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ハートのラビリンス 3つめの試練「白きモノの言葉」 (2015年 2月15日)
(画像準備中)
扉に入ったとたん、周囲の景色が一変した。
入った扉は、跡形も無く消えている。
そこは、まるで花畑の…蜃気楼?
空と花畑が霞みがかって見える、なんとも不思議な空間に、二人は浮いていた。
目の前に、白い人型のシルエットがある。
とても小さい人型…。
白く淡く輝いていて、それが人型であることしかわからない。
白いもの:ハートを作りに来てくださったんですね。
ありがとうございます。
声は、反響しているのか、それとも脳内に直接響いているのか。
不思議な響きだが、「子供」の声であることだけはわかる。
白いもの:私は、数年前に生まれました。
でも、ハートがひとつも無かったので、また天界へ戻ってしまいました。
今年は、私のようなことに誰もならないように…。
だから、あなたたちに感謝します。
小さいけど、花束をどうぞ。
野の花を摘んだだけのような、素朴で小さなブーケがひとつ、小さい両手に包まれて、二人の前に差し出されている。
アッシュリン:(なにやら神聖な気持ちになって、花畑に膝をつき、ブーケを受け取る)
ありがとう、純粋な小さい人。
あなたが幸せにまた地上に降りれることを、心から願っているよ(にっこりと笑って)
僕からも、あなたに贈り物をするね。ささやかなものだけれども。
そう言って、アッシュリンは青い炎を生み出し、薔薇の形にして渡した。
すぐに消えてしまうが、ぬくもりは残り伝わるだろう。
アッシュリン:青い薔薇を胸に宿すように、あなたの想いが叶いますように…。
白いもの:とても、あたたかい…。
ありがとうございます…。
私は、地上でとても悲しいことがあったので、かみさまの下で、浄化を受けています。
少し長い時間、清めて頂かないと、転生の輪に戻れないそうです。
浄化とともに、記憶も失われていきます。
悲しいこと、が、なんてあったか、私は覚えていません。
言葉は、本来はうまく話せなかったと思いますが、今はかみさまの下にいるので、恩恵を受けています。
私は、まだ、願いはありません。
まだ、かたちになっていないから。
まだ、なにものにもなれないから。
でも、私は、悲しいのだと思います。
よくわからないけれど、悲しいのだと思います。
もし、私に願いがあるとすれば、私のようになってほしくない、それだけ。
どうしてそう思うのかも、もう、思い出せません。
オルフェウス:「悲しいこと」があったのですか…。
………。
白く清らかな、いつかまた生まれてくる貴方。
きっと貴方は、とても優しい心を持っていたのでしょう。
悲しいことがあったのに、貴方は、他者の幸せを願っている…。
貴方に出会えた奇跡に感謝を。
そして、私の愛しき人に、美しい花束をありがとう。
オルフェウスふわふわと空を飛んで「白きもの」に近づき、額にキスをした。
触れたかどうか、その感覚も曖昧だったが、オルフェウスの思いは伝わったようだ。
白きもの:これも、あたたかい…。
ありがとうございます…。
アッシュリン:君の悲しい心が、癒され、次の生では、幸福に包まれますように……。
僕も、そうして愛しいシャスも、君のようにはならないって、約束するよ。確信を持って。
なんでだと思う?
僕は心から彼を愛し、彼は僕を愛してくれている。
真の愛は、剣であり、盾であるんだ。
約束する……。
そうしてあなたも、そのような愛に包まれることを、祈っている…。(そっと指を絡ませ、指切りをしようとする)
指が絡んだ感覚はしなかったが、手の先が触れあったような、雲に触れたような…不思議な感触だった。
白きものは、表情はない。シルエットだけだ。
それでも、嬉しさが空間に流れゆくのがわかる。
白きもの:とても、嬉しいです。
はやく、また、生まれたい。
あなたがたのような方に、会いに、降りたい。
こんどは、あいされたい…。
たくさん、ありがとうございます。
お花を渡したかっただけ…。なのに。
扉は、すぐそこ。かすんで見えにくいけど、私の後ろにあります。
オルフェウス:……。
シュレー。
歌いませんか?
この子のために、二人で。
音色と声を、捧げたいのです。
アッシュリン:うん、僕もそうしたいって思った! 心から……。
でも、ぱっと歌が……。
思いつくけど、これでいいのかな…??
誰もが知ってる、お誕生日おめでとうの、ハッピーバースディの歌とかどう?
名前はないとさみしいから、白い人だから、ブランシュとかに、してさ。(少し傲慢だろうかと、自信なさそうにはにかみながら)
オルフェウス:いいですね、賛成です(にこり)
誰もが知っている歌だから、きっと、また生を受けた時、耳にするでしょう。
私達のことを覚えていなくても、幸せを願う想いだけは、残るように…。
ハープを取り出し、少し音ならしをしから、アッシュの準備を伺う。
そして、軽やかにハープを爪弾く。
練習したのだろうか、ハープの音色も前より上達している。
オルフェウス:
Happy birthday to you,
Happy birthday to you,
Happy birthday, dear blanche,
Happy birthday to you…
アッシュリンも、オルフェウスの声に合わせて、歌声を重ねる。
忘れられてしまうだろう、ささやかな誕生を祝う歌。
それでも、心を込めて歌った。
アッシュリン:
Happy birthday to you,
Happy birthday to you,
Happy birthday, dear blanche,
Happy birthday to you…
アッシュリンは、終止和音の後にささやかな拍手をして、にっこりと笑った。
オルフェウスも拍手を贈った。
オルフェウスは、いったん手を離したハープに指を戻し、別の歌を歌い始めた。
それもまた、誕生の喜びの歌。
しかし、目の前の「白きもの」だけではなく、隣にいる愛しきに人にも宛てているような…。
http://www.kasi-time.com/item-38161.html
アッシュリンは、オルフェウスの歌に、歌詞に、歌声に、感動したように目を潤ませているようだ。
演奏が終わった後、オルフェウスにも精一杯の拍手を贈った。
アッシュリン:ありがとう、シャス……。(言葉にならず、ただそれだけの言葉がこぼれた)
オルフェウス:(白きものとアッシュ、二人にそれぞれ一礼)
いつかまた会えることを願います、blanche。
そしたら、いっぱい愛を伝えますよ。
私も、約束しますから。(にこり)
アッシュリン:君のこと、忘れないよ! blanche、覚えているから。
オルフェウス:…さあ、行きましょう。シュレー。
私達の未来へ。
出口の扉へ…。
オルフェウスはアッシュリンに微笑み、手をさしのべた。
オルフェウスの手をしっかりと取って、アッシュリンは出口の扉を開けた。
その前に、オルフェウスにだけ聞こえる声で囁いた。
アッシュリン:ありがとう、シャス……。
あのさ、ここに来て、よかった……。心からね。
そのあとに続く最後の言葉は、扉を開ける音に重なって、誰も聞き取れなかったかもしれない。
しかし、祈りにも似た、神聖な五文字の言葉を唇に灯すのだけはわかったことだろう。