『どこかにいる筈だ! 探せ!』
『我がやろう。防御は任せる!』
『応ッ!』
『ここは我等に任せよ!』
『好き勝手に世界を手遊びにしおって! その報いを受けるがいい!』
『案ずるな、ここは汝の拠点であるのだろう?』
『我等が好きなようにさせん。安心するがいい』
「ヴェッ?」
『こ、これ! 無茶をするでない!』
『いるぞ! だが場所が特定出来ぬ!』
『捕捉出来るかの?』
『分からぬ。間に合うかもしれんが間に合わないかもしれぬ』
『ふむ。では我が結界を敷く。逃げられるにしても、追えるようにしておこう』
『頼む!』
『どうだ?』
『場所は分からぬ。だが、いる。間違いなく』
『ならば探しましょう! 兄上?』
『待て。無闇に動いても時間を無駄にするだけ。熟慮せよ』
『しかし時を与えてしまっては好機を失いますぞ?』
『焦るな。必ず、見付かると信じよ』
「一体、何がいるんです?」
『神だよ。但しこの世界を改変し続ける神であるが』
『我等を封じし存在でもあるな』
『調和を敢えて崩し、己の思うがままに世界を弄んだ罪は重い』
『償って貰わねばならん』
『何よりもその真意を問い質さねばならぬ』
「何の神なんです?」
『神々を束ねる主神とも言える者達だよ。かつては我が主として君臨していたのだがな』
プロメテウスの言葉をそのまま咀嚼すると?
あのゼウスがここにいるって事になる!
「もしかして、ゼウス?」
『迂闊にその名を口にしてはならん! 言霊だけで場所を悟られかねんぞ!』
『いや、待て。信仰に根差した言葉ではないのだ。この者であれば平気であろう』
『それに神殺しでもある。どうにかしたくとも逡巡するのが道理』
『確かに。これでは近寄って来る事もせぬであろうかな?』
『膠着するのは好ましくない。捕捉は出来ぬのか?』
『無理だ。動いてくれたら追えるとは思うが』
『向こうが動けば、分かるか?』
『うむ。だがここは森だ。派手な手を使うのは好ましくない』
『そうだな。この者が難儀するであろうしな』
「えっと、確認したいのですが。派手な手があると?」
『ある。だが、この森を大いに破壊する事になるであろうな。例えばこれだ』
プロメテウスが大剣とは別に何かを持っている。
何かの植物の茎のようなのだが。
「それは?」
『原初の火を運ぶのに使った物だ。一度、燃え始めたら神であっても消すのは容易ではない』
『ここの森が焼け野原になるであろうな』
『だが結界も永遠に続ける訳にも行くまい。何か手立てはあるか?』
『少し、待て。手があるやもしれぬ』
カーリー マトリカス登場
『多少、乱暴であるが揺さぶってみるといい』
『どうやって?』
『それは我がやろう。これを機に楔を打ち込むべきであろう』
『或いは枷を嵌める事だな』
『然りだ。不滅の神の身である事を呪うようにせねばならぬ』
『兄上が受けた苦痛を幾層倍にしてやる!』
『マトリカスが森の外縁から包囲の輪を狭めて行く事になる。逃げ道は無い』
『どう動くか、予見出来るか?』
『相手もまた神、何らかの反応を示す事であろうな』
『抵抗するであろうか?』
『恐らくは。だがそれが狙いでもある。居場所を示す事になる』
センス・マジックで見ても魔力の欠片すら感じ取れない。
「一体、何を?」
『多重に結界を敷いているのだ』
『マトリカス達は我の分身も同様、個々で見ればその力に欠ける所は多い』
『だが互いの力を組み直す事で多様な力を発揮する』
『今は相克をも利用し結界と為している』
『見るがいい、その兆候は既に現れている』
森の木々が風に揺れてザワザワと騒がしくなっていた。
『どうかな?』
『いる。もう少し、続けてくれ。場所を特定しよう』
『確実に、いる! ああ、我が夫にして主よ! 今、血を啜りに行きましょう!』
『不死なる身に幸いあれ。信仰を一身に受ける祝福を呪いとしましょう』
「そもそも何故、貴方達のような神々が相争うのです?」
『意図して歪みを生じさせるか否か。争点はそこに集約されるであろうな』
『考えてもみよ。我等が如き者には各々、役目がある。それは世界の中で調和すべきなのだが』
『異なる世界同士が重なって存在する為にそもそも調和する事など有り得ない』
『どうしても歪みが生じるのだ! しかもそれは余りにも巨大で神ですら抑制するのは難しい』
『例えば太陽だ』
『その太陽を司る神々が集うとどうなると思う?』
「えっと」
「あの、ホルス神はどうされたので?」
『我等とは決別している』
『太陽を司る神の一翼が欠けたが故に』
『そして別の太陽神との間に新たな相克を生んでいる。その神の名を汝は知っているであろう?』
「え?」
『我を排除する事でこの世界を歪みから正そうとした女神。我にとっては主神でもある』
「あ!」
思兼神にとっての主神、そして女神。
天照大神か!
