:34)
- しかもマジモンの天才だから準備時間置けばどの教科でも満遍なくこなせそう -- 名無しさん (2020-05-18 10:13:26)
最終更新:2021年12月21日 23:13