7・236・1

「樹ぃぃぃぃっ!」
「わぁっ!?お、お姉ちゃん、どうしたの?」
「樹が、樹がグレちゃったのよぉーっ!」
「ええ!?私がグレた!?」

 勇者部の部室に入った瞬間、私に抱き着きながらお姉ちゃんが告げた衝撃の事実。
 私がグレてしまったなんて、ちっとも知らなかった。お姉ちゃんをこんな風に悲しませるなんて、私はなんてことを。
 ………あれ?

「えっと、お姉ちゃん?私っていつの間に不良になったの?」
「樹ちゃん、ゲームの話よ」

 そう言って東郷先輩がノートパソコンの画面をこちらに向ける。
 そこには私とよく似た女の子が煙草を口に咥えて、背中に“哀人形死亡”と書かれた改造制服を着てヤンキー座りをしていた。

「元は大赦が勇者の行動、思考パターンのトレスの為に作った再現プログラムなんだよ~。
 リアルな人生ゲームって感じかなー。人間の感情とかは複雑すぎて結局再現しきれなかったんだけどねー」
「そのっちが祀られてた頃、やることも無いから破棄されかけていたのを受け取ってたそうなの。
 それで、とりあえず情報が揃っている勇者部の面々で遊んでみていたんだけど」
「何回やっても…何回やっても樹が真っ直ぐ育ってくれないよぉぉ…」

 確かに、これはちょっと酷いかも…けどあくまでゲームなんだし、そこまで落ち込むことも無いんじゃないだろうか。

「風先輩、樹ちゃんのデータを相当詳しく入れてたみたいだから、思い入れも強いんだと思うよ?
 小学校の入学イベントとか泣いてたし」
「思い込み激しすぎだよぉ…お姉ちゃん、ほら、しっかりして。
 私が変な方向に行っちゃったら、お姉ちゃんがお説教すればいいんだよ」
「それよ!姉の愛の鞭を見せてくれる!」

 あっという間に復活したお姉ちゃんが、ぎこちない動作でカチカチとマウスを動かす。
 画面中央でひたすらこっちを睨んでいる私(似のキャラ)の隣に、お姉ちゃんそっくりの女の子が現れた。

「なんか、こ○亀にこんな話あったね~」
「園子、あんた時々年齢不詳よね。まあいいわ。行け、アタシの分身!妹を更生させるのよ!」

 ゲームはイマイチ解らないけど、夢中になっているお姉ちゃんはちょっと可愛いと思う。
 隣に座って一緒に画面を見ていると、一緒に遊んだ子供の頃を思い出して何だか懐かしくなった。

『イツキ!グレるなんて、お姉ちゃんは許さないわよ!お仕置きされたくなかったら、いい子になりなさい!』
『ふぅん…お仕置きってどんなことするの?こんなこと?』
『きゃっ!ちょ、ちょっとどこ触って!』
『ずっとこんなことしたいと思う気持ちを隠して、良い子ちゃんを演じて来たんだよ?
 もう我慢しないんだから…お姉ちゃんも、一緒に堕ちようよ?』
『だ、ダメ、姉妹同士で…やぁ…///』

 ―――懐かしい気分に浸っていたはずが、あっという間に画面の中が大惨事になった。
 本当にこれ、勇者の再現の為に作られたゲームなの!?

「…ちょっと、改造しちゃったけどねー」
「そのっち、言うのが遅いわ」
「い、樹ちゃん、見ちゃダメだよ!私たち、まだ中学生なんだからね!風先輩も!」

 友奈さんが必死に私たちの視界を隠そうと頑張るけど、2人分を遮るには手が足りない。
 画面の中では枕に顔を埋めて涙するお姉ちゃん(似のキャラ)の横で、私(似のキャラ)がベッドで悠々と煙草をふかしていた。

「………」
「お、お姉ちゃん?ゲームだからね!?私、あんなことしたいなんて思って………無いからね!」
「沈黙は正直だねー」

 園子さんの言葉を懸命に無視しながら、私は完全に黙り込んでしまったお姉ちゃんの袖を一生懸命引っ張る。

「現実のお姉ちゃんは立派だよ!私をこんなに立派に支えてくれたもん!ねえ、こっちをちゃんと見て!」
「…樹」
「私はお姉ちゃんの妹だよ!世界で一番素敵なお姉ちゃんの妹!悪い道になんて絶対に走ったりしないから!」
「樹ぃ…やっぱり、本物が一番よー!」

 お姉ちゃんに再び抱き着かれて、私はひっくり返りそうになりながらもその温もりを全身で感じる。
 どれだけ精巧なプログラムでも、私たちの絆は再現なんてできない。力強くそう確信しながら、私はお姉ちゃんの背中を撫でる。
 ―――でも、ちょっとだけ興味があるかも。いやいや、いけないけない!
 黒い誘惑を振り払いながら、私はお姉ちゃんが落ち着くまで大きな体を抱きしめいてた。


おまけ

「―――実際のところ、あの結果はご両親を設定してないからだと思うわ」
「ああ…うっかり忘れそうになるけど、風先輩が樹ちゃんのお世話してるのって、この2年くらいだもんね」
「一番大切な関係も、そこに至るまでは色んな人に支えられてるってことだね」
「園子ちゃんが言うと説得力あるなあ」
「ねー園子。東郷でプレイするとこっちの選択や指示を無視してお隣の女の子と仲良くしようとするんだけど」
「仕様だねー」
「…友奈でプレイすると、何回バッドエンド迎えても根性で復活してくるんだけど」
「それは仕様ね」
「いや、なんで東郷が答えるの?」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年03月07日 08:20