『構図は異なるが、相克を避ける事で歪みに一定の流れを作ろうとした者もいたな』
『見ているな? 太陽神アポロン!』
「え?」
『盗み聞きに覗きとはな。主神の悪しき面を継ぐつもりか!』
『弾劾でもするつもりかな?』
『それはアポロン、汝次第だ』
『弁解するつもりは無いけどね。私まで太陽神としての役目を担っていたらどうなってたと思う?』
『分かっている。汝の判断は正しかったであろう』
『でも別の神が新たな相克を生んでしまったか。新たな歪みも溢れ出してしまったみたいだねえ』
『思惑は外れたようだな』
『まあね。でもそう悪い結果でもないさ』
「あの、これって?」
『時空を超越して話をするのも味気ない。ここに来るがいい』
『嫌だなあ! 本気で弾劾する気でしょ?』
『それこそ汝次第だ。心配であれば護衛も連れて来るがいい』
『では、お言葉に甘えて』
アポロン登場
『汝の思惑は透けて見えている。どういうつもりだ?』
『分かっている癖に。貴方は先を見通し過ぎる。だから酷い目に遭うんだ!』
『主神の座を望むか』
『それそれ! 何で皆、そう疑うかな? 太陽神でも過分だってのに全能神なんて!』
『過分ではあるまい。能力ならば、ある。だがそれこそが罪と考えるであろうな』
『ご明察。だから距離を置くのは自然でしょ?』
『それはどうかな? 神殺しの存在をどう使うつもりであったか!』
『やっぱり弾劾するんじゃないか!』
『当たり前だ! 汝の意図する所は世界の破滅を望むのと同義なのだぞ!』
『それ、違うと思うけどなあ』
『破壊と創造は表裏一体。そうじゃないかな?』
『そして汝は新たな世界で主神として君臨するか』
『そんな面倒な役目を担ってどうするの? それに単に破壊するだけじゃ芸が無いでしょ?』
『汝の思惑は透けて見えると言わなかったか? 相克を断ってみた所で何も変わらん』
『変わるさ。それに世界を支える根源は主神の存在じゃない。知ってるでしょ?』
『大地母神か』
『話はそこまでだ。いたぞ!』
『森を抜けようとしている。逃げるつもりか?』
『結界を破るつもりか? だが、逃がさん!』
『全く、騒々しいねえ』
『どうなさいますか? 我等も助勢する事は出来ますが』
『新たな相克を生むだけだって。それよりも後始末の方を心配すべきじゃないかな?』
『後始末ですか。我等だけで手が足りますかな?』
『それこそどうなるか、予測出来ないって。それに手段ならあるさ!』
『やはりご自分で面倒事はなさいませんか』
『神にだって向き不向きがある。彼女なら適任さ』
『心配しなくていい。君の森だけど、荒れたとしても元の姿に戻せるから』
『安請け合いするのは感心しないわね!』
『でも、やるんでしょ?』
『やるわよ! やるけど、手伝いなさいよね?』
『話が分かるね!』
『でもいいのかしら? 本当なら彼等にこそ神殺しの力が要るんじゃない?』
『いいのさ。それにどうやら手遅れのようだし』
『良くないわ! 収拾するつもりはあるの?』
『なるようになるさ。介入してみても更に面倒な事になるだけだよ』
『嫌な預言ね』
『預言じゃなくて事実だよ』
『では相克を断つように扇動したのは何故?』
『なるようになるかな、と思ったんだけどなあ』
『適当過ぎよ!』
『もう、何なの!』
『どう? やっぱり荒れてる?』
『酷いものだわ。結界を破るのに相克を利用したみたいね。無茶な事を!』
『歪みはどうだい?』
『放置してたら大変だわ。キース、だったわね? 邪結晶はあるかしら?』
「えっと、ありますが」
『1つあればいいわ。このまま森を修復するにしても歪みを放置したままじゃダメみたい』
『制御出来るかい?』
『やるしかないわ。代わってもいいのよ?』
『任せるよ。適任じゃないってのは自覚してる』
『では、始めるわ。貴女達は周囲をお願い』
森の中には突如としてクレーターが出現していた。
木々が徐々に枯れている!
