真祖



『双血の墓碑銘』の用語。
作中世界における吸血種族の神、十二の使徒に《洗礼》を施した始まりの“不死者”

吸血種社会における伝承において、約二千年の昔《真祖》は滅びに瀕した人類の前に現れて、
《彼》は自らが選んだ十二の使徒達へ自らの不死の力を分け与え、眷属を生み出す事で滅びに抗する力を与えたという。
彼は不死の力の源であり、すべての眷属達の上位者。ゆえにその血の縛りは全ての血族を支配する、絶対的な力を持つ。
しかしその上位者の存在を疎んだ、傲慢なる最後の使徒――ユダ・イスカリオテは、上位者に抗えぬはずの縛りを超え《真祖》を殺害……
ユダ本人は他の十一の使徒により討伐されるも、以降“神殺し”の忌むべき血統としてユダの氏族は徹底的な迫害を受ける事となる。

その後の歴史において、十二の使徒の血統は裏切りのユダの血統を除いて世界各地へと分かれていき、西洋の主要な国の指導者層、その中核を為していった。
さらに文明が進歩するにつれ、非血族の地域に対して彼らは宗教の教典等といった形で真祖や十二使徒の歴史をまとめ、
真祖が与えた不死(奇跡)の力の素晴らしさや黎明の使徒達の活動を伝えていくようになる。
そうして彼らは民草の心に影響を及ぼしつつ、人を超えた武力を行使しながら、自国の血の勢力を強める事に腐心していく。
――その一方で、血族社会の間では迫害されてきたユダ氏族の生き残り達が、自分達が殺した神の代わりを創造し、他の眷属を支配しようとしているという定かならぬ噂が広がりつつあった。

そして……物語の舞台となる幕末の日本において、英国血族とその配下となる薩摩藩、
新選組を自らの手駒に変え《攘夷》を狙う伊東、ユダ氏族の秘密結社である《同志会》、そして坂本龍馬―――
多くの勢力が《真祖》に匹敵する力の獲得を目指して、という一人の少女を追い求め、血で血を洗う争いを繰り広げる。



真祖の正体と、“裏切り”の真相


第三巻において明かされた、真祖の正体――それは人類という種が想像し、畏れ敬ってきた“死”という概念の結晶。
“死を想う”という集合無意識――地上で生命の輝きを増す人類種にとっての“影”が、自我を得て活動し始めた存在なのだった。


人の精神、その想像力は自らの生の終わりへと思いを馳せ、いつか必ず訪れる滅びの使者として死を何よりも畏れた。
それと同時に人は死を、いつもそばに立つ隣人として偲び、絶えず敬意を払ってきた。
生命を持つ人類種が地上へ満ちるにつれ、そこに背負った死という分かちがたい“影”は時と共にその存在強度を増し……遂にその存在を確立するに至った。
《彼》は死という概念の化身であるが故に、眼に見える肉体を幾度滅ぼされようと、決して死なない(・・・・)

もし《彼》が真に死ぬ時があるとすれば、それは彼を生んだ人類種そのものが一人残らず滅び去るその時だけである
そして……人類が黒死の病によって次々とその数を失っていった未曾有の危機に対して、
真祖は自らの運命共同体であるすべての人類を救う為に、《洗礼》を通して自らの不死の属性を与え……致死の伝染病に抗う力を齎していった。

そうした経緯を経て生み出された黎明の十二使徒は、真祖と共に人類を救済へと導く――はずだった。
だが、本来限りある生命であった彼らの精神は、不死の因子を与えられた事により変質。
その瞳は、血族でない者を救いの手を差し伸べるべき同胞ではなく――力を持たぬ下位者として見下し
始源の存在である真祖をも、尽きぬ欲望や野心を縛り付ける、最大の邪魔者として映すようになっていた

欲望に取り憑かれた十一の使徒達は流言飛語を用いて、人類の危機感や敵対心を煽り立て――
人類種に手出しできない真祖は、十字架上で杭を打たれ、全ての血を流し尽くした果てに肉体を灰に変えられた
さらに滅びない真祖を無力化する為、彼らはさらに手段を徹底した
流された彼の血を、とある死んだばかりの少女の骸に流し込む事で、何もない虚無の精神世界へと真祖の意識を溶かし尽くしていった。
そして極めつけに十一の使徒は、世界から存在を抹消した真祖を神格化……自分達の世界支配に権威を与える《神》として彼を祀り上げたのだ
自分達の正当性を示してくれる、生贄と共に。すなわち真祖殺しに最後まで反対した、十二番目の使徒・ユダを裏切り者へと貶めて。
眷属達共々陥れられたユダは、徹底的にその躰を破壊された末に亡骸さえも燃やし尽くされ、完全なる滅びを与えられた。

かくして、『救い手としての』真祖を神として、その『正統な担い手たる』十一の使徒の末裔達は、自分達のその後の永遠の繁栄を疑うことはなかった。
墓の下に、二つの大きな過ちが埋もれていたことにも気づかずに
一つは、永遠に朽ちぬまま保たれた、少女の柩。そこに確かに真祖は封じられているが、それはあくまで封じているだけ(・・・・・・・)に過ぎないという事
《……永き時を経て、それを解放する可能性に目をつけた者達は様々な形で《柩》へと干渉を始める。
そしてもう一つは、汚名を着せ完全に殺し尽くしたはずの最後の使徒が、死を越えた先の墓標を打ち立て、最悪の同族殺戮者へと変貌していた事だった



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最終更新:2021年12月18日 15:54