召喚モンスター達も近寄ろうとしない。
それだけ危険なのだ。
オレの体も思うように動かせない。
「これって一体?」
『歪みの影響だよ。このまま放っておいたら森が死滅だねえ』
下手したら拠点の召魔の森が消滅するかどうかの瀬戸際じゃないの!
「どうにかなりそうですか?」
『任せなさい!』
「お、お願いします!」
『我等も備えるとするか』
『ああ、そうだな』
『あら?』
「な、何か問題でも?」
『歪みはいいんだけど。地脈はどう?』
『僅かに遮断されている場所があるようです!』
『精霊達はどうかしら?』
『騒いでおります。近寄る気配がありません!』
『困ったわね。精霊が宿らない森じゃ意味が無いわ』
『もしかして、失敗した?』
『ちょっと黙ってて。大事な所なんだし』
『いや、多分だけどこれは違うようだね』
『じゃあ何?』
『すぐに分かるよ』
「何があるんです?」
『精霊達が騒ぐ理由さ。死霊が潜んでいるようだね』
「死霊?」
『死霊ですって?』
『感知出来なかったのも相応の理由がある。こんな形で相克を利用するなんてね』
『キース、迎撃の用意を。どうやら思っていた以上に事態は深刻だ』
「え?」
『困った方だ。魔神とも手を組むか!』
『辺獄で何を得て、何を失って来た!』
『神殺しに加担するか、太陽神!』
『死者の王たる神よ、では問おうか。魔神などに加担する意味が分からないな』
『分からぬか? 我等は神の領域をも超越する存在となるのだ』
『そして滅んだ世界で君臨でもするのかな? しかも信仰する者もいない世界で!』
『さて、それはどうかの?』
オシリスの周囲にいたマミー達から包帯が解けて落ちる。
現れたのは?
神々だ!
シヴァ、須佐之男命、フレイ。
そしてゼウス。
そう、ゼウスがいる!
『ありゃ、いたんだ』
『いたとも』
『貴方の事だ。神殺しの前に出て来るとは思わなかったね!』
『我もまた、神の領域をも超越するのだ。即ち神殺しの力も及ばぬ事を意味する』
『神の尊厳を捨ててでも、かな?』
『預言の子よ。汝が企図する事もまた同義ではないかね?』
『何の事かな?』
『隠しても無駄だ。我が大地母神の資格を備えた女神達にどう振る舞ったのか、知っていように』
アポロン神の表情が激変していた。
明らかな怒りの表情。
『ガイアの再来など、不要。如何なる大地母神も無用だ』
『そうやって全能神に固執する意味が分からないな』
『分からずとも良い。いや、我の立場にならねば分かるまいよ』
ゼウスの視線は何故か、アポロン神から外れる。
恐らくだけど、アルテミス女神を見ているようなのだが。
それが何を示唆するのか?
オレにだって予想出来るぞ!
『この人間は我に任せよ! 手を出すなよ?』
『承知した』
『時間はあるようで無いぞ? 急いだ方がいい』
どうやらオレの相手は須佐之男命になりそうだ。
『グッ?』
『これは?』
『まさか、カタストロフィ!』
『一体、誰の仕業だ!』
「シャァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」
『ッ?』
『貴様の仕業か!』
『死ね!』
『妙な事になっているようだな』
「お前は!」
『久しいな。だが今は挨拶をしている暇は無い』
オレの目の前にいたのは筋肉バカの魔神だった。
「後で話がある」
『奇遇だな。我にも話があるのだが』
「拳で語らせて貰うぞ?」
『承知だ。だがキースよ、お前はこの場を戦い抜いて生き残れるか?』
「そっちこそ!」
『またお前か!』
『そうだ。そしてまた、辺獄に送り返してやろう』
ルーズリーフの魔神は何やら悪態を吐きつつ森の中へと後退する。
それを追う筋肉バカの魔神。
『一体、何? 魔神同士でも争いがあるの?』
「ええ! 複雑な事情があるようで」
「あっちへ!」
『何よ! 暴れさせなさい!』
「私の配下がいます! 護衛をしてくれませんか?」
『貴方がやりなさい!』
ドラゴン一行合流
『来たぞ! 小さき者よ!』
『何じゃ、この有様は!』
『琥珀竜! 雲母竜! 無闇に森を焼くでない!』
『翠玉竜か!』
『汝の指示に従う義理などこっちには無い!』
『傍迷惑な奴等め! 何だったら汝等から先に拘束してくれようか?』
『そこを動くなっ!』
『フンッ!』
折角、オレを襲いに来ていた須佐之男命に筋肉バカの魔神が蹴りをいれてやがる!
『魔神如きが邪魔するか!』
『その魔神と組んだ神の言葉ではないな!』
「ガゥッ!」
『ええい、邪魔するな!』
ヴォルフと獅子吼に追い立てられているようだ。
何とゼウスだ!
『ッ!』
「やあ」
『何?』
『グォッ?』
「オラァッ!」
「イソシアネート! ムレータ!」
梱包し終えたらゼウスの身は氷の城に確保だ。
「ッ?」
『何だ? 何が起きた?』
『ええい、邪魔だ!』
プロメテウスら登場
『奴等め! 相克を強引に反転させたのだ!』
『そのような事が可能であるのか?』
『分からぬ。全能神故に可能であるやもしれぬが、世界の理を全否定せねばならん筈だ!』
『世界を統べる神にそのような事は出来るのか?』
『出来るであろうな。多大な犠牲を支払う事になろうが』
『何者かが加担しておるかもしれんぞ? 神に弓引く者達は?』
『悪魔達か。だが連中もまた世界の理に縛られておる』
『神の理に縛られぬ者達はどうだ? 自ら神を僭称するだけに侮れんが』
『魔神か。理の外に身を置くが故に可能ではあろう』
『無事であったか?』
「ええ。どうにか」
『この有様は、何だ? 事情が分からぬ!』
『ドラゴン達か! それに魔神共までおる!』
『優先すべきは分かっているな?』
「あのー、ちょっといいですか? ゼウスなら拘束して確保済みですが」
神々の動きが止まる。
『『『『『『本当か?』』』』』』
「ええ、まあ」
『『『『『『信じられぬ!』』』』』』
『その前にこの混乱を収拾せねばなるまい』
『然りだ』
「ドラゴン達には手出しは無用です。アンデッドは別ですが」
『しかし森を焼いている奴もいる。放置して良いとは思えんが』
「出来れば、放置でお願いします。あ、ゼウスの身柄はこの氷の城の中です」
『ふむ。ならばここを堅守で良いであろうな』
『堅陣を敷け!』
一旦戦闘終了
『ムッ?』
『どうした!』
『追加が来たようだ。仕掛けて来るぞ!』
オーディンら合流
『我等が兄弟はどうなっている?』
「さて。どうしたかな? 死んでいるんじゃないの?」
『神殺しよ。神を殺せるからといって自惚れるな。神に偽りを告げる罪は消えぬぞ』
『天界の破壊者よ。天を堕とす事は出来ても不滅なる存在もあると知る事だ』
「悪い。理解出来ないんですがね」
『汝はそうやって、考えるのを止める性質であるようだな』
『汝の場合は理解出来ないのではない。端から理解するつもりがないだけだ』
「ご明察。でもね、どうなっているかは目で見て欲しい。こっちは口下手なのでね」
『うむ』
『これ、神殺しよ!』
『何という事を! これでは殺すよりも酷い!』
「そうかな? では質問。あそこにいるプロメテウスにこのゼウスは何をしたんだっけ?」
『むむっ?』
『罪人に罰を与えるのは当然の事。我等が兄弟の権限のうちだ』
「そうかい。なら追加で質問。最高権力者の罪には誰が罰を与えるんだろうね?」
『クッ!』
『己の罪は己で裁く、その厳しさが肝要であろうな。それでこそ全能の神として相応しい』
ハデスはポセイドンよりも冷徹であるらしい。
酒船がその手に吊しているゼウスだ。
流れのままに梱包したんだが、偶然にも逆海老の姿で縛り上げられていた。
『神殺しよ。何故殺そうとしない?』
「そんな暇が無かったよ」
『違うな。汝は意図があって殺す事を躊躇っている』
「そう思うかい?」
『聞こう。汝の望みを叶えてやっても良い。何だったら汝も神の列に加えても良いのだ』
『汝は魔神となる誘いを断っていると聞くが。我等であれば他にも色々と与える事も出来るぞ?』
「例えば?」
『あらゆる欲を満たしてみせよう。酒も、食事も、女も、何もかもをだ!』
「では、戦いはどうだ? 1対1で存分に戦える相手が欲しい」
『聞きしに勝るとはこの事だな』
『望んで修羅道に落ちるか?』
「須佐之男命でもトールでもいいよ。理想の相手ならあそこにいる魔神だけどね」
オレの指し示す先には筋肉バカの魔神がいる。
『無茶を言う!』
「そこは嘘でもいいから承諾する所じゃないのか?」
『我等もまた神。制約と誓約は守るとも』
『キースよ、下がれ!』
『何者だ?』
『待て、害意は感じ取れぬ』
『何だ? 地脈の流れがおかしい!』
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